メンタルにクリティカルダメージ、9999。
「ありがとうございます、おとうさま! めとらん、いちどはいってみたかったのです!」
「あぁ、うん……ダリア君もオススメしてくれてる、からね」
すっごい微妙そうな顔してんねぇお父様。気持ちは実によくわかるヨォ、うんうん。そりゃねぇ、妾の子と妻の子が互いに知らぬ(私は勝手にバリバリ知ってる)とはいえ、顔をあわせるんだから。
「(大丈夫、大丈夫だ。メタリアは知らない。店にいる子が、妹のアメリアだってことは、知らない)」
とか思ってんだろうなぁ、お父様。脂汗すっごいし、悲しいくらい分かりやすいよ。表情もカエル染みて……いやカエルだよコレ! ガマってるよこれ! 目も飛び出てるしねぇこれ健康上やばいんじゃないのけ!?
「お、おとうさま、かおいろが」
「ハハッ、平気さ、平気、平気ヘイィィいいいいアァアアッツ!」
「おとーん!?」
おとんのSAN値もうダメやんけ! 頭までしっかり抱えてよぉ、そこまで会わせたくないんか!? じゃあなぜウチに迎え入れようなんて考えた! 家で毎日顔合わせるんだよ!? これの比じゃねーぞ、心労は! 自殺でもしたいの!?
「あの、おとうさま、」
「だ、大丈夫さ、そうだとも……はぁ、はぁ、美味しい、スイーツ、を、さ、買いに行くハァ、だけ、はぁ、だから、ね」
「だめのようですわね」
いつものダンディが消え失せて、スマイルがニヤケ面……唾液もセット。これじゃただのイケてる犯罪者だよ……顔のいい犯罪者とか、いくらでも幼女誘拐し放題ですね。危ない。
「ふは、ふはは、可愛い可愛い我が娘、大丈夫だからね」
「はいはいおとうさま、すぐいきましょうね、まわりのひとのめがすさまじいことになっているのでっ……!」
「オウイエイ」
ダメだ、反応が死んでる、挙動不審も治ってない。そして周りの視線もいたぁい!
「め、メタリア、ダリア君からその、お菓子の店を、オススメされたんだ……で、でね。その、私がその店、『メトラン』についてどうこうと言っていた、とも聞いてね……私、何も言ってないと思うんだよ、いや、ホントに。そもそもメタリアにそのお店の話もしてないしっていうかそのお店に行き着かないようにちょっっと大人気ない真似もしたしその辺りどうなのかなって思うんだよホント」
「あ、す、すいません。おそらくおとうさまのかんちがいかと」
「勘違いか! 勘違いならいいよなんでもウン!」
お父様、えっらい大根役者だなぁおい。どうした、王宮ではもっとバリバリ仮面かぶっとるやろ、本気出して? もし私がガチ幼児でも『あれっ』って思うよ。
「それで、それでね。そんなに、その、そのお店に行きたいなら、私もそのお店のスイーツを買ってくるのもやぶさかではないというかそのね」
「おとうさま、おちついて」
『そ』が一呼吸に出過ぎでしょう、笑える、いや自分の親だぞ笑うな。
まぁ、分かるよ? そりゃ会わせたくないでしょうよ。誕生日にどちらにせよ顔合わせるにせよ、そこに至るまでは、そりゃ逃げていたいでしょうよ。自分だけが感じる気まずさから。
「う、うん……それで、どうだろう、いや、私が買ってきた方が、まぁ、手っ取り早いしそっちの方がいいよねうんどうだろう」
「いいえ、せっかくですしいってみたいですわ」
「そうとき、ま……ら、なかった、のね、買いに行きたい、のね」
うん。まあ、その罪悪感からは目をそらさせていただいて、私の未来のためにお父様の内臓には犠牲になっていただこう。まあ主人公の事を知る、つまり生き残る確率を跳ねあげる、ですから。
「とか、うかつでしたわ、ホント」
「うふ、うふふふふふうふふふふ」
「こ、ここまでおとうさまがせいしんてきによわかったなんて……かんぜんにふしんしゃとさらわれたいたいけなようじょですわ」
ちゃ、ちゃんと店にたどり着けるかすら微妙になってきた……衛兵さん来ないでよホント……周りしっかり見てないと、まじで大公が幼児誘拐で捕獲とかいう……
「……おい、あれ」
「分かってる、尻尾出したら、確実にひっ捕まえてやる」
って衛兵の方々もうマークしてらっしゃるぅううううっ!? 優秀でよろしゅうございますわねふぁっきゅーめん! お、お父様、早く、急いで、衛兵の皆様から逃れてーっ!
いや、今は頭がダメになってるんだった……くそ、こうなったら私が引っ張って……!
「おい、あの子、逃げようとしてないか……? でも男が逃さないように押さえつけてるのか!」
「やはり……! 真昼間から、平和な王都で白昼堂々犯罪とはな……男爵様の顔に泥を塗るような暴挙、許すわけにはいかん……確実に取り押さえるぞ」
いやぁああっ、状況が悪化してるぅううっ! こ、このままじゃホントに大公様が臭い飯を食らうハメにっ! チクショウ、家族関係のメンタルをもう少し鍛えておいてくださいお父様!
「あ、あの、おとうさま! いそぎましょう、おかしがはやくたべたいですわ!」
「うむ? あぁ、そうだネ、アイに行かないとネ」
さ、再起動したけど目が遠いなぁ……うーむ、娘に会いに行くだけでこんなんになるとか、実際に私たちが邂逅したら一体どうなるんだろう……ショックで心臓麻痺とかほんとやめてくださいね。
何だろう、ゲーム内じゃあんなに頼りになる人、って印象が強かったけど……現実って不思議だね。
親父を露骨に下げていくスタイル……でもしゃーないんです、爺を有能に描いたので、そしてこれからも有能さ加減を発揮するので、お父様でバランスを取らねばならんのです……