お嬢様と文学史の死闘
ふふ。いやー、こう、すごい爽やかな気分! 入学してから向こうにしてやられっぱなしだったからね。初めて私が一手を打てたんだ。いやー良い。最高。おかしもスルスル胃の中に入っていく!
「……さて、どう出るかしらね。ふふ」
「お嬢様、口元がお菓子のクズまみれです。全く格好がついておりません」
うっせいやい。自覚はしてるわ。さっきからポリポリポリポリ、バカみたいに食ってるからね。それでもちょっとは風格を保とうかとカッコつけてたってのに。
「とはいえ、今は私が出来る事もないからねぇ、こうやって、部屋の中でカッコつけるくらいしか……あ、いやメッチャあったわ。自習しないと……」
「まぁ、そうですね。学業を疎かにしてはいけません」
うーむ、何するかな……相性悪いにしてもやらないという選択肢はないし、文学でも嗜んでみようか。とかカッコつけても要するに国語なんだけど。
「うーん、そうなれば……ロイくん、ちょっとこっちに、お父様から借りてきた文学書全部こっちに持ってきて」
「分かりました……図書館から借りてきた本の返却期限が迫っているようですが」
「後で返しに行くから、申し訳ないけど手伝って貰えない?」
「えぇ。分かりました」
図書館から借りたのは、文学っていうより最近の流行りの本、何方かといえば理論とか書いてる実用書。いやー文学を学ぶのに適さない適さない。
「いやー自分の事ながら、阿呆の様に借りてしまった。本当迷惑かけてごめんね」
「お嬢様のお役に立てるのであれば、なんて事も」
いやー、本当出来た子を拾ったよ、私は。
「さーて、始めようか。返事が返ってくるまでの暇つぶしだけど」
ま、ガンガン進めて、なんなら返事が来るまでにキッチリ仕上げるのも悪くない。どこまでを範囲に含めるかだけど……
「うーん……とりあえず無理しないレベルでなんとかやってみようかな」
さて先ずは……あっ、もう書き出しから色々凄い形容詞の独特な使い方をなされていなさって……う、文学史拒否反応が体を破壊する……
「く、頭痛が……」
「はいはい。ふざけていないでさっさと進めましょうね、お嬢様」
「く、ロイが私に甘くない……何故だ……大丈夫ですかお嬢様とか言ってくれると思ったのに……悲しい」
ロイくんに厳しくされると殊更悲しいのは何故なのか……
「統括が、『お嬢様が文学系に取り組み始めた時は要注意。お嬢様が確実にヤル気を失ってダウンする。そうならないようにきっちりと背を押さねばならない』とおっしゃっていました」
「爺ィィィィイイイイイイ! 余計なことをぉぉぉ!?」
私の可愛いロイくんに何を吹き込んでくれてるかあの性悪! いや性悪じゃないけど私の事を慮ってくれての発言だとは思うけどさぁ!
「にしたってそんな容赦ない詰め方しなくてもさぁ……泣くわよ私」
「ちゃんと頑張れば、身にならぬことはありません。お嬢様、頑張りましょう!」
ウゥ、ロイくんありがとう……爺に入れ知恵されても優しいねぇ……ウゥ。
「幸い、私もある程度は文学には明るく、お嬢様のお役にも立てるかと思います」
「ろ、ロイ……!」
よ、良かった。私にも頼れる従者が……いや、さっき疑ったばっかりでこの感想はあんまりにも手のひら返しにすぎるか……自重しよほんと。
「さぁて、じゃあ始めるとしましょうかねぇ!」
「あぁ〜……ひと段落、ついたわねぇ……いや、良くぞついたというべきかしら」
「お見事にございます、お嬢様」
我が全力を費やしちゃったと思う。でも我が全力なんて微々たるもんだけどさ。ぶっちゃけロイくんの助け七割……いや、八割くらいかなぁ。
「いやぁ、私、奇跡起こしちゃったわよ……ふふふ、多分普段なら有り得ないくらいの実力を見せてしまった……」
「ではこれからもその奇跡をご期待せねばなりませんね。まだまだ文学史の勉強は終わりませんから。むしろこれは入りも入り、触りですから」
「はぁ!? うっ、持病の癪が……ちょっとお布団に」
「ダメです。というかオフトゥンってなんですか、ベッドでしょう。多分」
う、前世日本の記憶が……っていうか、これで触りってなんなんほんと、呪われてるのか文学史。ツーか呪われろ文学史。二度と私の前に出てくるな畜生。
「あぁ……ほんと、どうして文学史なんていうものが……」
『失礼するわよぉ』
っと、この声はリビドアさんだ。ってことは、きたか。
「ロイ、開けて差し上げて。どうやら向こうの腹も決まったみたいよ?」
「承知しました。寮長殿。お入りください」
お入り、の段階でもう扉に張り付いて鍵をあっさり開けてるあたり、やっぱりロイくんは色々ずば抜けてるなぁホント。この子をどうにか出来る奴なんて居ないわ!
「……そういえば、あの子のところの真っ黒従者さんはどうなのかしら」
あの子も凄そうだったよね。ロイくんも結構すごいって言ってたし。一回くらい実力見てみたいなぁ。
「……あの黒い従者について、気になることが?」
「ーーえぇ、貴方が評価したのだもの、気になるでしょう?」
「それならば、何れ時が来たならば……ご覧に入れましょう」
ご覧に入れるって……え? 仲良くなったの? 演舞とか見せてくれたりとか?
「今は宜しいでしょう。さ、来ましたよ」
「はぁい、メタリアちゃん。こんばんは。あの子からのお返事よ? 了承した。って」
……ふむ、そうか。なら。
「ありがとう、寮長様……第一段階、成功ね」
何事も苦手ってあるもの。