お願いロイくんまじ助けて
「本当に大丈夫なの? 無理しないでね?」
「ええ大丈夫。本当になんでもないわベスティ……大丈夫よ。うん。タダの物凄い立ちくらみだったみたいでね……もう平気だから」
危なかった。ロイくんに抱えてもらって走ってもらわなきゃ、医務室に着く前に滑り込めなかった……ギリギリ誤解も解けて、一安心。っていうか誤解が解けてなかったらどうなっていた事かって話。
「それでも立ちくらみがする、という事は調子が悪いという事ではありませんの?」
「いやそうでもないから大丈夫よファラリスさん。ご心配おかけしてしまって、ごめんなさいね。もうすっかり大丈夫ですわ」
「……貴女自身がそういうのであれば、まぁ、構いませんが」
よし、誤解は解けた……セーフだ。いやー助かった助かった。変な誤解されて大事になるのはホントこれ以上はお腹いっぱいなので。いやーロイくんのお陰で助かったわ。
「しかし、一応確認しときたいのですが、本当に大丈夫なのですか? また先ほどのように調子を崩されて、勉強会が中断など、シャレになりませんわよ」
あー……それはまぁ、確かに。私自身『さっきは調子崩したっぽい感じがしましたけどやっぱり大丈夫ですわ』とか言われたら、本当に平気か無理とかして余計な手間増やすことにならないか? とか考えそう。
「……えぇ、我が従者は多少ながら医の心得があります。彼曰く今日一日は平気だと」
「左様ですか、まぁ大公お抱えの従者であれば……信用はできますか」
よし。ここで大公ブランドが生きた! いやー大公でよかった……!
「……」
問題は、だな。うん。先ほどからこっちを酷く不思議不思議そうな視線で見つめてきている方……ヘリメルちゃん何だよなぁ。いやー、さっき『もう平気になりました』って言った瞬間にこっちに明らかに視線を向けてるんだよなぁ。
「……」
「ヘリメル、どうしたのメタリィをじっとみて」
一切視線を背けないしずらさないし、逃れられないんだよなぁ……無邪気で無垢で透き通った視線なのにまるで槍の如く鋭いっていうか……一切の言い訳を許さないっていうかそんな事したらどうなるか分からんというか……
「……さ、さ。勉強を再開しましょうか」
「そうですわね。体調が復活したらなら、研鑽の続きですわ」
「え、えぇ……(チラッ)」
へ、ヘリメルさんの視線が鋭いですわ……誤魔化したりは不可能みたいですし、落ち着いて冷静に後で対応させていただきましょう……うん。
あ、そうだ。これだけはやっておかないと。ま〜たパニクるかもしれない。
「今を逃すとタイミングはもうないわね……ロイ、少しお願いのあるのだけど。勉強会の間、部屋の外に出ていてくれるかしら」
「え? それは、まぁ構いませんが……何故いきなり……あっ」
「ちょっと理由があるのよ。うん」
いきなりなのは自覚してるからちょっとここは勢いで押し切る。っていうか、いきなりさぁ、わざわざ部屋の中で私を守ろうとしてくれるロイくんに出てけ、とかドクズだと思うけどさ。
「私達を守るためなのは分かるわ。けどこの中にいては貴方の剣の腕を活かせない。狭い室内に子供が六人……私は、貴方が子供に剣をぶつけても平気でいられるほど、冷徹な性格をしていない事を知っているわ」
「……それは、その」
「私達を守るのであれば、この部屋の唯一の入り口の前を守っていて欲しいのよ。それなら周りに一切考慮せず、剣の腕を生かす事も難しくないわ」
……とか言ってます。はい。嘘ではないと思います。ロイくんは優しいからこんな子供だらけの部屋じゃ実力を生かせない、と思うのは。でも、ね。本当の理由はそれではないんですよ。
「お嬢様……は、そういうことであるならば」
「ごめんなさいね……ファラリスさん、あなたの護衛の人も、同じ理由で外にいた方がいいと思うのよ。どうかしら?」
「ふむ……そういうことなら、シノブ。貴方も扉の外で守りを固めてくれる?」
「……承知しました」
ヨシっ! ありがとうファラリス……納得してくれて。何の脈絡もないとか突っ込まないでくれて。ありがとう……いやまぁ突っ込みにくいタイミングだと思ってここを狙ったんですけど。
「何かありましたらお呼びくださいお嬢様」
「えぇ、ごめんなさいね。外に追い出すような真似をしてしまって……くれぐれもお願い」
「承知しました。それでは」
……ヨシ。行ったな……うん。はい。皆様お察しの通りです。さっきの迫力再現されるとシャレにもならないからさ。体のいい言い訳を用意して追い出しました。
「さ、勉強を再開しましょうか。これで部屋の中に賊が入ってくる可能性は、全くの無となりましたから」
「そうね。さっきの続きからかしら?」
まぁ、追い出したのは向こうの従者だけなんだけどさ。ロイくんは最初の方で察してくれて、突然の提案にも突っ込みを入れず、冷静に出て行ってくれました……感謝。マジ感謝。そして。
「……後で説明しよ」
「?」
まーだ私の方向をじっと見てくるヘリメルは、今は、はい。そうね。放っておきましょうか……(現実逃避)
主人の無茶にも応える万能従者、それがロイくん。