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力のゴリラ妹と技のゴリラ私の悪役令嬢物語  作者: 鍵っ子
二章:技のゴリラ初等期
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幕間:双従者の邂逅・暗幕 参

「あら、まだやる気? 駄目よ、そこまでになさいな。お二人さん」


 思わず、足が止まった。そこを突かれ、抜いた刀での反撃を許す。予想以上に刃の走りは早いが、重さはまるで足りていない。押し返すのに苦労はしないだろうが……


「っ、誰だっ! こっから反撃だってのに!」

「ごめんなさいねぇ、邪魔するのが無粋だっているのは分かっている、け、れ、ど……」


 やはり気づいていないか。この、圧力。奥様を相手取ったかのような、力の差をはっきりと見せつけられるようなそれ。それが()()()()()()()()()()()()()()()()()……というのが、どれだけ恐ろしい事なのか。気がつけないのが羨ましい。


「って、アンタは……確か、学生寮のって、なんだその格好!?」

「えぇ、一応管理人させてもらってるわ……全く、びっくりしたわよ。優雅に夜のシエスタと洒落込んでたら、急に気配が二つ外に出て行くんだもの。慌てて出てきて正解だったわ」


 方向的に、奴の方が先に見えたらしい。声の方を振り向けば、やはりそこに大柄な影。言う通り、昼間とはいささか装いが違う……あれは。


「皮、鎧……?」

「えっと……寮長さん、だよな。どうしたの、それ」

「あぁ、これ? 昔使って奴をちょっと引っ張り出してきてね。万が一があったら大変でしょ?」


 確かに皮鎧だが……明らかに異質だとわかる。なんだあれは。全身を包むように隙間なく、しかも……継ぎ目が見えない。鎧と服との中間のような。奇妙だ。あんな鎧を持っているということは……元は軍に携わっていたという読みは合っているようだな。


「それはいいから、ほら、もうこんな時間でしょう? いい加減に切り上げてそれぞれのご主人様のところに戻ってくれないかしら、寮の子たちが騒音で起きちゃったら良くないし?」


 ……あ。


「……っ、それは」


 しまった。周りの迷惑など……さっぱりと頭から抜けていた。私とした事が。私の行いはお嬢様、引いては大公家の名声にも関わりかねないというのに……いやそれ以前に夜中に静かに寝ている子供達を起こすような真似を……熱くなりすぎたか。


「も、申し訳ない寮長殿……子供達の事を一切考えていませんでした」

「これはからは気をつけてちょうだいね……あぁホント、びっくりしたわよ」


 他人に指摘されるまで気づけないとは、あまりにも不覚。気をつけねば……


「……ちょ、おい、待てよ」

「そっちもよ。納得いかないかもしれないけど、子供達のことを考えて引いてくれないかしら」

「納得いかない!? ああそうだね、喧嘩ふっかけて来たのはそっちだ。俺は事実を言っただけだってのにさ!」


 ……気をつけても、やはりダメそうだな。少し迷惑にもなろう、多少大公へ悪評が行くことだってあるだろう。しかしあのような暴言を事実だとなんの呵責もなく言い切るなど……!


「あぁ、私も納得いかなくなったところd」

「はいそこまで!」

「ぐっ!?」


 あが……お、重い……裏拳、裏拳で、正拳にも……いだっ……匹敵するようなこの重さ……腹、いや、これは胃……内臓、ぐぅ……は、吐かなかったのは……き、せき……


「まぁでも、これは普通に仲裁するだけじゃ収まらないみたいね……しょうがない」

「あぁ!? 仲裁なんて」

「なんで、喧嘩両成敗って事で。私が相手させてもらおうかしら」


 ……っ!? 踏み込みが、見えっ!?


「えっ」

「ほらっ」


 あ。入った。

 というか……か、完全に無防備な所にあの掌底は……意識、保ってられるのだろうか、あぁいや、もう保ってないな。今完全に意識が飛んでる。というか、完全に宙に浮いているのだが、どれだけの力を込めたというのだ!?


「……はっ!?」


 ぬ、意識を取り戻したか……あのまま意識が飛んだ状態なら着地もままならず倒れると思ったのだが。少しばかり残念だ。思いっきりひっくり返ってくれれば、少しは溜飲も下がったが。


「ッダァッ!?? な、なんなんだお前!?」

「何って、私は寮長。それ以外の誰でもないわよ?」


 それは嘘だと思う。

 しかし、あの一瞬でもう彼処まで逃げ出しているとは、やはり身体能力はずば抜けている。鍛練を積んでいなくて助かったと言ったところか、その程度の相手に一瞬とはいえ苦戦してしまったのを嘆くべきか。


「っくそ! ヤバい相手なんて、あの騎士見習いの小僧くらいのはずだ……なんで、こんなにイレギュラーばっかり」

「ん〜? イレギュラー? なんか良く分からないけど……」

「覚えてろ……俺は……選ばれたんだ……! お前らみたいなイレギュラーなんかに……!」


 あっ!


「ま、待て! 逃げるな!」

「止しなさいよ」


 く、進路を……か、片手で制されただけだというのに!


「止めてくれるのはありがたいが、あの暴言は聞き逃せん、どいてくれ!」

「気持ちは分かるけど、落ち着きなさいな。このままどんどんいったら、主人の前であっても歯止めが効かなくなっちゃうわよ。それは流石に、主人に対して迷惑どころの話じゃないんじゃない?」


 っ!


「まぁ、この状況で熱くなるのは仕方ないけど……それでも堪えなさいな。メタリアちゃんの事、泣かせたいの?」

「……そ、れは」


 お嬢様への言いがかりへの怒りで、お嬢様に更なる迷惑をかける、のは……落ち着け、落ち着け俺。そうなってしまえば本当に理由と原因の順位がひっくり返ってしまう……危ない、所だった。


「フゥ……重ね重ね、ありがとうございます」

「ふふ、本当に忠義者ね。メタリアちゃんは幸せ者よ、こんないい子を家からつけてもらえるんだから」

「……寮長殿、あなたは」

「私は、ただの寮長。それだけよ」


 ……それは、流石に、信じられないのですが。


「そう、ですか……部屋に戻ります。本当に、お世話になりました」

「えぇ、お仕事、頑張って」


 ぬぅ、後ろ姿にも隙なし、か。ただ帰っているだけだというのに、妙な迫力が。


「何者だ、あのご婦人は」


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― 新着の感想 ―
[一言] この寮長さん、絶対奥様と同窓・同期の気がするっ(・∀・)
[一言] 夜のシエスタ(昼寝)とは(哲学)
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