変態って怖い(by第三王位継承者)
っと、こうしてる間にこんな時間か。そろそろ戻らないと。ないとは思うけど、万が一の場合は私も傍にいた方がいいだろうし。
「じゃ、また後で」
「いや、離れるのは色々面倒だろう。アメリアとも会いたい、俺も同行しよう」
「あっそう? 別にいいけど、他の貴族さんと顔合わせ、終わったの?」
「一段落はついた。問題はない」
そうか。ならいいか。それにシュレクが近くに居れば、案外向こうも諦めるかもしれないしなぁ。うん。良し、あれだ。核弾頭的な抑止力になってもらおう。
「じゃあこっち。ほら、あの中心よ」
「成程……一応聞くが、近くに誰が控えている?」
「え? 白鯨騎士団の中でも腕利きがガードに付いてるし、爺も見張ってるけど?」
「……それだけ居るのにあの人だかりとは。俺の影響力の強さを改めて理解した気がするな。喜ぶべきなのか、些かありすぎるべきだと、呆れるべきなのか」
「はぁ?」
どういう意味よ……っていうか、言われて改めて見りゃ、さっきより凄い人数増えてんた。エライ人混み。あれを騎士の人たちが必死になって押しとどめてんのか。ご苦労様ですホント。後でお菓子差し入れます。
「あー……あの中まで行けるかな?」
「俺がいればそう難しくもなかろう。さっさと行くぞ」
うわでたよ王族特有のジャイアニズム。自分が通る場所は当然確保されるだろうって? かーっ! 偉ぶってもいないし当然とも思ってない、そういう態度が鼻につかないのが逆にムカつくワァー! まあ行くけど……しっかし壁みたいだな。この人だかり。
「ええい、後ろからではよく見えん、もっと、もっと前に!」
「押さないでくださいよ! あれだけの美姫、見ておかねば損というもの!」
ひえっ……き、貴族としてあるまじき真っ黒な欲望を見た気がする。もう少し自分の事を冷静に考えてみよ? ブーメラン? 知らんな。
「おい」
「ええいなんだ! 今はあの美術品もかくやの令嬢を眺めるので忙しい、後にし……」
あ、気がついた。まぁ、王族だしね。しっかり声も覚えとかないとやばい時もあるしねぇ。顔真っ青ですぞぉ?
「お、おうじ……そ、そのですめぇ」
「我が婚約者の妹に対し、凄まじいまでの執着だな。私の姻戚にでも居座りたいのか?」
「あ、いえ。そんなものより彼女の艶姿を見る方がよほど価値があるかと」
ぎゃああああああこいつ真顔でとんでもない事言ったぁあああああレスポンス速イィイィィいい唯々キモいいいいしかも王族にとんでもない事言ってんのに全然気にもしてなぁああああいぃぃぃぃいアメリア可愛いけどここまで来ると洗脳だヨォォォ!
「……ど、どうすれびゃ、こ、これは、その。えっと、あのあのあのあの」
「ぎゃああああああシュレクゥウウウウウ!?」
シュレクがキャラ崩壊起こした上でバグったぁあああ!? 気持ちはわかるけどっていうか私も一刻も早くここを離れたいですぅううう!
「し、しっかり! 頑張りなさいシュレク! いやほんとここで諦めたら、ダメよ!」
「し、しかし、正直……今の反応は、常識の外にあるというか、背筋が凍るというか」
うわぁ! あの鉄面皮が若干涙目になってる!? ぱ、パーティの筈なのに煌びやかで華麗な印象なんざかけらもなくなってるよぉ!?
「お、王子、お気を確かに……こっちの奴は、少々と美しいものに関すると暴走するきらいがありまして……すいません、いまどけます」
あ、すいません隣の人。良かった、どいつもこいつも変態じみてる訳じゃないよね! いやーその変態お願いします、連れてっちゃってください常識人さん!
「ほらシュレク! もう怖い人いないから、立ち直って!?」
「……そ、そうか。すまない、些か情けない姿を見せてしまった」
「いいから、ほら、行こう!」
良かった。このままクッソグダグダに終わったらシャレにならん。そっか、こういうえげつない混沌的な相手は私の方が耐性あるのか。これに関しては、色々とバラエティが豊かな事が自慢な現代感覚がありがたいな。
「良し……すまないな、通してくれ」
「……こ、これは王子。どうぞお通りください」
おぉ、ちゃんと退いてくれた。でも退いてくださった皆様、いろんなところに視線を散らしてるんだけどさ。あれだよね、さっきの件を見ていたからだよね。もしやそういう嗜好あるの? やめてね? さらけ出すのは。
「あ! おつかれさまですお姉様!」
あ、騎士さんお二方、お疲れ様でーす。失礼しますねぇ。アメリア、お疲れ様。
「シュレク様も! お久しぶりです!」
「シュレク様……王子様、メタリアさんの、婚約者」
「いやー、挨拶回りも終わったからね。まぁ久しぶりに顔を見せようって。ね?」
「うむ。アメリアとも顔を合わせたかったからな、メタリアに頼んで連れてきたもらった」
まあそれだけじゃないけど。
「……あれ? シュレク様、どうなされたんですか? ほおに涙のあと……」
「アーイヤーソノーネぇ!?」
シュレク! これ言っていいのか!? 結構情けない顔してたけど、その、顛末とかさ諸々ね!? 黙ってた方がいい!?
「(ど、どうする!?)」
「(……話しても、構わない)」
あ、そう? なら正直に言っちゃうか。まぁ嘘つくのは気分も宜しくないしねぇ。まぁシュレクがそういうのを気にしないタイプで……
「(……だが)」
「(ん? 何よ)」
「(……話さないで、くれると、とても、嬉しい……)」
「あーそのね! あの! 私が無理やり食べさせた料理がちょっと辛すぎてね!」
そんなとっても悲しい表情しなくてもいいじゃないかよ……話さないから、安心なさいよ。大丈夫だから。
自分の常識の外にあるものってめちゃくちゃ怖いもんです。