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力のゴリラ妹と技のゴリラ私の悪役令嬢物語  作者: 鍵っ子
一章:技のゴリラ幼少期
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幕間:たった一言で精神的に劇的ビルドアップ

『庭に来い。分かってるな』


 僕が拾った紙には、ただそれだけが、書かれていた。

 拾ったのは偶然だった。メタリアさんとのくすぐり合いで床に崩れ落ちて。そこで気づいた。どうしてそれを拾ったのか……分からないけど、運命だったと思う。


「……庭ってこっちかな」


 別館に来たのは初めてだったけど、なんとなく位置取りは把握してた。暗がりの植木の間を抜けて、そこに立った。見覚えのある顔が、三人。


「へへ……よう、大公家のアレウスくん」

「なんのようだ」

「お前、いえが変わったからっていって、俺たちからにげれる思ってたのか? にがさないかんな、おまえは、一生おれらのおもちゃなんだよ!」


 下卑た視線にさらされる。苦しい。胸がキュッとなる。これは、恐怖だ。これからされる事への恐怖。そして、新しく出来た、家族にこの姿が見られるかもしれない、という恐怖だった。


「いいか、それをわからせるためにここに呼んだんだ。逆らうなよ、もし逆らったら、ここでめっちゃくちゃに汚してお姉ちゃん二人のまえでわらってやる」

「……っ!」


 嫌だ。二人に見られるのは。この家で、せっかく仲良くなったのに。そんな恥ずかしい姿を見られるのは、いやだ。


「そうだよなぁ、あんなキレイなお姉ちゃんたちだもんなぁ、いいカッコしてたいよなぁ」

「だいじょぶだって、ちょーっとつきあってくれたらさ、帰すから」

「おとなしくしてたらすぐ終わるって、やくそくするよ」


 三人が、近づいてくる。僕を笑いものにする為に。近寄ってくる。大丈夫だ。いつも通り我慢してればすぐ終わる。大丈夫だ。

 小突かれた。壁際に追い詰められた。


「さーて、どうしてやろっか……とりあえず、いっぱつやっとく?」

「そうしよーぜ」

「よし、じゃあ……いっぱつ!」


 頬を張られた。痛い。殴ると血が出るからって、いつもこうだ。じわじわ痛みが残るようなやり方をする。悪趣味な奴ら。


「お、なかないな~」

「いっつもなかねーの。おもしろくないよなぁ」

「なぁなぁ、もうちょっとはんのうしてみろよ~」


 普通に抵抗は出来ない。ならせめて、反応なんてしてやらない。絶対に屈してなんかやらない。僕は無力な子供だけど……


『私はあなたの事を、一人前だと思っているわ』


 ……いいや、無力な子供なんかじゃない。あの人も言っていた。僕はもう一人前だ! こんな


「……どうした」

「あ?」

「ぜんぜん、痛くなんてないぞ。くすぐったいくらいだ。情けないやつらだな、ソンナニよわいちからじゃ、木の枝だってまともにもてないんじゃないか?」


 だから負けない。むしろ、圧倒するんだ。そうだ、全然平気だって、痛そうにしている顔を見せる必要なんてないだろう! バカになんてされるもんか!


「……言うじゃんか。ならもうちょっと、つよめに!」


 っ……痛い。結構強めに叩いてきたな。ムキになってるっぽいぞ。でも反応なんか、して、やるもんか。相手の思う壺だ。絶対に……!


「……どうすんだよ、ぜんぜんはんのうしないぞ」

「おもしろくねーなぁ、なんかさぁ、どうにか出来ないのかよ。こいつ」

「そんなこと言ったって、けっこうつよめに叩いたってのにぜんぜん……どうすりゃいいんだこれ……とりあえずなんかしてやる」


 ……だからって服を探らないでくれ、品てものを知らないのかこいつは。


「なんか、なんかないか……ん?」


 ポケット? そこには確かハンカチしか……あっ。


「おかしいな、ハンカチが二枚あるぞ……なんでこんなパンパンに……おっ?」


 ……見つかった。その中には、メタリアさんから借りてたハンカチがある。明らかに女の人が持つための模様だ。可愛らしい模様だ。


「へへ、これ、お前のじゃないな。たぶん、お姉ちゃんふたりの、どっちかのだろ?」

「……知らない。ぼくのじゃないなら、誰のものかなんか、わかるもんか」

「しらない? じゃあ、じめんに落として、ふんだりしてもかまわないって事か?」


 待てよ、ふざけるな。そんな事、させる訳!


「っ」

「なんだよ、この手。よっぽど嫌なんだな。やっぱり、これ、おまえのじゃないよな」


 しまった。思わず反応してしまった。でも、でもそれは借り物だ。メタリアさんのだ。ドロドロにして返したりしたら、いや、こいつらが乱暴にしたら、破れてしまうかもしれない。そんなの。


「お、おい。だいじょうぶか?」

「くびのちかく掴まれてるぞ!? ちょ、おまえ離せよ!」

「いい。こういうとき、どうすればいいかって父上からきいたことがあるんだ」


 くそ、こうなったら、僕が汚れるのは構わないから、せめてそのハンカチだけでも!


「おっと、おとなしくしろよ? あばれると、こいつをビリビリに破くぞ」

「っ!?」


 こ、こいつ。


「やだよなぁ、ひとから借りたものをボロボロにするような奴だって、思われたくないよなぁ。それに、これも大事にしたいんだろ?」

「……っ」

「ならよう、ちゃんと、情けなく、痛いヨォ痛いよぉって、泣き叫んでくれよな?」


 頭にくる。こんな、こんな卑怯で、最悪な奴なのに……でも、でも。今まで、ひどい事をしてしまっていた、メタリアさんのものだ。これ以上、酷い事なんて……


「……わ、分かった。ちゃんというから、だから、だからっ」


「それ以上言う必要ないわよ、アレウス。破らせておきなさい」


「……え?」


 聞こえないはずの、声が、聞こえた気がした。



一人前って言われるの、結構嬉しくないですか?

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