幕間:先輩攻略対象の消耗・2
どうも、ペーネロトです。のっけからもう、その、一杯一杯で、泣きそうです。
「……お父様、そのファラリスの因縁の相手については、何か?」
「いや流石に友好関係を築いているとは言え、その娘さんのことについてまでは詳しくはないよ……いや ホント、どうすればいいんだろうね」
衝撃の結果にお父様と共に俯いて黄昏ております。ファラリスから衝撃の事実を知らされてその直後にお父様のお部屋に駆け込みました。
「……まさか、ホント、どうしましょう」
「ただの子供の諍いなら構うこともないのだが……ペーネロト、ファラリス嬢が彼女に抱く恨みというか思いは相当根深い。それに間違いはないのだね?」
「はい……」
話を聞く限り、なりふり構わず実家の力も借り、そしてやり方を覚えた後は、当然自分でも八方を調べ、大公令嬢の影を追い求めていた。凄い。執念だ。
「一つ間違えれば一大事。互いに遺恨を残す結果にもなりかねん……」
王家とも近い大公相手にそんな事になれば……大変だ。本当に。思考とか語彙力が死んでるからこれしか言えない。大変だ。どうしよう。
「……兎も角、多少なりとも抑えてもらうしかないと思います。宮廷の事なんて良くわかりませんけど大公家と喧嘩するのが良くないことは分かりますし……それで、父上、その話は本当なのですか?」
「エリィアも貴族の家だ。大公家のことを一切調べていなかった、ということは有り得んな。その上で、実家の手を借り、尚且つ彼女が彼女のことを知らなかったとなれば……」
「そのやる気に水を差さないために、わざと教えなかった……」
エリィアは次世代の争いにも余念がない。どうやら、自分の娘が大公の娘と相対しようとしているのを全面的に支援し、出鼻を挫くつもりのようだ。その為なら一番肝心な情報を教えないという事も平然とやってる。
「良くも悪くもエリィアは野心的だからな……ファラリス嬢なら、そんな策略を知っていても知らずにいても全く勢いは衰えなさそうだが……」
「ありえそうです……」
実家の思惑に利用されようと全く気にしなさそうだ。むしろ好都合だとしてガンガン利用されそうですらある。まぁ、今回は全く知らなかったようだけど。
「兎も角、エリィアが大義名分を得ればあっという間に動き出すだろう。それを見過ごせば、我々にも角が立つ。止めても関係は悪化する……あのエリィア家を敵には回したくない……動かしてはいけない、か」
「そうですね。そもそも何かをする前に全て丸く収める……」
言っておいてなんだが、もうこの時点で顔面を真っ青にしてしまっているお父様と僕の二人が頑張ったところで、そんな事が出来るんでしょうかっていう……
「……で、出来る、よね?」
「え、えぇ。きっと出来ると……大丈夫ですよ。はいきっと」
多分お父様もわかってるけど、うん。出来るわけがない。そんな事が出来たら苦労しない。僕らそんな天才じゃない。っていうか、そんなん本当に神の所業とかそんなだと思うのである、出来たら。
「……ペーネロト、惚れた弱みでなんとかならんか」
「寧ろ燃え上がる気すらします。なんか、大好きな人が心配してくれたら、こう、意気軒昂になりませんか、お父様。その所為で覚醒したら大変な事になります」
「あぁ……」
覚えがあるのだろうか。なんだろう、凄い遠い目をしている。
「お父様こそ、エリィア家の方々をどうにか宥めることは出来ませんか」
「彼らの勢いと力強さは良く知ってる。宥めるなんて労力を払うくらいなら何もせずに後悔した方が有意義に時間を過ごせるかな、っていう」
「そ、そうですか……なるほど……」
まさにファラリスの実家ですね……諦めない、妥協しない、突き進む。確かに諦めさせる労力は膨大だろうなぁ……
「……えっと」
「ど、どうしようか……本当、えっと」
ぼ、僕らが出来る事、もう残ってるんでしょうか……いや、その。ないと思うんですが。というかこれくらいしか出来ないのか僕らは……
「……どうしましょう、本当に」
「もしこのままいったら、この家は破滅だなぁ……」
は、破滅!?
「ピンチなのは分かるんですが、そこまで行くんですか!?」
「我が子よ、王家の血に連なる大公の力を舐めてはいけない……権力もそうだが、揃っている人材、今代の当主もその全てが別格だ。何であれ争えば必ず傷を負う」
何だろう。お父様が切実な闇を背負っている。怖い。
「現大公に関わってその地位から追い落とされた貴族は多い。というか、一度敵対したら殆どどん底へまっしぐらだよ……怖い」
「お、お父様」
お父様は、『私は王宮の日陰で静かに暮らしているだけなんだ……槍にも牢にも掛からない生き方をしてきたんだよ……』との事。良く分からないけど、この状況に耐えられないような人なんだな、とはわかってる。
「……ペーネロト」
「は、はい」
「多分、私ではどうにもならない。でもお前は違う。私の息子とは思えない程、お前は優秀で聡明だ。次世代はきっと安泰だと、お前一人を見ているだけでも胸を張って言える」
「は、はい」
どうしたんだろう急に。えっと、褒められるのは嬉しいけど。
「だからペーネロト、君なら何とか出来ると思う……学校に大公の令嬢が入学するのであれば……彼女に接触して……その……うまくやってくれ」
「……えぇ」
なんかスッゴイ、無茶な注文をされたんだけれど……えっと、接触してどうすればいいんだろうか……え、そんな無茶をどうすればいいんでしょう。
息子に全てを任せるというとんでもない責任逃れムーヴ。




