善意は時に悪役令嬢の心を抉る。
さぁて。日取りは伝えてある。紅茶と菓子も準備済み、ってな。でもって後は本人が来るのを待つだけ。これですっぽかされたら、私の人徳を疑うレベルよね。いや、人徳なんて殆ど無いに等しいけどさ。
「……さぁて、後は」
後ろで明らかに不満ですっていう表情をしていらっしゃる我が親友殿をどうにかせねばならんかなぁ。うん。
「あの、ね。ベスティ? 納得、してくれたのよね?」
「納得もしたし、理解はしたわ。けど。不満がないとは言ってないわよぉ」
あっはい。そうすか。確かに言ってないですね、ベスティさん。そんな弁論操れる様になってるとか、いやー成長なさいましたなぁ、レディ。
「ふふん、最近のメタリィの言い回しを真似てみたのよ。どう?」
「そんなんラーニングしなくていいのよ……? ベスティはいつもの優しくて可愛いベスティのままでいて欲しいわ、私個人としては」
腹黒いベスティとか見たくないです。そんなもん見た日にゃ泣いて神に祈るよ。お願いですから元に戻してくださいって。私のせいだって言われたら? ……その時は荒野に首でも晒すまでよ……ハハハ。
「……あの子一人ならまだしも、あの子の周りまでついて来るなんて……聞いてないわよ」
「いやぁ、それに関しては私も驚いているのよ? 本当に。了承の返事が来て、その直後くらいだもの……追加の伝言が来たの。本当にびっくりしたわ」
ほんと。リビドアさんが申し訳なさそうな顔で、『あの子から追加の伝言よ』って。ちょっと息乱してたあたり、ほんと急の伝言だったんだろうねぇ。
「まぁ、でもどうしてそんな事をわざわざ伝えたのか。それは別に気にしてないわ」
「……呑気ねぇ。もしかしたら、あの子が口に出来ないほどの悪い事を考えてるかもしれないのに。ちゃんと警戒しなきゃダメよ」
口に出来ないほどの悪い事……えーっと、あれか。百合的な薄い本では厳禁な、こう囲まれて徹底的に虐められる、みたいな。そんな感じかな?
「悪い事、ですか!? い、いったいどんな悪い事を!?」
「例えば、あの子がメタリィの気を引いている間に、取り巻きの子達が、メタリィが記帳してる所に……落書きをして勉強の邪魔をするとか!」
「な、なんて酷い……! そんな事されたら勉強が捗らなくなってしまいますわ!」
あら(発想が)とっても可愛い。
「もしくは、メタリィのメモを見てメタリィの勉強を全部真似してしまうとか!」
「め、メタリア様が頑張って書いた内容を、努力しないで見ただけで……悪い子ですわ!」
……この子たちの会話を聞いてると、自分が非常に汚れているように思えてくる。どうしてでしょうか。発想が全然さぁ、私が明らかにこう、汚れた発想してるのに対し、あの子達の可愛らしい発想が……
「辛いわ……」
「どうしたのメタリィ!? 悲しそうな顔!?」
「あの、もしかしてお腹を壊したとか! た、大変です!」
「いいのよベスティ、ヘリメル……自業自得の極みのようなものだからね」
さて、ロープはどこだったかなぁ……首吊る準備をちゃんとしとかないと。
「め、メタリィ!? 凄い顔色が悪いわ! 本当にどうしたの!? お、お膝貸しましょうか!? ちょっと横になる?!」
「はわわ……お水お水! お父様は具合が悪い人にはまずお水って!」
……可愛い可愛い二人の優しい気遣いが、逆に私を傷つける……引き裂くように、切り裂くように……優しい言葉って時に人を的確に傷つけるのね……ウゥ。
「もう無理……辛い……二人とも大好きよ……」
「えっ? その、メタリア様、その、私もメタリア様の事、大好きですよ」
「私も大好きよぉ! メタリィ! だからしっかり!」
あぁ、こうして私のことを慕ってくれるお友達の中で、罪悪感で息絶える……というのは……存外、悪く……ない……
「失礼しますわ……って、何をなされているの? そんなところで」
「ファラリスさん!」
「くっ、この女に何か頼むのは業腹だけど……でもメタリィの為だもの! 仕方ない、お願いファラリス、大人の人を呼んできて!」
「いえそこまでしなくて結構ですわよ!?」
あまりにも大事にするのは止してください。泣きます。
「……で、急に具合が悪くなったオースデルク様を介抱していたと?」
「えぇ……ちょっと持病の癪がありまして」
「それ、大抵の場合嘘の言い訳じゃありませんか?」
「今回ばかりはそうでもないのですよ……えぇ、本当に。ここの病なのですよ」
胸をトントン。ハートなんですよ。心。体のダメージじゃなくて。分かる? 側から見えない、とても辛い病気なんだよ。分かる?
「心臓の病? 本当に持病なんですの?」
「あ、いえ、そこがじゃなくて……えっと。その、マインド的な」
「良く分かりませんわ」
うん。分かんないのが正常だと思いますよ。私の感性がそれなりにクレイジーな訳でして。頭の中を開くじゃん。それ見せたらもう、そりゃ深淵よ。
「……兎も角、皆様も連れてきましたわ。今日はよろしくお願いしますわね?」
「えぇ、こちらこそ。」
うん。後ろからこう、なんとも言えないような視線を向けていらっしゃる方、補佐お二方が。なんとも、敵対って言う感じの視線ではない、なんて言うか。
「へぇ……ここが、大公令嬢のねぇ」
「広いですわ……」
……美術館に初めて来た小学六年生?
我ながらダラダラと続けておりますが……まぁ、最初の彼処に至る為、ちょこちょこ積み重ねていきたいと思います。