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力のゴリラ妹と技のゴリラ私の悪役令嬢物語  作者: 鍵っ子
間章:技のゴリラ幼少期・日常
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幕間:とあるお嬢様の憂鬱・後

「私って、なんなんだろうねぇ」


 自分達の姉である。と二人は声をそろえて言いそうになったが、ここは堪えた。そういう意味で言っているのではないと、なんとなく分かったからだ。


「アメリアは、とっても良い子だ。誰とだって仲良くなれるだろう」

「アレウスは、優しい子だ。私がド失礼かましたって、一応許してくれた」


 それは、罪人が罪を吐き出すように悲壮に満ちた声だった。酷く空虚でもあった。聞いた者の心臓が、冬の沼に包まれる、そんな錯覚に陥る、声だった。


「あの二人は、未来がある。勉強だって、なんだって。教えてても分かる。きっとどこまでも、きっと行ける……なら私は?」


 また、すこしだけ顔を出して覗く先に、メタリアは、窓の外、雪の空のさらに先を見ているようだった。いつもあれだけ存在感のある彼女が、今は其処に居るのに居ないかのようにすら感じてしまった。


「どこへいけばいいんだろう……乗り越えた先に、何が?」


 言っている言葉にはまとまりも意味も無いように聞こえる。だが、それならあんな顔をするだろうか。無意味の多彩な在り方を知らない子供、アメリアとアレウスは、賢いとはいえ子供であることに変わりはない。故にメタリアの異変に気が付けた。


「未来が無い私はどうすればいい、先に行って何をすればいいんだ……」


 視線が下に落ちる。沈む。いてもたってもいられなかった。飛び出したのは……アメリアだった。


「お姉さま!」

「……アメリア?」


 顔を見て、泣きたくなった。以前泣き顔を見た時とは違う。あの時の様な、憎みようのない活力が満ちていない。それを感覚で感じ取った。


「わたしたちが、居ます!」

「アメリア……」

「わたしたちと……わたしたちと、いっしょに! さきは、あります!」


 どうしても、伝えたかった。気づいたら、大好きな姉が消えてしまってそうで。そんなのは嫌だから、一緒にと。一緒にと。それだけを伝えたかった。


「でも……ダメなんだよ。私には、なにもないんだ。『どうなりたいか』が無い。未来が見えないんだ……生き抜いていっても、結局は……」

「――なら、僕たちといっしょに、やりたいことをみつけましょう」


 アメリアに吐き出した弱音をアレウスが遮った。自分に対しては、何時だって強気でしつこいほどだった姉の、いじめっ子に立ち向かって、あっという間に彼らをなぎ倒してみせた姉の、そんな姿は見たくなかった。


「アレウス」

「メタリア姉さん、僕は、りっぱな貴族になりたいです。僕だってみつかったんです、姉さんだって、きっと見つかりますよ。僕も、てつだいます」


 反目しても適当に流し、警戒されてもゆっくり歩み寄り、自分を助けてくれた。借りも恩もメタリアにはある。助けようと思うのはそう難しい事ではなかった。


「……っはぁ。こんな可愛い妹と弟そこまで言われるって……ねぇ、情けないわ」

「お姉さま」

「大丈夫よ。お姉ちゃんは強いんだから。そう簡単には崩れたりしないわ……うん、でさぁ、どっから聞いてたの、私のクッソ恥ずかしい鬱ポエム」


 そうやって、励まされれば……彼女はあっさりと立ち上がる。アメリアとアレウスの誇るべき姉、メタリア。彼女は二人が信じている通り、そう軟ではないのだから。


 しかし、信じている物は同じでも、メタリアがもう一度立ち上がったその時、アメリアとアレウスの心に到来したのは似ているようで別の感情。


 アメリアは、メタリアをずっと支えていこうと思った。メタリアは強い姉だが、それでも悩む時だってきっとある。隣で並んで歩いていくなら、倒れてしまった姉を支えるのも自分の役割だ。


「私の人生は、メタリア姉さまと共にある。二人で、辛い事も乗り越えていこう」


 色んなところに行こう。色んな人に会おう。色んなものを見よう。一緒に。

 それは、メタリアが信じた、彼女の物語の主人公足り得る、黄金よりも眩い精神だ。あらゆる貴公子を惹きつけて止まない、進むことを諦めない精神だった。


 アレウスは、メタリアをずっと支えていこうと思った。メタリアは強い姉だが、同時に酷く脆くもあると今日知った。それでも構わない、それなら傷つかないように、優しく包んで守ればいい。


「家族を守るのは家族の役割だ。メタリア姉さまには、傷をつけないように」


 自分達で守ろう。自分達が共にあろう。自分達が傷つけるものを排除しよう。

 それは、メタリアが恐れた、アレウスの闇の一面、深愛の才覚。愛した少女を守るために刃を抜く事すら躊躇わない、手段を選んだりしない強い意志だった。


 双方に芽生えた意識は、似ていたようで明らかに違っていた。


「……うーむ、まぁ、恥ずかしい所見せちゃったし、口止め代わりに美味しいお茶……ああぁぁあダメだ冷めてるよこれぇ……ロイ君はよ帰って来てぇ……」

「あ、これロイさんがいれたお茶だったんですか」

「じゃあ、あのおいしいおちゃが飲めるんですね。楽しみだなぁ」

「でーも二人を迎えに行かせちゃったから帰ってくるのにだーいぶ掛かるわねコレ」

「「えぇー?」」


 だが、こうして自らの失態に頭を下げる姉の姿に、無邪気に笑う二人に違いは無い。唯仲の良い姉妹がそこにいるだけだった。


陽の妹、陰の弟。

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