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力のゴリラ妹と技のゴリラ私の悪役令嬢物語  作者: 鍵っ子
間章:技のゴリラ幼少期・日常
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幕間:とあるお嬢様の憂鬱・前

 妹はアメリア、弟はアレウスといった。二人は、仲の良い姉弟である。


「アレウス、そちらの本をとってくれる?」

「えっと……どちら、でしょうか。このあたりというのは分かったのですけど」

「いまいるところの上よ。ほら、黄色のせびょうしのほん」


 二人は、勉強をするにもよく一緒に行うことが多い。仲も良く、姉弟とはいえほぼ同い年で勉強する範囲もそう変わらない、というのが主な理由であるが……もう一つ、理由があるといえばあった。


「お姉さま! 本、これでぜんぶです!」

「ありがとう二人とも……えぇっと、昨日の続きから、でいいのかしら?」

「はい!」


 彼ら二人が自主的に勉強をする時は、大抵同じ人物に監督役を頼むのだ。

 二人の姉であるメタリア。揃って尊敬する、大好きな彼女にまとめて監督してもらう為でもあった。この光景をみていれば、彼ら三人の中は、非常に良好である、といえるだろう。


「じゃ、始めようかしらね……分からないところがあったら聞いて、分かる範囲で応えるからねぇ」

「「はい!」」


 ーー二人は、メタリアと一緒にいると、姉について新しい事実に気が付く事がある。

 例えば、姉は意外にも知識をうまく活用できる人である、という事。


「それは、こうよ。うん。で、其処を覚えればその辺り一帯の問題のキーワードも」

「わぁ……いっぺんにできちゃいました!」

「すごい。こんなやり方が。さすがメタリア姉さんです」


 知っている知識を、どうすれば効率よく、上手に、且つ印象に残るように覚えられるのか。教師の教え方とは違う、一種邪道にも近いやり方ではあるが、しかし二人の知識を上手い事伸ばす事だけを考えれば、正に効率的といえた。


「うん。良く出来ました。殆ど正解。出来なかったところは……まぁミスりやすい問題ばっかりか。この辺りはコツさえつかめばグッと正答率上がるし、全問正解連発まではそう遠くないわねぇ」

「ホントですか!」

「コツ、コツって、どんな感じなんですか!」


 こうして二人が必死に教えを乞うと、姉は少し困ったように、しかし、間違いなくうれしそうに笑う。その笑顔も、二人は好きだった。


「お姉さまって、ほんとうにスゴイです! 私、尊敬しちゃいます」

「僕も、です。メタリア姉さまは、僕らのしらないことをたくさんしってる。まるで大人の人みたい!」


 ……そんな笑顔に、一瞬影が差したのは、今日が初めてだったが。


「大人……うん、まぁ、二人よりは、ね」

「「(え?)」」


 一瞬、一瞬だが、彼女の目が、酷く揺らいだ気がした。それを見逃さなかったのは、普段から共に過ごす、妹と弟であったから、そして、特殊能力染みた、子供特有の感情などの知覚の高さ故でもある。


「……あぁ、コツだったわね。まぁ、何時か教えてあげるから、安心なさいな」


 二人の不審が一致する。普段から一緒に過ごす彼女からすれば、あまり考えにくい『憂い』という表情。無視することは出来ず、さらに気になってしまった。


「お姉さま、その、だいじょうぶですか? 今」

「……んー? あ、疲れた顔してた? ゴメンゴメン、大丈夫だから」 


 疲れた。メタリアはそう言ったが、そんな顔には見えなかった。いや、それだけではないように見えた。疲れただけではなくもっと、何か……


「さ、続けましょうか。うん」


 この時は結局流されてしまったのだが、しかし。二人はこの時の表情が、気になって仕方なかったのである。




「……」


 故に。この雪の日、窓辺の彼女を見た二人は、勉強会の時の事を、思い出さざるを得なかった。戸の陰から覗いた彼女の顔は、あの日見た、何処か儚い表情によく似ている。


「お姉さま、どうしたんだろう」

「分かりません……あんなかおを、メタリア姉さんはするんですか?」

「しないわ。お父様も、むかしからいっつもあわててたり、にこにこ笑ってたりばっかりだって言ってたし……」


 分からない、故に二人は混乱する。

 アメリアにとって、メタリアは自信満々、それに過ぎて若干暴走すらする頼れる姉だ。

 アレウスにとって、メタリアは奇想天外、破天荒を文字通り体現する実に強い姉だ。

 そんな姉が、あんな顔をするなんて……想像も出来なかった。


「お茶を、お持ちしました……しかし、来ませんね」

「お父様が意外に頑張ってるのかしらね。二人とも大好きだしねぇ」


 姉の護衛騎士、ロイが現れた途端その表情は引っ込んでしまったが。それでも気になるというものだ。普段一緒にいる人の、見た事の無い、想像もつかない表情を見た時は。


「……探してきましょうか?」

「あんまり無理させてしまっても危ないから、お願いできる? お父様ったら、子供の前じゃとんでもない虚勢……虚勢ではないけど、まあ、無茶する事はあるから」

「承知しました。では、行ってまいります」


 そう言って、ロイがこちらに向かってくるのを察知した二人は、思わず開いた扉の陰に駆け込んだ。視界の影、しかも子供の気配、普段なら不審者らしき影有れば即座に反応していたロイも、これを見逃してしまう。


「……ふぅ」


 そして、ロイが見逃したゆえに。二人はこの部屋の陰で、彼女の独白を聞き逃さなかったのだ。


「私って、なんなんだろうねぇ」


日常回の最後を幕間、というか別視点回で締めるという暴挙。

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