幼少の終わり、メタリアの嘆き
「そろそろ、メタリアも頃合いだね」
「……はぁ。頃合い、ですか」
なんすか、折角の良い茶葉を楽しんでいるときに、急に訳の分からんことを……
「冬に、もう暫くすれば、春の季節も来るだろう」
「そうですな。寒い季節も嫌いじゃないですけど、やっぱり暖かいし、春好きですよ」
「君も六歳になる。いよいよ、王立の初等学園に入る頃合いかなと」
「あ、それはいいです。私家庭教師さんに教えを乞うほうでお願いします、はい」
いやー面倒くさい。ぶっちゃけアメリアとアレウスとロイ君と爺とお父様とお母様二人の居る家から出たくない。ここが一番良い。学校に入ったら寮だろ? ホームシックで巣を作って籠る。
「貴族の子息の方の中には、そうしている方も沢山いらっしゃいます……私がわざわざ学園に通う意味、ございます? お父様」
「うーん……まぁ、ないんだけど。確かに」
「でしょう? つまぁり、私はこの住み慣れた大公領でのんびりと学んで過ごしても問題なし。終了!」
そもそも貴族って、基本である程度の教育は受ける。学校行く前からある程度は知識とか諸々育ってる。そんな貴族の子息が学校行く意味って将来のコネクション作りだよ?
「私、その……そういう繋がりは欲しておりませんし」
「まぁ、うん。そうだと思うよ。メタリアってそういう方向の欲は薄いからね」
薄いとはなんじゃい薄いとは。低燃費、エコ、などと言ってもらいたいものだね。
「つまぁり、私が学校に入る必要性なし! 私はこの家で、ずぅっと姉弟仲良く暮らすので悪しからず、お父様」
「うん、大変申し訳ないんだけど、それは無理なんだ。本当にごめん」
「ナズェ?」
こ、ここまで懇切丁寧に私が学校に行く必要性も何もないと言っているというのに。いやマジで私が行く意味ないんですよ? それでどうして私に学校へ行けと。
「……まぁ、王立初等学園は、貴族の子息や、優秀な平民の子が入学する場所だ。貴族はさっきも言ったようにコネクションを、平民の子は知識を……それぞれ得たり学んだりする為に学び舎に入学する」
うむ。この国の学園は貴族と平民のやる事を分けていて、学校内でもそれをある程度暗黙の了解としている……っていうのが、原作で言及されてたよね。ちなみに高校に当たる学年での話だけど。
「しかし、この学校に入学するのは、その二種類だけではない。少数とはいえ、他にも様々な立場や目的を持った者たちが入学する」
「はぁ、そうですか……」
「要するにシュレク王子も学校に入るから婚約者の君も一緒にという要請が王城から来たんだ。仲良くしているのをアピールするようにと」
「つまり偉いさんの事情やないかい!」
理解できたよ! 嫌って程にな! 要するにいつものじゃないか!
「あの、それ……必要なんですね」
「必要だよ。婚約者との蜜月な関係、というのは王族として必要な事だ。新たな王族の誕生は間違いない、王家は安泰だと、そう思わせるのは。なにせ王家は国の大黒柱、ゆらぎの一つですら国民の不安に繋がるからね」
「うーんすっごいガッチリ固まった分かり易い正論で言い返すのも無理!」
とはいえ納得出来るかは違うで? それで私にアメリアやアレウスから離れろと申すかお主。ふふ、万死というにも生ぬるいぞ貴様。とか当然思うよ?
あ、いやお父様に貴様とかお主とか失礼ですねすいません。
「まぁ、嫌なのは分かるけどね。理解してほしい。出来れば」
「……まぁ、ここで駄々こねても意味ないのは分かってますから、いいですよ」
正直、メッッッッッッッッッッチャ行きたくないけど。でもバッチリ正論だし、王家からの要請だったら断れないでしょ。つーか断ったらせっかく仲良くしてる王家と大公家の間にヒビが入りかねないから。
「まぁ、行きますよ……知り合いが一人もいないって訳でもないでしょうし」
「うん、ありがとう……長期休暇の折には、速攻で迎えに行くからね」
「あっ、はい」
お、お父様も嫌なんだね……目が血走ってるよ? 鼻息も荒いよ?
「さあて……来る時が来た、ってところかな」
まぁ、学校に入学するのは、貴族として生まれたなら珍しい事じゃない。とは思ってたよ、うん。そして学校でのキャッキャウフフが乙女ゲーの醍醐味ってところあるし。青春て奴よ。
「……学校に興味が無いっていえば嘘だし。まあ、若干転生者知識を活かしたメタ読みに近いけど、絶対いるだろ……残りの攻略対象」
この国の学校はエスカレーター式だ。小学校から高校まで一度入学すれば基本的にスムーズに上に上がっていく。よっぽど態度とかが酷い、という事でもなければ退学も留年もない訳。つまり、あの高校にいる攻略対象たちは、高確率で小学校から学園に上がっている、なら、小学校へ行けば多分攻略対象にも会える可能性あるかな、と。
「まぁ出会う必要はないけど、一応ゲームでは分からない部分とかもあるかもしれないから、可愛い妹のためだし、見極めしたくは、ある」
妹に変な虫がつくのは嫌だし、変な虫がついたらそれが原因で首がポーン、とかふっつうにありえそうだし、これは自分の保身にもつながる。
「……しかし、学校かあ」
前世で通ってた頃は女友達と愚にもつかないこと喋って駄弁ってた事しか覚えてない。しかも小学校の思い出とちゃうし、高校の思い出だし。
「小学校って、どんな感じだったかなぁ……」
環境もガラリと変わるし、その辺りはしっかり自覚して臨まないと。
「まぁとはいえ、目立つ必要性はないからな! 落ち着いて、ノンビリと、やさしーく過ごして行けば、目的を果たしつつ穏便に終わるだろう」
もう面倒もハプニングもいらない。私は平穏に暮らしたい。
新章突入。乙女ゲー原作キャラが増えてきます。




