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力のゴリラ妹と技のゴリラ私の悪役令嬢物語  作者: 鍵っ子
二章:技のゴリラ初等期
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幕間:双従者の邂逅・戦端

 その視線に気が付いたのは、ある意味当然と言えた。お嬢様に向けられた敵意。そこまで濃くは無く、香らせる程度。子供はまず気付かないそれに、私は敏感に反応できた。

 お嬢様に目線を向ける。フレンチトーストの三枚目に、手を伸ばされていた。


「……申し訳ありません、少し、失礼いたします……あそこか」


 周辺を見回し、見つけたのは食堂の外。窓の縁から見えた、黒い影。というより、黒一色の姿。ここまで黒いと、逆に見つけやすい程。しかし、その姿は、私が視線を向けたその直後、陰に消えた。


「っ、逃がすものか……!」


 出来るだけ音を立てず、食堂を抜け、入り口へ。この場所の構造は把握しきれていないが、食堂から外へ離脱する最短の道だけなら、最低限確認している。


「入り口から……右へ……こっちは」


 見えてきた廊下、いや、通路。外との仕切りが無い屋根だけの通路。両脇の庭を眺める為だろうそれが、今はありがたい。


「確かこっちに……っ!」


 見つけた。黒い男。上から下まで、衣服は全て黒い。そして、朱い色の目。アレがお嬢様を睨みつけていた。間違いない、さっきの不審者だ。


「貴様。先ほどお嬢様に向けていた視線、なんのつもりだ。答えろ」

「……勘が良いな、犬」


 声は、酷く凪いでいる。こちらにまるで興味が無いようだ。その不遜な態度が、酷く癇に障った。我が主人に敵意を向けておいて、まるで罪悪感というものが無い。


「質問に答えろ貴様。それとも、答えるつもりはないと取っていいのか? ならば、最早聞く事なしと切り捨てられても構わない、という事か?」


 腰の剣に手を掛けた。この学び舎において、普通は帯剣は許されていないが、私は旦那様の手回しで許されている。それは、こういう時の為にこそ、だ。


「私は、学園に入り込んだ不審者に応戦する権利が与えられている」

「不審者、か。狭い目線だな」


 事ここに至って尚、男は平坦そのものだった。不気味。しかしそれだけではない。男はただ立っているだけだが、それでも踏み込んで斬り倒せるイメージが見えない事に、今気が付いた。


「……何者だ。唯の不審者とは思えん」

「ふん、目線は狭いが、勘だけは中々だ。力の差を理解しているようだな」


 ……そして、コレだ。先ほどから、此方と会話している、という印象を受けない。まるで一人きりで、想像上の誰かと話しているかのようで。

 いや、もう考えるな。今は、この男を排除するのに、全霊を注げ。


「……いいか貴様。もう一度言う、目的を言え。この勧告を無視したなら」

「――剣は抜くな、お前の為にはならん」

「俺の為になるかなど知るか。万が一、億が一、お嬢様に害が及ぶ可能性があるのであれば、剣を抜くのに躊躇いなどない」


 どうやら俺の言葉を聞くつもりはないらしい。ならば、躊躇うな。万が一勝ち目が無くてもいい。別に勝つ必要はない、俺が暴れれば、この寮の警備兵も駆けつけるだろう。その増援と力を合わせて抑えつければいい。


「……ここまで覚悟が決まっていると、いっそ面倒だな……分かった」

「なんだと?」

「目的を話していいと言っている。だから、いったん剣を収めろ」


 ……視線が、改めて此方に来た。今、初めてこの男は、俺に対して目線を向けた気がした。話すつもりになった、というのは、嘘ではないらしい。


「……いいだろう」


 柄から手を、ゆっくり、しかしいつでも手を掛けられる位置に動かす。話を聞くにしても、警戒を完全に解くのは悪手だ。それに気が付いているのか、男は薄笑いすら浮かべている。


「ふ、全く余裕のない……まあいい、俺の目的、だったな」

「あぁ、そうだ」

「とあるお方の命令でな、あの、大公家の恥の様な、品の無いろくでなしの小娘から、お前を引き離すように言われているんだ」


 ――っ! しまった!


「まぁ、こうしてお前と話している時点で、注意を向けさせることには成功しているという事だ。な、話しても大して意味は無かったろう?」

「くそっ」


 そうだとしたら、こんな事している暇は無い。急げ、戻れ!


「――安心しろ、俺の主人は、貴様の主人を傷つけるつもりはない」

「……何?」


 意外な言葉に、思わず、振り返ってしまった。


「本当か」

「本当さ。俺の主人は、あの小娘との因縁に、自分の手で決着を付けたいだけらしいからな。全く、付き合わされる俺の身にもなってほしいものだ」


 ……その特徴で、雇い主が誰かは、なんとなく分かった。恐らくは、昨日お嬢様に宣戦布告した、あの少女ではないのだろうか。


「ふふ、だから今は落ち着け。それに、あんな女をそこまでして守らなくても」

「……先ほどから、好き勝手言ってくれるな」


 とはいえ、こうやって止まれたのは良かった。感謝してもいい。大切な事を言い忘れてしまっていたのだから。この、無礼者に。


「お嬢様は悪辣でも、下品でもない。その辺りは訂正して貰おうか」

「……事実じゃないか?」

「いいや。お嬢様は、アメリアお嬢様やアレウス様も良く慕う、大公家の星。大公家の恥だなどと、誰も考えていない。オレも含めて、な」

「なんだと?」


 挑発のつもりだったんだろうが、それは悪手だった。


「貴様は俺の逆鱗に触れた。いつかその言葉を吐いたこと、後悔させてやろう」


 言うだけ言った。急いでお嬢様の元へ戻らねば……彼奴の事は……伏せていよう。別にお嬢様の機嫌を損ねるような事を、態々いう必要もあるまい。




「メタリアがアメリアに慕われてる……アレウスにも……? おかしいだろ、そんな訳がないだろう、だって、あのメタリアなんだぞ……」


学園編もう一つの激突、スタート。

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