報復令嬢と初日の授業
「……スッゴイ」
断わっておくが、私自身授業の内容が理解できないわけじゃない。優秀な先生のおかげである程度は知識も付いて、頭脳も成長していると思いたい。だからまぁ、このクラスでも、2,3を争う頭脳を持ってはいる。と思っていた。一位? そりゃ当然……
「赤狼騎士団の勝利は甚だしく、古き国は何れも、敵いませんでしたわ。そして元々は『デルク王国』という名の我が国は、最後の決着を付ける為に『メルクトス』という名を持った最後の集団……敗れた国の者の連合に、戦いを挑んだのです」
目の前のこの子でしょ。すげぇよこれ。ホント。私たち貴族っ子はまだ勉強とかに触れたばかりの普通の一般家庭の子たちとは別のクラスなんだけど……正解よ。
「……もうずっと彼女のターンね。ホント」
まず授業の始まりは別に普通だった。いや、私の普通とはだいぶ違いがあるんですけどさ。だって初っ端から自習やで? ビックリだったよ。まぁ、そりゃあ別に入る前に色々教わってるから、先ずはみんなで交流してなー的なあれだと思う。
「ねねベスティ、一緒に勉強しましょ。私、分からない所があって……教えてほしいの」
「えぇ、構わないわ」
といっても私は別に交流とかは……いや、仲良く仲良くってそんな押し付け合うもんでもちゃうやろって。ベスティが一緒なので彼女とやんややってる積りであった。
「あの……そちらの方、もしかして」
「ん? どうかしたの? 私に何か用?」
「あぁやっぱり! 大公様のご令嬢様! パーティでお見かけしたことがありますの!」
だが、あんまり有名ではないにせよ私は大公、という肩書を背負ってしまってるわけでして。そりゃあ寄ってくる方だっているのですよ。うん。っていうか君、灰色の瞳って珍しいね。綺麗。
「あら、そうだったの。ごめんなさい、私は見覚えがなくて」
「いいえ、当然ですわ。私は遠目でながめていただけですから……あの、お話に混ぜてもらえませんか? その、面倒でなければ、ですけど」
面倒、という事はない。自分から態々グイグイ行かなくても、来てくれるなら大歓迎である。仲良き事は喜ばしきかな……アレ? もしかして現代的なクズ思考してない? 私。
「えぇ、構わないわよ。貴女のお名前は?」
「あ、はい。私わ……」
「あ、ちょっと待って……そういえば名乗らずに相手に名乗らせるなんて。マナーに欠けるわね」
全く、貴族慣れしてないから、ボロが出ちまうなぁ……先ずは私からってのはほんと骨身に刻んでおかないと。
「ごめんなさいね、私はメタリア。メタリア・ホルク・オースデルクよ。ご存じの通り大公の娘。よろしくね」
「あ、はい! よろしくお願いします! えっと、私は……」
さて、このまま順調に学校に来て始めての学友ゲット、これは幸先がいいか、と思われたその時……多分その時だと思う。あの子が動いた……というか動かされたのは。
「成り上がりのエリィアが、この公爵の嫡男たる僕に喧嘩を売るつもりか!」
「喧嘩など……ただ、積んできた物の重さが、フフ、あまりにも違うのですね、と。事実を言ったまでですわ。何か間違っていまして?」
「なんだとぉ!?」
いやもう速攻で胃が痛くなった。お前何やっとんねんと。先生も他の生徒もいる前で初対面の生徒に速攻でさぁ……すごい胆力、真似したくない。
「……ど、どうなされたんでしょう」
「あなた、自己紹介は後よ、こっちに来なさい」
「え? あの、メタリアさん、どうなさってんですか?」
「いいから。巻き込まれるわよ、あの嵐に……全く」
負けん気が強いとは思っていたが、いきなり他の生徒に噛み付くとは想定の遥か外である。喧嘩を売るのは私とちゃうんかいな。どういうことやねん。
「……ベスティ、状況分かる?」
「いいえ。たださっきの男の子が、ファラリスに近寄ってたのは見たけど」
学友候補ちゃんとの会話に気を取られていたので、取り合えずベスティに質問。詳しくはわからんが、とりあえずちょっかい掛けたのは男子の方と仮定してみよう。
「ど、ど、どうしたんだアレ」
「わからない……でもあの女の子に、男の子のほうが何か言って……その後、何故かいきなり怒り出したのですわ。怖い」
周りも困惑している模様。そりゃそうだろう、入学初日の初っ端でバリバリの修羅場だぞ。人によっちゃトラウマものだよ。私? そよ風みたいなもんよ人の修羅場くらい。
「あの、二人とも、その……まず、えっと、自己紹介とかを」
「もう済んでいますわ。その時点で、この男が低能なのが露見しただけで」
「なんだとぉ!? こ、この僕に向かって低能!? ふざけるな!」
「いいえ、私への自己の紹介の初めに、先ず自分の家の名前を堂々と言い、その上で我がエリィア家になにやら謂れのない中傷を投げかけたので……その程度の事でまずマウントを取りに来る低能である、と思ったのですが」
あぁー先生の顔が真っ青になってる。うん。同じ状況なら私も真っ青になって倒れる。いーやさっそく面倒なことでもめてるねぇ! ってなる。逃げ出したくなる。
「くっ、ぼ、僕は成り上がりと蔑まれる家の君が、このクラスで孤立するのを防ぐためにだねぇ」
「孤立、はっ。間の抜けた話ですわね。私が孤立すると? 馬鹿らしい」
そしてこのファラリスの態度。問題は、堂々としていることだ。どっちもなんか、若干引き際を間違えた、みたいな状況ならまだ何とかできるかもしれないが、こうするのが当然みたいなのが片方にいると絶対和解には行けない。
「だいたい、アプローチが間違っていますわ、貴方」
「何!?」
「自己を紹介するのであれば、まず自分の事を話しなさい。家の事ではなく。何が出来るのか、何をしてきたのか! そもそもこの王国は権威を誇るだけの国ではなく実力主義を掲げる一面もありますが、それを理解していて?」
「え?」
「理解していたらあのような家の権威をひけらかすような自己紹介はしないと言っているのです。そもそもこの国の成り立ちからしてその傾向が強いというのに歴史を習っているのかしら貴方いいえ習っている様子はありませんわねいいでしょう教えてあげましょう」
あっこれはあかん。終わんないやつや。
爆弾みたいなものです。
追記:未熟の極みのようなミスが発覚いたしました。感想欄でのご指摘、ありがとうございます、修正しました!