高級マンションとかそのレベル
さーて……確か入学式的なのは数日後、この部屋に慣れる時間を設けてくれたのはありがたい。という事で……とりあえず部屋を探検してみよう。
「……うわ、私の部屋と同じくらいとか思ってたけど、クローゼットのサイズが全然違う」
他の部屋はどうか知らんけど、デカイぞこれ。私の持ってきた服入れても三分の一も埋まらん。っていうか実家にある服全部詰めても余裕ある気が……普通の学生の部屋? いいやこれもう貴賓室っぽいじゃなくてそのものやろ。
「……学生寮?」
疑問符が思わず浮かぶレベルだ。ここ、本当にただの学生寮なのかってくらい充実してやがる。ううん。まぁ、まぁ今は気にするのはやめよう。探索の続きだ。
「で、他には……寝室と洋間が別になってるか。一部屋に纏められるとかも普通だと思うんだが、学生寮とかだと。やっぱり明らかにここだけレベルが違うな」
……うーむ、私自身こういう場所の昔の様子なんて詳しく知らないし、これが普通なのかもしれない。っていうかこれが普通なんだろう。まぁ現代の学校みたいに誰でも平等ってのは寧ろ歪んでいるのやもしれない。
「……ま、広さに色々いうのはやめよう。取り敢えず、探索の続きだ続き」
で、室内にあるものも……あー、全部高いやつですねぇ。カーテンから何までキッチリある程度お高いやつばっかりだ。装飾がやりすぎず、しかしながら細かい。
「これ、選んだのあの寮長さまなのかな……教養もバチコリ。そしてそれ故に余計あのガタイが気になってしまう……ロイ君のいう通り元軍人だとしたら、相当高給取りだと思うんだが」
やっぱり良い物に普段から囲まれてないと目って養われないからね。養うつもりのない私が、プロのつま先にも及ばないにせよある程度目利きが出来んのも、それが原因だ。伊達に大公家ではないんだよ。
「……これ、水差しか。まぁこれは流石に自分で汲んでくるんだろうけど」
あ、果物もある……待て、入った時点で置かれてたってことはまさかこれは誰かが補給してくれるとか……い、いやぁまさか、そんな訳……
「いやぁ…………あれ、なんか窓の外に……そんなに遠くないところに、なんか」
明らかに学校と関係ない施設なんだろうけど、なんか、非常に、気になるんだけど。あれってなん……だと!?
「か、果樹園!? なんでこんな近場……あっ」
なるほど。こちらの果物は自動補給ですか……いくらでも近場から供給可能って事で。
「……い、至れり尽くせり。これが初等教育機関の学生寮……悪いジョーク?」
感想が完全に小市民のそれだけど。うん。許してほしい。幾ら五年くらい貴族生活やってたかって、教育機関がこんな豪華とかそのレベルじゃ済まない域になってたらそりゃ天を仰ぎたくもなる。
「探検完了。結論。学生寮は文句なし。いや、文句なしすぎて逆に文句があるレベル」
ぶっちゃけもうちょい普通の部屋だった方が学生としては相応しい……というか、学生らしい事ができそうだと思ってしまう。こんな豪華な部屋、しかも借り物、下手な扱いは出来ないっていうか、汚したりとか出来ないっていうか。
「いうて実家でもそこまで暴れてた訳でもないけどさ……」
部屋に置いてある、こんなソファに腰掛けるのにも、いちいち気を使ってしまう。壊すなよエライ高いぞとか。汚すのもNGだぞとか。色々考えてしまう。
「うーむ、だが対策グッズ以外の荷物を最低限にしたのは逆に功を奏していたのやもしれんな……多分大抵のものはここで賄える。勘だけど」
ここまで至れり尽くせりだと、ねぇ。うん。家具類も大抵揃っているし。あ、カップもあったわ。すげぇ……紅茶淹れようかと思ったけど、台所はどこなんだろ……
「お嬢様、只今戻りました」
「荷物、随分と少ないわねぇ……まぁ、貴族にしては、だけど。ホント、珍しい子」
「ロイ、ありがとう。荷物が少ないのは、まぁ、性分みたいなものですから」
偉大な先人も言っている。無駄なものは断捨離してしかるべき。遥かなるかなブッダガヤ様。菩提樹の元から俄か信者を見守りください……あ、なんか見えた気がする。あれ仏様お怒りマーク浮かんでない? どうして?
「うーん……やっぱり言い訳に利用したことかな」
「お嬢様、遠い目をなさっているところ申し訳ありません。そろそろ荷物を整理せねば」
「あ、うん。ごめん。あっち。まず服はあそこのクローゼットに」
つってもほとんど服だけど。カバンありがとう。さっさと仕舞わないと。
「……予想をはるかに超えて埋まらないね、大っきいなぁ」
「というか、もう半分くらい入りましたよ」
ってどんどん入れてったらもうこんなに……しかし、今も疑問に思うんだが、クローゼットってこの時代あったか微妙なのに、フル木製とはいえしっかりハンガーまでついてるっていうね。現代脳で作った乙女ゲーの設定を無理やり時代に押し込んでるって感じだ。
「……よし」
そうこうしている間に全部入って三分の一も埋まってないっていうね。
「本当に少ないわねぇ。こんなに荷物が少ない子本当に珍しいというか」
「まぁ、そうでしょうねぇ」
さて……まだまだ整理する物はある。さっさとやっちゃおう。
とまぁ、やる気を出して頑張るみたいなアレだったんだが。めっちゃあっさり終わりました。あっさり終わりすぎて、リビドアさんが『手伝うっていう暇もなかったねぇ』とか笑ってました。
「良し。諸々の面倒は終わったから、寮の見学にでも行く?」
「は、お供いたします」
「……スッゴイ気合いねぇ、そこまで気にしなくてもいいじゃないかな。ここは戦場ってわけでもないんだし」
「いいえ、大公家にとって、大事な御身ですから、気合も入ろうものです」
あっそう? うん。大げさな気もしないでもないんだけどなぁ。
せっかくゲーム内世界なんで、好き勝手やってみました。