元ヴィランと元ヒーローが手を組んで
ち、ちくしょう! だいぶ時間ロスしちまったじゃねぇかこのアホ娘! お前どうしてロイ君の居場所把握しとかないんだよぉ! うん! ロイ君が向こうから来てくれたから甘えてたからだね! 大人の皆さまの間を抜けて、ようやく見つけたわ!
「もう! ロイ君! このイケメン! 私一番の剣だよ君はぁ!」
「お、お嬢様……なんと勿体無いお言葉……私、感激至極にございます!」
褒めてんだよぉ! あ、いやそれはそれでいいんだ、ちゃんと褒め言葉だって受け取ってるし……そうじゃなくて!
「あ、あのそれでね! ちょっと聞きたいことが……あの悪ガキ達どうした!?」
「どうした、ですか? 今のところは、不審な事はしていないかと……」
あっ、そう。なら大丈夫だけど……となると、気にしすぎ……というには爺の言葉は説得力がありすぎる。まだ動いてないだけかもしれない。
「何かあったのですか?」
「まぁ、何かあったっていうか、何か仕掛けられたというか」
「なるほど。何かを残して、アレウス様を誘導する可能性、ですか」
「ありえそうかな」
「十分に……私、以前の仕事でもそんなやり方を教えられたことがあるので。しかしそうなると、少し厄介なことになりますな」
「厄介?」
そりゃそういうやり方取られたら近付くのを警戒する意味が無くなるけど、やられたとかじゃなくて、厄介って。まだ面倒が隠れているような。
「えぇ、厄介です。万が一この会場の、相当外に呼び出されでもすれば、私では追いきれません。私は、あくまでお嬢様の護衛ですから」
「……そっか、この会場内なら兎も角、外まで行くのは」
職務怠慢だと思われて、誰かに止められるだろう。クソ、よりにもよって、頼りになる大人の楔になってるとは! クソったれ!
「な、ならあいつ等が動き出すのに合わせて私が追跡すれば!」
「それも厳しいです……このパーティの主役が誰か、お忘れですか」
ガァァァァアアアアそうすっねぇ! 勝手に抜け出して大暴れしたのがバレたら、とんだお転婆だと大公家全体が笑いものになりますねぇ! 幾らなんでもお父様お母様方の顔面に泥は叩きつけられんわ!
「何てこと……どうすれば!」
「兎も角、彼らが会場の外へ向かわない事を祈るしか……いや、アレは!?」
「え、何々!?」
私は子供だから見えないんだよ!
「アレウス様と……三人の子ども! 言ってる側から外へと連れ出すつもりです!」
「でぇい嫌な予感はよく当たるなぁ!」
行かないと! だ、だけどこのまま行ったら、私は兎も角家族に迷惑が掛かる! だがこのまま連れていかれる家族を見過ごすのも……!
「くっ……ロイ、炭もってきて」
「炭? 何故炭など?」
「決まってる。思いっきり顔とか汚す。私が私だとバレなけりゃ、体調崩して倒れてるとか誤魔化すことも出来るでしょ」
びっくりしてんじゃない。当然だろう。家族に迷惑をかけない、問題を解決する。その為なら顔とかちょっと汚れる程度なら余裕なんだよ。
「後、出来るだけボロボロな服とか。物乞いっぽく見せた方が良い」
「そ、そのような事をさせる訳には! であれば私が行きます! 多少の職務怠慢に対する罰ならば、甘んじて受け入れる覚悟も!」
「それはだめ。ロイ、あんた自分の経歴、忘れたの」
ロイは、今でこそ、そこまで気にされてはいないが、一応元は騎士団の裏切り者として警戒されていたのだ。今回の職務怠慢が原因で、その時の悪感情が再発したら笑い話にもならないだろう。
「その程度なら覚悟は出来ています!」
「あんたが出来ていても私はあんたにそう言う目を向けさせたくない。私の一番の家臣には、ね。それくらいなら、私が泥をかぶるわ」
「お嬢様……!」
君には助けてもらった。恩がある。それを返さないで仇を贈れるほど私は図太くなんてない。なにより、自分が泥を被った方が……!
「――ずっと楽、か。メタリア」
「っ!? シュレク!?」
な、なんで……って、異常があったら知らせるように言ってたっけ。でも爺の所から離れてるし、良く分かったなここに居るって。
「まぁ、色々ある……話は聞いていた。アレウスが消えたのも理解している。その上で言おう、ここは俺に任せて欲しい。出来るだけ、気を引こう」
「気を、引く?」
「会場のだ。その間に、アレウスを連れて戻って来い。何なら一発くらいは吹っ飛ばしてもいい。多少の乱闘なら、美談に変えてみよう」
えっと、それは、もしそれが上手くいったら万々歳なんだけど……出来るのか?
「心配している顔だな。ふむ、聊か不満に思ってしまうものだな……オレを誰だと思っているんだ? 安心して任せると良い」
……ふふ、くく。初めて会った時からは、想像も出来ない程傲慢とエゴに溢れた台詞だ事で! オッケイ、そこまで言えんなら大丈夫だろう!
「了解だ、我が共犯者殿! 精々私が暴れる時間を稼いでおくれ!」
「請け負った」
「ロイ、行くわよ……いや、その前にちょっと持ってきてほしいものがあるの。それ持って、アイツらが出てった出口に集合。おっけぃ?」
「分かりました。ではお嬢様は御先に行ってお待ちください」
さーて、真っ向からケンカするのは初めて、かな。まぁ無理って事も無いだろうし出来る限りのことを……ん?
「はぁ……はぁ……お姉、さま」
「アメリア、どうしたの? パーティはまだ終わってないわよ? それともおてあら」
「アレウスが……悲しそうな、顔を……普通じゃ、ないくらい」
「……そう。気が付いたの、アメリア」
……あぁ、まっすぐな目だ。
直ぐに弟の異変に気が付いたんだろう。そして、居てもたってもいられなくって、兎に角何か、行動しようと思った。で、私の所に来た、と。流石主人公、こういう時、目的の人をあっさり見つけられる辺り、運の良さは人一倍、か。
「じっと、してられなかった?」
「……はい!」
そうか……ならもう、そろそろ隠す意味もないだろう。孤立無援は寂しいから、丁度援軍も欲しかったところだ。行こうじゃないの、妹よ。
「なら共に行くわよ。後に続きなさいな、アメリア」
「……はいっ! お供します、お姉さま!」
悪役令嬢と主人公が手を組む、か。悪くない!
こういう物語って、悪役令嬢な主人公と原作主人公が組むことはないと思うんです。あんまり。
それって多分、大抵の事はどうにかなってしまうから。




