幕間:勉強会がスムーズに進んだ訳
「……中々にいい時間を過ごさせていただきましたわ。一応、提案者、そして主催の貴女にお礼を言わせていただきます。ありがとうございました」
「いいえ、そんな。私としても、非常に勉強が捗りましたので、お互い様、ですわ」
フゥ……疲れました。正直、いきなり出て来た出来事でしたので……ある程度対応策をとって来たとはいえ、実は勉強中とか、ずっと背中汗まみれでしたわ……この勉強会が始まる直前で、ペーネロトと話し合った内容……
「……フゥ……あ、シノブ。行きますわよ」
「承知しました」
……向こうの従者に凄い視線を向けてましたわね。サボったりペチャクチャおしゃべりをしているよりは良いとは思いますけど、それにしたとしても……うーん。
「……何であんな、親の仇でも見るような凄い視線を向けていたんですの?」
「え、この人そんな顔してたんすか、お嬢」
「えぇ。それはもう物凄い顔を……まぁ、良いですわ。今それを聞くときではないでしょうし。部屋に着くまでは、置いておきましょうか」
いえ、気にならないといえば嘘になるんですけど……この従者、この見かけによらない程に内面は色々と問題ありなので、この二人の前では、悪い影響を与えそうで話させたくないのよね……
「……承知いたしました」
はぁ……この従者の事も、学園生活内でなんとか出来れば良いのだけれど……今日のような予想外が連続していくなら、ちょっと難しいかもしれないわね……私、なんでお父様より小さい、こんな年齢でこんなことを考えねばならないのでしょう。
「……また、ペーネロトに相談しようかしら」
「……話を纏めると、ルキサとエーナを連れて行くのは、勉強の間、万が一にも相手のペースに飲まれないで、冷静に居るためだと、なるほど……私が切れるの前提ですか?」
「そうなるね。一人でパニクったりするとブチ切れる、というのが君のパターンだから」
……いえ。その判定というか評価は、間違っていないと思うというか、心臓を射抜くが如く正確で、容赦のない一矢だと思いますけど……
「……ちょっと、というか、だいぶ心にきたんですけれど……」
「正論というのは心にくるものだよ」
まぁ、それも間違っていませんけれど……もう少し冷徹さを抑えてくださるとありがたいです。私の心は陶器よりも脆いですので……
「……心を鬼にして、ファラリス、君の心にくるようなことを言わせてもらうと、君がメタリアさんに対して、明確な暴走したのは、君が一人て居た時……メタリアさんとの最初にあった時だけだ」
「……いえ、そうとは限らない、と思うのですが」
教室にいた時もその、嫌味ったらしい発言はずっとしていましたし?
「いいや、教室で彼女とぶつかった時も確かに色々と言ってはいたけど、激昂はしていなかったし、引き際をちゃんと弁えていたからね。最初の時のように一切の遠慮も何もせず爆発するような真似はしていない……まぁ、僕が対策を言ったというのもあるけど」
「そ、そうですわ! ペーネロト……というか、貴方のお父様がが怒らないようなコツを教えてくれたからで……」
幾らなんだってそんな分かりやすい気質な訳が……そんな訳が!
「それも、君が『貴族としての誇り』がしっかりと我慢をしてくれるようなタイミングをお父様が見極めていたからだよ」
「えぇ!? 私おじ様にそこまで見抜かれていたんですの!?」
わ、私そこまで分かりやすい女なのかしら……に、二重でショックですわ。
「というか、『一人にしなければまずあの子は怒らないから、それらしい理由と混ぜて一人にはさせないようにしよう。分かりやすいって遠回しにでも伝えると、落ち込んでしまうからね』とも言っていたよ……」
……思わず頭抱えてしまいましたけど、そうもなるでしょう!? 私の本質をあっさり見抜かれていた上に、冷静に気まで使われていたというのがあまりにもショック……!
「……こう、なんとも言えない、情けなさと、ありがたさと、は、恥ずかしさと……!」
「うん。気持ちはわからないでもないけど、でも今は置いておいて……兎も角、当日は絶対に小さな事で怒ったりしないように気をつけてね」
「は、はぁ……」
「君の事をとても慕ってくれている二人の前なら、君はきっと冷静にいれると思うよ」
……え、笑顔で言われるのも結構恥ずかしいというか……! うぅ、恥ずかしさを塗り重ねられてる感じですわ……ゾワゾワしますわ……!
「まぁ、これで僕からの、当日での対策はおしまい。お父様の立てた対策を参考に、僕が考えてみたんだけど……どうかな」
「的確すぎてもう泣きそうですわ……ふふ」
大人の階段を上った気がします……こんな形で登りたくはなかったですけれど。
「……後は、あの従者さんも連れて行くといいと思う」
「シノブも?」
「……ないとは思うけど、彼女の従者は自分の家から連れてきた腕利き、彼に命じて乱暴してきたら、君たちだけじゃまず太刀打ちはできない。万が一の事を考えて、ね」
「……不必要と言い切れるほど、彼女の人となりを知っているわけではないですからね」
シノブにも、声をかけておくとしよう。
「まさに完璧な対策だった……でも流石ね、あった事もないあの女の情報を知ってるなんて……流石はペーネロトだわ」
「……」
「? シノブ、なんですの?」
「いいえ……別に、なんでもございませんとも……はい」
……なんで笑っているんでしょう、この従者。
報復令嬢も色々考えていますが……ちょっとした不穏の種をまいておく。