教室関係の複雑怪奇 その三
「ふ、巫山戯るなぁ! オースデルク! 貴様ぁ!」
どわぁっ!? な、なんだよ急に!? っていうか顔真っ赤に、え? もしかして怒ってらっしゃる!? え、なんで!?
「優しくしてれば付け上がって、バカにしやがって……この野郎!」
「いえ、バカにしたつもりはないのですけれど……えっと、一旦落ち着いたらいかが?」
「落ち着いてたまるか! 絶対に許さないぞ!」
う、うわこっち来るよ!? ちょ、ゲンコツ振り上げてますよ!? 嘘だろ、こんな衆人観衆の中で……いや待て、小学生くらいの男子ってそんなもんだっけなぁ……しもうた考えなしに煽りすぎたかぁっ!?
「ウゥゥゥゥゥッ!」
「し、仕方ないですわねぇ……」
これは吾輩の自業自得であるからして……一撃受けるしかないかなぁ。良し、前世での部長のパワハラ寸前の某アントニオ式の気合注入を思い出して耐えよう……
「——待ちなさい! この痴れ者!」
——パァン!
「べぶっ!?」
とか思ってたらファラリスちゃんがビンタで男子が綺麗に宙を舞うぅ!? え、えっ!? どうして!? いや、急にどしたの!? 何があったの!?
「全く、私を無視して話を進めようとしたばかりか、乱暴を働こうとするなんて……」
「な、なんだ……お前は関係ないだろう、退いてろこの成り上がり者!」
男子は男子で完全に切れてるし……さっきビビってその類の事喋れなかったのにもう吠え立ててんじゃんかよ。感情が暴走してるよ。あれ、私に向けられてたと思うと……あれっ? さっきの私って結構危なかったりしました?
「……それについては後ほど言うとして、関係がない? 笑わせないでくださいません? 貴方が貴族で、そのような行動を取っているだけでも、関係は大有りです!」
「な、んだとぉ!?」
とか思ってたらファラリスちゃんの方が怖い! 目が、目がカッて、カッて見開かれてる! なんか、鷹とか、龍とか、虎とか! そんなん思い出すくらいビンビンに迫力が!
「私、貴族たるもの、気高く、強くあるべし、そう考えています」
そしてカッコつけていく! 顔に手を当ててもう片方の手を後ろに振ったこのポーズ! 私にゃできないこの見栄はりよ……
「しかしっ! 私だけがそう思っていてもなんの意味もありません! 世の中には、貴方のように貴族としての高潔さも忘れ、すぐに暴力に訴えるような、低脳ばかり!」
「うぅ」
……私、端から見ているだけだと言うのに、ビビっちゃう。あんな剣幕で、あんな視線で、詰め寄られたら……多分私は声も漏らせず震えてるだけだと思う。コワイ!
「許せませんのよ! 貴方の様に! 貴族の気高さに泥を叩きつけ! 塗りたくりに塗りたくって! 汚すだけ汚して知らんぷりをしているようなそんなぁ!」
「ひっ!? あ、あの、その、え、エリィア、さ」
「だまらっしゃあいぃ!」
「ヒェッ!?」
こ、怖すぎる! もう瞳が縦に裂けてるようにも見える!? 幻覚だろうけど! でも私から見たらもう般若とか夜叉とかそんなんです! 泣く。って言うかごめん、もう若干涙目です。
「いいですか! 貴族とは! 誰よりも高潔である事を求められているのです! そうでなくては貴族足り得ないからですわ! いいですか! 貴族であるならば! 直ぐに頭に血が上り、怒る! 更に野蛮な行動を取る! そんな真似をするべきではない!」
あ、もう言葉すら発せないでビビりあがって動くことも出来てない……縮み上がっちゃって震えてるだけ。さっきまでの剣幕はどこへ行った。
「いいですか!? 貴族だと言うのなら、もう少し考え、冷静に行動をしなさい! 貴族ならば! 貴族である、と自覚をしているのならば!」
「あ、ぁぁ……」
ついに尻餅までついた……って、ちょファラリスさんそろそろお辞めにならないと! それではただの弱い者いじめになりそうでしてよ?!
「ファ、ファラリスさん、それくらいで」
「ええい邪魔をしないでください! この男にはしっかりと貴族としての道を説かねばならないのです! それとも! 今ここで貴方への不満も!」
「気持ちは分かります……けれど、それで貴方が激昂しては、貴方が嫌っている貴族と同じになってしまうわ……ここは、グッと堪える時ですわよ、ファラリスさん」
「っ! ……そ、それは……」
「自らの目指す通り、それを目指すのであれば、ここは」
……ぐぬぬ、って顔になってくれたけど、さぁ、どうだ。
「……ふう、私とした事が、冷静さを見失っていましたわね。業腹ですが、貴女の言う通りですわ、オースデルクさん。お手間を取らせて、申し訳ありません」
「いいえ。この程度、手間などではありません。お気になさらず」
変に借りとか思われても面倒だし、実際手間とか思ってないしね。
「……ほわぁ……」
「すごい、二人ともかっこいい……」
「本物の令嬢って、ああ言うのを言うんだなぁ……」
「ああやって、はっきり、しっかり、なんでも言えるように……僕も!」
まぁあの男子にはいい薬……だったって事で。あ、もうどっか行っちゃってるし。まぁでも、私もあんだけ叱られたら逃げ出すだろうからなぁ。
「左様ですか……ん?」
「えぇ、そうですわよ……あら?」
……なんか、私たち、注目されてないかしら?
「……どうしてこうなったのかしらね」
あ、ファラリスのとこにまた行った……これで五人目か。また玉砕だろうけど。
「……モテてる、とは思えないのよねぇ」
実際結構整ってる女の子のしっかりとした反論とか演説って、かっこいいと思うんです。