親父に関わるトンチキな事
親父は、大公様だ。偉い。
うんごめん、ちょっと訂正させて。そんだけじゃないよ。政治的にも優秀で、王家からの信頼も実に厚い。軍務に関しては本職には譲るけど、それでも十分こなせるだけの能力は持ち合わせてる。
「当然、大公であらせられる旦那様は敵も多いです」
うむ。その通り。出る杭は打たれるというが、それを文字通り、親父は体現している。王家のお気に入りという立場は、兎にも角にも嫉妬されやすい。
「うん。それは分かってる。偶に竜でも殺しに行くみたいな表情していることあるときなんか、お父様を嫌いな人とやりあった後だもんね」
「旦那様にお聞きになったのですか?」
「『全く、蜜に集る蛆虫どもの相手は疲れるよ』と言っていただけ。けど、お父様の働いている場所の事を考えれば、どういう方なのかは、まあ」
「なるほど、流石はお嬢様というべきしょうか……その通りです。政敵共は旦那様への嫌がらせ、攻撃に関して余念はありません。ご家族の方々に脅威が及ぶ可能性も、十二分に考えられます……ですが、旦那様のお妾様、メトラン様とそのお嬢様であるアメリア様については……」
「ごく限られた人しか、知らない」
私みたいなトンチキが知ってるけど。まぁ私がトンチキだからっていうのもあるけど。トンチキは褒め言葉でもあり罵倒でもある。光と闇が合わさって云々みたいだな。
ともかく、大公家のトップシークレットなわけだ。
「そんな妾さんの事、チンドン屋見たく派手に吹聴して回らんもんね……」
「チンドンヤ……確か、東洋のサーカス団の一種でしたかな」
「おおおう想定以上に博識爺でビビっちゃうなお嬢様ぁ!?」
いやなんですかそれって言われて適当にお茶でも濁して空気を和ませようかと思ったってのにバチコリ当ててこられると困惑が強い。
「まあ、統括ですので……ともかく、この情報は厳重に秘匿していたことは確か。暴こうと思わねば、その片鱗すら見ることも叶わぬでしょう」
「お父様を、どうこうしようと思って、って事」
「左様。明らかな悪意を感じますな。明らかに普通ではありません。妹様には、当日になるまで隠すように旦那様は関係者の方々に言い含めておいででしたが……それも、変えた方が良さそうですな」
「……」
知らなかった。あの乙女ストーリーの裏で、こんな悪意に塗れた策略が動いていたなんて。頭悪いゲームと思っていたが、それは表面上だけだったんだ。
「当然、妹様や、メトラン様にも話さねばなりませんな。お屋敷に連れて」
お屋敷に連れて……私と一緒に? ああいや、それは、まずい気がする。っていうかマズイだろう。うん、個人的な事情だけどさ。
「いいえ爺、それは……今、ここで話しましょう」
「……ここで、ですか?」
「えぇ。早い方が良いでしょう。それと……爺。お願いがあります」
「……んぅ」
おお、スヤスヤ寝てるよ。だから下の騒ぎにも気づかなかったんだろうねぇ。うん。気持ちよく寝てるってのに、起きた後にどえらいカミングアウトが待ってるんだから、子供にはきついとは思うけど。まあおかんが死んでた原作よりマシだ、耐えてくれ。
「ね、アメリア、アメリア」
「んぇ……おかあさん、まだ、ねむいよぅ」
「ごめんね、ねむいけど、がんばっておきてちょうだい、ね」
「うゆ……ふえ」
あら、お目目ぱっちり。ってこれダメだ、寝起きの濡れた瞳と、凄い無防備感の合わせ技が危険すぎる。可愛いのにすっごい艶やかだ。ロリコンキラーやろこんなん。
「……えっ、えっ、えっ、えぇぇぇぇぇええっ!?」
「あら、ビックリさせちゃったかしら……アメリア、おじゃましておりますわ」
「め、め、め、メタリアさま!? あ、あえ、ど、どうして!? あ、ふえ、あたま、あたまな、なでっ!?」
「かみふわふわで、きもちいいわねぇ」
まあそりゃ混乱するわなぁ。この前来てた偉い人が急に自分の部屋で頭を撫でているんだもんなぁ。それにしても触りごごちいいなぁ髪。
「ふふ、いま、つきそいのものがあなたのおかあさまとはなしているから、そのあいだにまた、おはなししようかしら、って」
「そ、そうなん……い、いえそうではなく! どうしておうちに!?」
「あぁ、そちら……それにかんしては、あなたのおかあさまから、きいてね」
「え、おかあさんから?」
うん、私は今回、なーんにも知らないってことで通すつもりだからねぇ。私は、ここに来た訳とかは、まあもっと適当な感じになるからねぇ。
『私が以前から掴んでいたことにする?』
『そうよ。実際私達が見つけたのは偶然のようなものだけど、以前から見つけていたように装うのはそう難しくないはず。爺、あなたならね』
『そ、それはそうですが』
『そして私は今日事件があったことは知らない……そういうことにしたいの』
『……それは何故? これは、お嬢様が防いだようなものでしょう? 偶然とはいえ、お嬢様はそれをお父様に誇るだけの、権利はある筈ですが』
『ダメ。これから伝える情報で、お父様には必ずや心労が降りかかる。この上、私がこんな一件に関わってたなんて知ったら、心労を深めるだけ』
『お嬢様……』
『あとは、大人の人たちがやるべき事。私は深入りすべきではないわ』
って事になった。
まあ、爺に言った通りの理由もある。けどそれだけじゃないんだよなぁ……うむ。っていうか、これで終わる気がしないっていうか。この世界は、アメリアを中心に回る、物語の世界の、原型。アメリアとおかんを狙って起きた今回の一件だけで、終わるのか。
「ありえない……ぜったい」
「……メタリアさま?」
物語を知っているからこそ、何か起きる気がするのだ。ただの杞憂ならそれでいい。でも何かが起きたその時……私がこの事件を知っていて、なおかつその事を爺以外誰も知らない事が、必ず何かの役に立つ。そんな気がするのだ。
敵も多い=有能アピール。カバーしきれているかは微妙な模様。
繋ぎ回です。次辺りからが初めのスパート、だと思います。