悲報:親父がトンデモない拗らせ方をしていた件
「ううむ……すまないねメタリア、少し、取り乱してしまった……ところで、なんか顔が痛いのだが、何か知らないか?」
「いいえおとうさま、何も知りません……あと、とりみだしかたはふつうではなかったですわ」
両頬が真っ赤になってるあたりで察してくださいませんか? 物陰に連れ込んで兎も角顔を叩きまくってどうにか正気に戻したんだからね? 私の手が痛いわ。
「そうか、それなら仕方ない……」
「さ、おみせにはいりましょう、おいしいおかし、たのしみですわ」
兎も角仕切り直しが上手くいって良かった。将来の足長おじさんが変態じみた態度で来店するとか、将来に響く……さて。
アメリアのお母さんが亡くなった直後に、おとんはアメリアの所に来た。つまり、アメリアが私の家にやってくる、誕生日の日の直前まで、アメリア母は生きている。作中では『お母さん』と呼ばれるだけで、名前すら分からなかった故人に会える。
「大丈夫、大丈夫、大丈夫だから」
「はーいしつれいしますわーもうくりかえすとかかんべんですわー」
まぁた悩んで頭バグらせる前に直ぐ行こう……店の内部は、と、ぉぉ!
「わぁ、ステキぃ……」
シック、と一言で表すことは容易い。だが細かい描写をしようとするとキリ無いなコレは……落ち着いた雰囲気は母上のお部屋と似てるけど、若干違う、庶民向けっぽいデザインながら、随所の細かい細工は目を見張るものがある。いやぁ、貴族生活で肥えてしまった目も大満足。
「ふふ、そうだろう、いい店なのさ、ここは」
ってお父様、どないして同意しちゃってんのさ。ダメでしょ、バレるぞ。ここ来た事あるってバレるぞ。なに、頭バグって思考回路までやられたの? 分かったよ、空気読めばいいんだろコラ。
「うん! わぁ、おかしもおいしそ〜!」
でも実際美味そうだよ! 月並みだけど宝石箱みてぇだな! パティシエとして実力が卓越してやがるよ! お、誰かカウンターに立ってる。これを作った職人、アメリアのお母様だな? さぁてそのご尊顔を拝見……ホビ?
「あら、可愛らしいお客さん……あっ」
「……久しぶり、メトラン。娘が、ここの菓子を食べたい、と言っていてね」
おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいちょっと、CHO、 STAY、そんな甘酸っぱい恋愛漫画みたいな雰囲気はどうでもいいんだよ、菓子店をこれ以上甘くするな、砂糖で死ぬ。いや、それはどうでもいいんだよ。
「そう、なんですか、この子が」
ああそうかい、なるほど、おとんは母上様一筋だってのがよく分かるわ。だからこそメトランさんだったんだろうなぁ! スッゲェよ!
プラチナの髪ぃ、赤い瞳ぃ、そしてスレンダータイプの体型ぃ! トリプルコンボ! 違い? 目の色がどっちかといえばルージュ系統なのと、切れ目じゃなくて、タレ目なことぐらい!?
「お、お、お」
「さぁメタリアお菓子を選んでおいでねぇ!」
焦りすぎぃ! でも分かるわ。すっげえそっくりだもんな、お母様によぉ! なんなん、浮気するにもお母様似どころか双子かってレベルで似てる人選ぶとか! 愛情ねじ曲がってんじゃん! なんだ、常識人は私だけか! いや、私チート野郎だった!
「……ちょっとおそとにでてまいりますわ」
「あ、メタリア、お菓子は?」
「あとででよろしいですからいまはほっといてくださいまし」
おかんとそっくりの浮気相手とかいう禁断の事実。もしメタリアがメタリアのまんまだとしても、おかん激似の女が急に現れたらショックだろうよ。まあここで私が外に出るのは、空気読んでっていうのと、おとんの変態嗜好からの自己防衛も含まれます!
「……折角のナイスミドルへの敬意、どんどん薄れていってるなぁ」
さて、どうするべきか。
「結局、外に出て何ができるって訳でもないんだよな」
親父が居なければ遠くには行けない。つーかどっかに行ったら、私みたいな歩く現金入りトランクケース、即座に回収される。自己防衛とか不可能だし。
「まぁ、ともかく……」
さて、店内を確認。やはり、何か話し合っているのが見て取れる。多分、アメリアとメトランさんご本人についてだろうとは思う。まぁ、子供だけ引き取るってのも鬼っていうか極悪っていうか。
「……メトランさんは、でも」
そうだ。ゲームでは娘だけが引き取られた。だが、あれだけ娘を可愛がって居た親父が母親はどうでもいいとか考える訳がない。母子揃って元から引き取るつもりだったのだろう。けど、その前に……
「ううむ」
いや、今はそれを考えてもしゃあないやろ! っていうかメトランさんの顔に衝撃を受けすぎて元々の目的をさっぱり忘れてたぞ! まずは主人公の確認せにゃならん!
「でも冷静に考えたら、どこにいるか分からんのよなぁ……多分お家の中だとは思うけど」
あ、いや、お家の中じゃ無理じゃん。今中世メロドラマを店内で展開中なんだぞ、入って行く勇気なんてねーよ馬鹿野郎。胃が死ぬわ。
く、こうなりゃ外で暇つぶしを何か……うぬ?
「なぁなぁ、あのお菓子屋あるじゃん?」
「ちょっとちょろまかしてさ、俺らに分けてくれよ!」
「え、そ、そんなことできないよ」
「いいじゃん、なぁ、な?」
うわ。
女の子囲んで、年上の男子三人が恐喝してる。すげぇ、少女漫画の回想に出て来そうな場面だなぁ。あれがヒロインだとして、この後、憧れの王子様が乱入して女の子を助けるんだろうなぁ。
「まぁ、現実はそう甘くない訳で……」
このままだと女の子が非行の道に走る可能性が高いので、まぁ王子ではないが、王子役は私が勤めるとしようか。
「まぁ、ずいぶんと、あさましいことをされていることで、そちらのおさんかた」
「あぁ?」
「誰だ!」
女の子を取り囲んで居た男子のうち二人、こちらを向いて睨みつけてくる。太っちょとチビ、ふふ、いじめっ子を体現するには、迫力が足りなさすぎるのではないかね? 我が爺レベルまで男を上げてから出直したまえ。
「ユーキある行動ってやつ? お前ら、そいつの相手を、テーチョーにして……」
「オッケェ!」
「任せろやっちゃん!」
「……な、なぁ、すっげえ綺麗なドレスきてらっしゃいますね? えっとどちら様なんでしょうか、あ、そうだ、とりあえずお前ら落ち着いてくれ」
すげぇ、子分がパワフルに私を睨みつけているのに、リーダーが速攻でビビり散らしてる。賢すぎるってのも問題だなぁ……まあ、ビビり倒してる方が正解っていうのは笑えるけど。
「ふふふ、そちらのかたはりかいしているようですね……わたしのなまえはオースデルク。これで、わかりますね?」
「ウゲェええええええええっっ!? オメェら逃げるぞちくしょう! 街のおっちゃん方の首がまとめて飛んじまう!」
「えっ」
「ちょ、やっちゃん!?」
おぉ、スッゲェスピードで逃げ出した。いやぁ、流石に大公家の名前は伊達じゃないなぁ。親の名前に頼るのは流石に情けないが、まぁ、イジメという緊急事態にはなんでも使わんとあかんわ。
「さて、だいじょうぶですか、そこのひと」
「あ……」
「きずなどありませんね、よか……」
……金属製かと見まごうばかりの輝きを放つ金髪。
「こ、こわかった……うぅ、こわかったよぉ……」
「あ、アァオォオウイ」
そして、宝石のようなルージュの瞳。
いやもう、分かるわ。おとんとおかんの遺伝だね。分かりやすいねー! それとスッゴイ見覚えある気がするなぁ、その顔、具体的にいうとねぇ、ゲームパッケージとゲーム画面とかゲームのイラスト集とかぁ!
「うえぇええ……」
「よぉ、よ、し、よし……」
な、撫でる手のふ、震えが止まらん、ば、バカな、こんな幼女に、この大公家長女にして悪役令嬢候補のこの私が……そりゃ震えもするわ!
だってこの子が主人公、アメリアだもんねぇ!
親父の株暴落ターン、まだまだ続きます。
大丈夫、後で挽回する機会はあるはずですので、親父殿を見捨てないで上げてほしいと思う今日この頃でございます。