共犯者とは?
「あら、メタリアちゃんに……ベスティアーゼちゃん、よね。おはようございます」
「おはようございます、寮長様」
「おはようございます。料理も得意なんですか?」
「というより、人を使うのがね、厨房を仕切るのが得意なのよ。まぁ、料理も出来ない事はないけど、まぁ人並みよね」
いや、人並みっていうその言葉、信じられない気がする。そう言って、一流とは言わず準一流くらいは出来るんでしょ? 爺がそうだったもの。
『お恥ずかしながら、家事に関してはあまり詳しくないので……女中達と比べれば』
比較対象が大公家肝いりの女中衆ってのがまず可笑しいんだよね……でも私はそれに気づかず、爺にも弱点があるんだな、って笑ってた気がする。なおその直後、女中衆をサポートしつつ見事に指揮をしてみせたのに、チベットスナギツネになりました。
「ま、他にできるのは配膳手伝うくらいよ、一流の前じゃね」
豪快に笑ってるけど、それホントなんですかね……まま、今はいいわ。じゃ、頂くとするかな、この寮自慢……かは分からないが。まぁ、テーブルクロスも綺麗に洗われてるのは一目瞭然だし、フレンチトーストの香りも素晴らしい。
「で? 食べるかしら、トースト」
「えぇ、是非」
「いただきますわ、寮長様」
結論、食べねぇ選択肢はノーサンキューだ。しっかり食べて、頭のスイッチを本格的にオンしに行こうじゃないか。ヘヘ。
「分かったわ……ほぉら! アンタら! 令嬢お二方がトーストをご所望だよ! 馬車馬の如く駆けずり回って、雷光より手早く仕上げなぁ!」
「「「ウィ! マダム!」」」
ヒエッ……すごい迫力ぅ、あの、そんなに頑張らせないんでいいんですよ? のんびり焼いた方が美味しくできると思いますし……個人的な意見にはなりますが、はい。
「……」
あぁ、ほら、ベスティがプルプル震えてるじゃないの……よしよし、びっくりしたね。うん。大丈夫よ、あの人は人間、獰猛な獣じゃない、分かった?
「あ、あら。驚かせちゃったかしら。ごめんなさいね。どうしても昔の感覚が抜けなくて」
「いえ……それで、どれくらいで」
「もう出来たわ。もう出来てたのにトッピングをしてただけだからね」
あっはい。うわ、メープルシロップが黄金の土台の光を受けて、まるで本物の銅細工みたいに輝いてるぅ……美しいじゃないか……あ、焼きリンゴ付きだ。豪華ぁ!
「おいしそう!」
「えぇ、ホントに。寮長様、ありがとうございます」
「味わって食べてね?」
そのつもりですよー。さーて……席は……ん?
「……ベスティ?」
「?」
「ちょっとごめんなさい、先に席を取っておいてくれない? ロイ、ベスティを見ていてあげて。私なら大丈夫、お強い味方が居るから」
「……成程、そう言う事であれば。ベスティアーゼ嬢、参りましょう」
ゴメンね、はてなマーク浮かべさせちゃって。でも、どうやらおよびのようだから、さ。行かないといけない。
「では、また後で」
しっかし、なんであんな端っこに居るんだアイツ……まぁ、周りから隠れるつもりだってなら納得だけどさ。お、気づいた。
「や」
「うむ。久しいな、共犯者」
「ここでは婚約者の方が良いんじゃない、シュレク」
ま、入学する事は知ってたけど、こんな所で出会うとは。で?
「何しに来たん?」
「入学直前に派手に同級生と小競り合いを起こした変わり者が居ると聞いてな」
「……あぁ~、もう広まってんのその噂」
いや、確かに観衆の真ん前で大暴れしたことは否定しないけどさ。それにしたって広まるの早すぎひん? 噂好き過ぎない子供たち?
「噂をしているのは主に貴族の子息だ。隣人が大声で興奮していたぞ」
「納得だわ」
貴族方面で噂になってんのか……子供っていうより。まぁ、それならいいや。とはいえこれで、あんまり暴れるのも、微妙だって事が証明されてしまった気がする。
「ふむ、言わずとも理解できたか?」
「自重しろって事でしょ? 王家に連なる可能性がある者として。けど退くつもりはないわ。私に真っ向から、一番の地雷踏み抜いてくれたんだからね」
「ま、お前ならそう言うか。構わん、言い訳は俺が請け負う、好きにやれ」
……いや、私としては嬉しいんだけど。
「そっちこそ大丈夫なの? こんな猿の王様みたいな直情性爆弾の尻ぬぐいなんかして」
「卑下が過ぎるぞ。まぁそれはそれとして、大丈夫だ。王子というのは、意外に我儘が通るものだぞ。ふふ」
「そういうことなら……いいけど」
なーんか、甘えてしまっている気がする。どうなんだろう。
「じゃ、派手にやるわよ?」
「好きにしろ、といっているのだ。心配するな」
お墨付きも貰った。よーし、それなら……いや、そもそも私そっち方向の心配してたか実際。あれ、してなかった気が……あれ?
「……う、うん。気のせい気のせい!」
「?」
という事にしておかないと、王家に申し訳なってくるからね……うん。
私自身王家への諸々を忘れて書いていた部分は否めません