校長先生の究極奥義
「それにしても、メタリィの婚約者さんと、こんな形で知り合えるなんて」
「ベスティアーゼ嬢の事は、メタリアから聞き及んでいる。どこまでも素直で可愛らしい自慢の親友、いや、唯一無二の竹馬の友だとも」
「いいえ、そんな……め、メタリィ!」
「あーいや、その、ね……エクストラで評価不能で規格外だから、そうよ、うん」
文字通り意味不明。言葉が支離滅裂で草も生えませんよ。照れ隠しでももうちょっと何とかしよ? ね?
「しっかし、結構かかったわね、学園長のお話」
学校の理念、ってのは千差万別。先生も千差万別。生徒も千差万別。でも、これだけは自信を持って共通と言えるだろう。校長、というが、学園の長の話は、必ず眠くなるくらい長い、と。あ、式は終わりました。で、シュレク、ベスティ、ロイ君と移動中です。
「ふわ……む」
「お疲れですか、お嬢様」
「寝不足とか?」
「いいえ、そうじゃないわ。ちょっと、陽気に誘われてしまって、ついね」
まぁ嘘です。学園長サマのお話がまぁ長い上に詰まらない事。いや、内容が無かったっていう訳でもないんだが、それでもこう、『おぉっ!』ってなる類の話では無かったと思うのである。つー訳で眠い。歩いているというのに眠気が覚めない。
「陽気、か? それにしては聊か気になる点があるのだが、どうだ、メタリア」
「おだまり遊ばせ」
思わず仮面が剥がれそうになった。いや、まぁ、学校に来てから『お嬢様モード』を常時展開している自覚はあった。そりゃ私だって家でのフランクモードをさらすつもりは無い。それは兎も角として。
「明らさまに学園長の話を聞いた後に欠伸を誘発していた。余程退屈だったか」
「いやホント御黙りなさいませ」
「メタリィ……」
あぁべスティ止して! そんな『仕方ない子ね』みたいな悲しい視線を私に向けるのは止してぇぇぇぇえ……うぅ、こんなんだったらもうちょっとこういう話に対策を付けておくべきだった……!
「ま、まぁお嬢様。次からは気を付けて、しっかり耳を傾けるようにいたしましょう。学園長殿の話には、将来に生かすべき含蓄もしかと有りましたので」
へ、へへ……燃え尽きたぜ……ロイ君に止めを刺されてよぉ……はい、気を付けます。
「はい! この話御終い! それで! 二人とも何処の組に入ったか、みましょうよ!」
丁度目の前には組み分けが掛かれたスクロールが壁に貼り付けられて……マジで学校だなホント、こういう所は。まぁ、いいや。
「話題を逸らしたか。まぁいい。それもお前らしいと言えばそうだからな」
「メタリィ? 今度からホントに気を付けなきゃダメよ?」
「……はい、大変申し訳ありませんでした、猛省しております」
と言ったような感じの現実逃避。失敗。うん、知ってた。そりゃ逃がしてくれるほど甘くないですよね、シュレク
は。でもベスティは欺けると思ってました。正直侮って居たのを否定しきれません。
「それで……私は……」
とはいえ、やっぱり気になるみたいねベスティ。まぁ、私としては別のクラスでもドシドシ構いに行くから関係ないんだけどさ。で、結果は……?
「わぁっ、メタリィ! 一緒の組よ! ガーベラだって!」
「組の名前は番号とかではないのね……」
チューリップ組さんとか、タンポポ組さんとか、あれか、幼稚園か何かか。とはいえガーベラクラスっていうと結構印象変わって聞こえる。英語って素敵。
「あ、でもシュレク様は別の……」
「そのようだな」
「へぇ、どれどれ……ホントだ、ラナンキュロス」
ラナンキュロスって……っていうか、そっちより気になる名前がスクロールのガーベラクラスに載ってるんだが。
「ファラリスと一緒のクラスだって、私達」
「えぇ!?」
「……お前が衝突したという、例の少女だな? これも巡り合わせと言う奴だろうか」
クラスが別れれば良いと思っていたが、まぁそう上手くはいかないか。とはいえ、態々クラスを跨いでまで、徹底的にいがみ合うよりは、近くで見ていた方がまだ穏便に済ませる方法も分かるかもしれないし……
「「あの女とやり合うのもやりやすくなりました」!」
……ん? おっとぉこれは。
「あらあら、ごきげんよう、メ・タ・リ・ア様?」
「ごきげんよう、ファラリス様。どうやら、同じクラスのようですね」
なんとまぁ、同じタイミングで見に来ていたのかファラリス。とはいえ、様付けで、物腰も比較的穏やか。マジで今日はやり合うつもりはないらしい。律義じゃない、いやホント、その理性を持続してほしい、無理っぽいけど。
「えぇ、これから数年、同じクラスで切磋琢磨していく仲間、よ・ろ・し・く! お願いいたしますわ、メタリア様?」
「えぇ、新鋭と名高きエリィア家の御令嬢と鎬を削れるかとなれば、力不足やもしれませんが……お手柔らかにお願いしますわ、ファラリス様?」
ま、そっちがそのつもりなら、こっちも不可侵を破るつもりはないよ。暫く前から色々ぶつかり合ってるけど、今日ばかりは、ね。後、分かっちゃいたけど子供のする会話ではねーわ。周りがやっぱり怯えてるもんね。
「うふ、ふふふふふふふ」
「ふふふ、ふふふ、ふふふ、ふふふ」
しかしド派手にぶつかり合うわけにもいかない悲劇。とりあえず舐められたら即座に喉首かっ切られそうだから笑ってはみてるけど。どうすりゃいいんだろうね……
あそこで眠気を誘われない人はいない。