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力のゴリラ妹と技のゴリラ私の悪役令嬢物語  作者: 鍵っ子
二章:技のゴリラ初等期
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幕間:先輩攻略対象の消耗・1

 正直なところ、僕としては大公家の方々には負い目しかない訳で。


「ちっくしょぉおぉおおおお兄さん仇取ってくれぇ!」

「え、ちょ、まって! 何があったの!? どうして顔真っ赤に腫らしてるの!?」


 弟がやらかした事を本人から聞いた時は、本当に卒倒しそうになった。そりゃあ、お前が悪い、と。自分で弟を引っ張って謝らせに行かせたかったが、それはさすがに無理。他の家なら兎も角、大公が相手だ。念には念を入れて、お父様が対応する事になった。


「お父様……僕は」

「いいかペーネロト、大公家に睨まれたら、我がツェルバ家の未来は闇に閉ざされる。如何な問題、如何な遺恨とて残してはならない。もし社交の場で大公家の方とお会いしたら決して失礼のないよう、頼むぞ……」


 お父様が凄い渋い顔をしていたのを覚えている。渋い、と言うか、あとちょっとで自害を選びそうなくらい追い詰められた顔だった。


「僕の粗相の所為で、家全体の揉め事に普及したら大変だ……!」


 大公家の方々への負い目、そして僕の発言一つで揉め事に発展しかねない状況。正直泣きたかった。僕は普通にお父様の後を継げる立派な貴族を目指していただけだったんだけど……どうしてこんな事に。


「はぁ……おや」

「お邪魔していますわ、ペーネロト、ってすごい顔色が悪いですわよ……?」


 けど、そんな悩みも婚約者と一緒なら乗り越えられる……気がする。ファラリスは、少し負けん気が凄いけど、その分折れない、曲がらない、僕が持ってない強さを持つ、大切な人だ。

「あぁ、ちょっとね……この前の揉め事、知ってるかい?」

「えぇ、確か何処ぞの貴族の子息と、あなたの弟が揉め事を起こしたって……全く、会った時からやんちゃしきりで……貴方はあの子に甘すぎるのです」

「あ、あはは。うん、正直ぐうの音も出ないというか」


 鋭い指摘。けど、彼女は頬に当てた手を離さない。優しい部分もちゃんとあるんだ。それは、昔とある少女にとんでもない目に遭わされたのが理由だと、彼女は言っていた。私はあんな女みたいに他人に不快感を与える様にはならない、との事。


「このままでは貴方、あの子、そしてツェルバ全体の為にもなりませんわ。今度、一度シッカリ向き合って話をする事、分かりました? ペーネロト」

「……うん。分かった。ありがとうファラリス」

「いいえ。婚約者なのですから、ちゃんと直して欲しい所は言う、当然ですわ」


 それが当然かどうかは微妙だけど……お父様曰く、『しっかりと意見を言ってくれる奥方は本当に貴重だ、ファラリス嬢を大切にしなさい』との事。ファラリスの様な素敵な女性は珍しいらしい。なんだか、少しうれしいような、残念なような。


「それで……今日はどうしたのファラリス」

「あぁ、そうでしたわね。少し報告があって、参りましたの」

「報告? ……あっ」


 だが、その一言で、もう暗雲が立ち込めた気がするのは、僕の気のせいではない。僕がファラリスから逃げ出したくなる唯一の時間が来ると、悟ってしまった。


「……見つかりましたわ、遂に、遂に遂に遂に遂に遂にぃ!」

「ひぃ!?」

「あの女ぁあああああ! グリーンビートに入学するそうですわ! 私の行き先も当然そこになります! そしてあなたと同じ学校に入る事になってのでそのご報告も兼ねて!」

「はいありがとうございますぅうぅぅぅ!?」


 これだ。

 『あの女』。ファラリス曰く、かつて自分にとんでもない屈辱と恐怖を植え付けた女。その人に彼女は、必ずやリベンジすると誓っているらしい。この時ばかりは、可愛さの中に強さを秘めた彼女の表情が、強さオンリー、というか鬼に変わる。


「えぇえぇ追い求めて遂にこの時が来ましたわ直接対決ですわぁあぁぁぁああ!」

「ひぃぃぃぃぃぃい!?」


 凄い。気迫で机の上のカップが揺れてる。多分下手な盗賊なんかじゃ気迫負けして逃げ出すレベルで凄い顔だ。歪んでる、っていうか歪んだその顔が文字通り人を喰らう鬼にしか見えない。何ならちょっとサイズも大きくなってる気がする。


「という事でペーネロト!」

「うひいごめんなさいサポートはむりぃ!」


 ――だからこそ、僕は断らねばならない。

 ファラリスは強い子だ。どんな事でもやると決めたら一直線。融通が利かなくて、周りは置いていかれる事もある。けどそれは、裏を返せば一つの物事に真剣に取り組むって事だ。勉学も、料理も、裁縫も、なんでも。


「ぼ、僕はファラリスを取り返しのつかないところまでいかせたくないから絶対に手伝わないし何なら阻止するぅぅぅぅう! ごめーん!」


 そんなファラリスだからこそ、復讐に魅入ったならそのまま一直線、何処まで行くか分からない。ダメだ、僕は彼女の婚約者だ。そんな魔道に踏み入らせなんかしない。


「――あぁ、流石ペーネロト。私が言わなくても、貴方はそうしてくれるのね」

「だからお願い食べな…へ?」


 ん? え、あの、ファラリスさん今何と?


「……私は、あの女と決着を付ける為に、グリーンビートに向かいます。けど、それは私の我儘。それで、貴方やお義父様にまでご迷惑をかける訳には参りません……しかし、私だけでは、この胸の恩讐を抑えきれるかどうか」


 ……ファラリス。君は。


「あんなに、あんなに頑張っていたのに、それでも、僕らの事を考えて」

「当然ですわ……ペーネロトの事、忘れる訳がない。だって、貴方は」


 ファラリスがもたれかかってくる。思わず、抱きとめた。


「私を、救い出してくれたのだもの。屈辱に泣いてばかりだった私を」

「ファラリス……」


 胸が、カッと熱くなる。初めて出会った時、あの時の事、覚えていてくれた。それがファラリスを、ギリギリで留めていたのが、とても、誇らしい。


「……決して、私を離さないで。鎖から、解き放たないで。私が、貴族の娘として、節度を弁えて、あの女と向かい合えるように」

「うん。分かった。僕は、ファラリスの婚約者だから」


 なにもまだ知らない子供の、酷く大げさな約束かも知れない。でもこれはファラリスと僕の真剣な約束だ。誰にも茶化させたりしない。きっと……


「……ペーネロトが居れば、あの女にも負けないわ。覚悟なさい、メタリア・ホルク・オースデルク!」


……へ?


ヒント;メタリア遭遇時にはペーネロトが居なかった。そして部屋に戻ってから突然態度が変化した。部屋には誰が居たでしょう。

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[一言] それだけビビってても協力しないって言いきれるペーネロト強いな...
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