護衛って言ったらやっぱり
さて。私の行く学校では、学生は寮に入る事になる。
「ま、貴族の子息様は寮生活で不便をするのが嫌だろうけど」
なので、従者を一人連れていく事が許されている。あ、貴族だけ、しかも暗黙の了解みたいな感じだけど。普通の人だったらそんな無駄金使うくらいなら食料か本でも買うだろうし。それはしょうがない。私? 連れてきますよ? トラブルからの護衛にですけど。
「という事で……誰を連れてくかって? いや、選択肢無いから」
ロイ君一人だけよ。私が一番関わってて、でもって直属の護衛で。他に候補も無し。女の人以外従者にはしませんとかいう狭量な人じゃないし、私。
「さぁて……早速、行くとしますか」
今は……何処に居るんだっけか。うーん。そもそもロイ君が普段どうして過ごして居るかは知らんのよな。こういうのを知って居るとすれば、まぁ、やっぱり……
「ロイの居場所。この時間であれば、おそらく白鯨騎士団の訓練に混ざって居るかと」
「へぇ、訓練に、ねぇ。あれだけ強いのに訓練を欠かさないってのは、ロイらしい」
この屋敷の雑事から大体を取り仕切ってんのは爺って事で。私、爺が居ない学校で無事にやっていけるか若干不安ですらある。でもロイ君が居るから平気だもん!(多分)
「ありがとう。行ってみるわ」
「お嬢様」
「ん?」
どしたん?
「ロイの元に行くのでしたら、あやつの覚悟、しかと受け止めて頂きますよう」
「……覚悟? え、なに? ロイどうかしたの?」
ちょ、学校に従者として付いてきてほしいなって言いに行くだけなのに、なんかえらい重い話題になってる気がするんですが……えっ、どうしてこんな事に。
「あ、あの、話が見えないんですけど……爺?」
「敬語になる程動揺されて居るところ申し訳ないのですが、これはロイが自ら、お嬢様のために決めた事。二人の間の問題ですが故、後の事はロイに訊かれますよう」
そう言われましても……まぁ、でも正論ちゃ正論だ。しょうがない、行くとすっかね。白鯨騎士団と訓練だっけ、じゃあ練兵場か。
「……わかった、行ってくるわ」
「行ってらっしゃいませ」
えーっと、爺の部屋からどういうふうに向かうんだっけ……あ、扉はしっかりガチャリと閉めて、と……確か、キッチンの勝手口から抜けるのが一番近いか。
「……爺って、なんでキッチンの近くに部屋置いてるんだろ。使用人の人達は別棟、でもそこの部屋で一番いい奴なんか、下手すっと私の部屋なんかより……」
うん。考えるのはやめようか。うちは福利厚生もしっかりしてる。それでいいんだ。
まぁ、それなのに、なんか、キッチンの隣の、微妙に余った隙間に出来たみたいな部屋にいるんだよね。どうしてなんだろ。
「……まぁ、気にしてもしょうがないか。では失礼と」
もうキッチンだ。考え事してて包丁に当たって怪我なんてしたらコックさん達に迷惑だよ。うむ。という事でそろっとオープン。
「どーも! ちょっとここ、通っていいですか?」
「おやお嬢様! 今日はどうなされたのですか?」
「えぇ。ちょっと練兵場へ抜けたくて。お勝手、使わせていただいても?」
「ええ、それは構いませんが……序でに一つまみ、菓子など盗っていかれませんか?美味しいクッキーを用意して待って居たのですが」
おや、そうなのか……じゃあまぁ、折角だし。あ、そうだ。
「白鯨の皆様にも配りたいから、多めにくださる?」
「多めに……余分には作っておりましたが、白鯨の皆様に配るほどは……」
「大丈夫。みんなに一つずつくらいだから……あら? それでも多いわね?」
「多いですね……まぁ、それくらいなら足りない、という事はないかと。ささ」
お、ガッツリ大盛り。っつても確かに私が食うにはちょっと多いくらいで……まぁ一人一個なら、ギリギリ足りるかな……あ、そうだ。
「これとは別に、なんかある?」
「別に? それでしたら、ケーキが一つ……まさか」
「それも貰えるかしら、大丈夫よ、それまで分ける訳じゃないわ。ちょっと、ご褒美をあげたい人が、個人的に居てね」
まぁ、要するにロイ君に特別ですわ。まぁ、大変申し訳ない面倒な事頼むからね、これくらいはせめてしないと申し訳ないというか、いやもう申し訳ないしかないけど。
「なるほど。最近、お嬢様の側付きになったあの若い騎士殿ですか」
「そ。迷惑かけてるし、これからも迷惑かけっぱなしだからね」
「なるほど、そういう事であれば、否はありません」
「ありがとう。いつもごめんなさいね?」
いやほんと。わがままなお嬢様で申し訳ない……本当に。
「いいえ、私共、最近はメトラン奥様に仕事を奪われっぱなしですから、こうして腕を奮ったものを味わっていただけるというのは、ありがたいものです。さ、参りましょう。私も手伝わせていただきます」
「あ、すいません……じゃあ、お願いします」
いや、自分で二つとも持ったら確実にひっくり返すからね……折角作ってもらったもの土の栄養にするくらいなら誰かに助けてもらうわそんなん。
「おー見えてきた見えてきた」
「剣戟の音が聞こえますね。騎士団の皆様は今日も励んでいらっしゃるようで」
そりゃ騎士団だからね。まぁ、今日はロイ君も混ざっているから余計激しいと……?
「なんか、降ってきてる?」
「え?」
いや絶対上からなんかちょっと待ってあれ輝いていや地面にサクゥウウウウウウッ!?
「け、けけけけけけっ!?」
「つ、剣!? なんでこんなものが空から……お、お嬢様、ご無事ですか!」
なな、ななんとかかかか……
『どうした! そんなものか裏切り者!』
『まだ七人だぞ! この程度捌けず、お嬢様の学び舎での護衛等、本当に務まると思うか!』
『立て!』
ま、待ってくれ、こ、この状況で剣が飛んでくるって……ろ、ロイ君、どんな訓練してんだマジで!? ちょ、待って!?
「ちょ、やばかったら止めないと!」
「お、お嬢様! まだ危のうございます!」
マジで自分の無能さに頭にくる作者です。遅れてすいません。




