ジャックポット……しても報酬は、まあ、うん。
来る妹を 待ちて焦がれて 気が違う めたりあ
「流石に騎士団を動かすのは難しい、身内の問題だ。それに動かせる大きな戦力は、手元に置いておきたい、念の為にな……お前達しか向かわせる事はできん。頼りにしている」
「お任せください旦那様。このような時の為に、少ないながら腕利きの者達は取り揃えてあります。少なくともお二人だけは無事に送り届けてみせましょう」
雰囲気が引き続きやばし。爺の瞳に何時ものお遊びカケラも見えない。しかも私すら見た事ない、明らかに堅気とは思えない、すっげえ人相の使用人の方々がズラって並んでおります。大公家なんて薄暗い部分なんていくらでもあるけどさ……
「お前の仕込みは真っ向勝負に唾を吐き出すようのものばかりではないか。それが失敗するのであればもう他に手はないだろう」
「そこまで買っていただけている事、光栄に思います……」
この方々、要するにガチ暗部やないか! 爺って要するに大公家の表と裏の実働隊の長なのかい! そりゃドチャクソ有能な訳だよ! け、けど分かるよ。後ろの極道の方々より今の爺の方が凄みありますもんね! ただのオールバックも恐ろしく見えるよ!
「では、行ってまいります。夕方には、戻れるかと」
「うむ。動けぬ私の代わりに、頼む」
ちなみに今、私はお二人のいる玄関前エントランス、そこに通じる食堂の扉から、こっそりこの様子を眺めております。ふふ、スネーク……いや、そこまで見事な隠密でもないけどさ。あ、爺が手ェ振ってる。いってら〜。
「……爺がついてれば怪我なんてあり得ないし、大丈夫か……さて、もう一人のお方の様子を見てみようかな」
親父が爺に妹さんを頼んでいるように、お母様も今、とある場所で相当本気でとある方々にご指導をされてらっしゃいます。え、どなたかって? それはもう、えらいゴツい方々ですよ……
「……白鯨諸君。今日は、良き日、と言えるかどうかは分からないが……私の大切な家族が、増える日だ」
「「「ウィ、マダム!」」」
純白の、鏡のように磨かれた特注製の鎧に、大公家の家紋の掘られた、これまた特注製の鎧。そう、私の遠乗りを護衛してくださった、我が家の騎士団の皆様です。白鯨騎士団っていうのが正式名称になります。
「私も当然、家族を守る為に微力ながら、最善を尽くすつもりではある。だがそれには当然限度というものがあるだろう……だが、諸君の協力があれば、そんなものは無きに等しいと、私は信じている」
屈強な男達が、シャツとパンツでシンプルに決めた、美しい麗人を目の前にびくりとも動かない。そりゃそうだ、催眠かけようと薬盛ろうと、目の前のお方には、指一本触れられない、それくらい実力の差が離れている事を、しっかり理解しているのだ。
「私が陣頭指揮を取る。万が一刺客が現れようと、一切の容赦を許すつもりはない。全力を尽くせ! 大公家栄光の精鋭達よ!」
「「「ウィ、マダム!」」」
ただ一言、それだけでゴツいにーちゃん達の背筋が伸びる伸びる。まあここの人たちでマダムに勝てた人、一人たりともいないらしいからなぁ……っていうか、母上様の後ろに置いてあるあの鎧って確か、騎士時代のやつじゃなかったけ? 軽くて強いってやつ。不届き者あらば自分で仕留めようって気が凄まじい。
「では、持ち場の割り振りを……そこ!」
「は、はいっ!」
「背筋が伸びきっていないな、疲れているのか?」
「あ、いえ……」
「では確と背を伸ばせ! 騎士はまず姿勢を正すところからだ、それを叩き込んでおくと良い。分かったか?」
「は……いや、ウィ、マダム!」
おや、珍しい。ウチの騎士団て、実力もそうだけどその規律の引き締め方がかなり有名だってのに。背筋が伸びてないだけでも相当に珍しいんだよね。
「……うっ」
「「……」」
あ、やっぱり周りからジト目で見られてる。鋼の規律が基本だもんねぇ。まああの人は若手なんだろうなぁ……ちょっと後でお菓子でも持ってってあげようかな。まあ屈強な兄ちゃん達に睨まれて精神的にキッツイだろうし、雇い主の一族としては、少しでも励まして上げられればと。
「キッチン行って色々仕入れてこよ。まあバレないでしょ……」
どうせ妹ちゃんが着くまで暇やしね。良し良し、レッツゴー……する前にちょっと外行っとかないと。
「うーむ、案外コックさん達が鉄壁だなこれ……」
まあ妹様、とは知らなくても重要なお客様が来るとは言われてるし、キッチンが慌ただしくなるのは分かるけど、さ……よしゃ、少し本気見せちゃろ。
さて、手元に取り出したるは先ほど家の外でこっそり拾っておいた庭の小石。
「……棚の上に、木のボウル……あれが狙い目かな。よっしゃ」
それっ! 投擲!
さーて天を舞った小石が向かう先は、私からは大きめのクッキーくらいに見える木のボウル。さあ、如何でしょうか……オッケイ軌道完璧、そのままそのまま……オッケイ!
「……っ、なんだ?」
「ボウルが落ちたんだ。でもおかしいな、落ちるようなところに置いて置いたつもりないんだけど……」
ジャックポット! さて気が逸れた今がチャンス。狙いは端の方に置いてある焼き菓子の入ったバスケット……ふふ、慣れてるって? この世界で投擲の腕を磨く機会はそうないからこれで磨いてたんだよねぇ。お菓子は美味しかったですよ?
「……む、結構あるな。今日は大収穫だ……では、アデュー?」
ふ、前世からの記憶チートと磨いた特技でやるのが、キッチンの菓子のちょろまかしとくらぁ……自分のショボさに泣けるぜ。
投石技術の役立ちポイントその1。
やってることがしょーもないのはお許しください。