王家の本気は見せちゃダメ。
予想以上に注目されたな私……疲れた。お、水。サンキューシュレク。
「まあ、想定の範囲内ではあった。お前は俺の婚約者だ。それだけも注目には値するというのに、その上……」
ん? なに、どしたの。なんでこっち見てんのさ? 見たってなんも出ないぞ。おい。
「……本人はこれだ。頭を回して色々と気を揉む方が、どうにも馬鹿らしいか」
「コレってなんじゃい。何となく馬鹿にしてるのは伝わるぞ」
ニュアンスって知ってるか? まぁ、現代になってエライ勢いで広まった考え方だけどさ、この時代の方が寧ろ使いこなしてんじゃあないのかね?
「程度はそこまででもない。安心しろ、とは言わないが」
「何それ?」
安心しろって言わないってどうなんだよそれは。それ大分程度があるって言外に言ってるだろアンタ。戦争か? 場所を変えて敢えて戦争するか? 目が無い場所でよぉ。
「張り合ったりはせんぞ……場所が場所だ。まぁ、いずれ改めて決戦しようではないか」
「おーおー人の心読んでくれちゃって。そっちの方が話が早いからいいけど」
「直接は読んではない。お前の表情からある程度推測する事は容易いが」
相も変わらず、私の表情は読みやすいってか。そりゃアンタが優秀なだけだっての。ったく、天才ってのは本当に厄介というか。
「そうかい……っと、そういえば」
爺に見張ってもらってる方は……ん、問題あったら縦に振る、問題なければ動かない、で? 私が見てんのに気が付いてなお、動かず、と。
「いまんとこは動きは無し、か。このまま大人しくしてくれるとありがたいんだが」
「何がだ?」
「ホビット!? い、いきなり後ろから話しかけんのは勘弁だ共犯者!」
私の心臓を停止させる気かこの野郎。
「ちょっと……まぁ、弟関係で色々あるのよ。で、その為にちょっと動き回ってるの」
「また面倒事に絡んでいるのか。共闘した俺が言えた義理ではないが」
「そのさきはいうなや。じぶんでもかなしくなりそうなんだよ」
どうして私はこんな世界に生まれたんでしょう。いや、全部が物語通りに進むわけじゃあないってのは分かってるけどさ、でもそれをぜんぜん無視していける程能天気じゃいられんわ。
「……それで、詳細は」
「んえ? ……もしかして、力貸してくれる、とか?」
「俺個人の力であれば、ある程度な。共犯者だろう、多少手も貸すさ」
いやぁ、個人でも全然かまわない、っていうか下手な権力よりアンタ個人の方がよっぽど力になるしね。
「多少どころか百人力よ。よろしく頼むわ」
「そう言って貰えるのはありがたいな」
「子ども同士のいさかい……いや。一方からの蹂躙、というのが正しいか」
「それでこの会場にいるのよねぇ、その問題の悪ガキが」
「なるほど。神経質にもなる、か。それで、お前の家の使用人統括殿に、わざわざ気にさせている、という訳か」
いやそれ言ってないんですけど……何? どうして知ってるの? 今んとこ招待客の皆さまにする給士連中を仕切ってるだけにしか見えないよ?
「ちょくちょく、彼に視線をやってただろう?」
「いやそれだけで見抜かないでくれる……? 全く、よく見てるよねぇ」
爺も忙しいので、私が命令なんざできない。だから、どんな感じか教えてくれるだけしてくれれば良いって事で。視線を向けてるだけだってのに。
「まぁ、今のところは接触はないらしいけど……まぁ、向こうにロイ、監視を爺に頼んでるから、万が一も無いと思うけど」
億が一の可能性を引いたらもう諦めるわ。もうそこまで行ったらバッドラック。
「ふむ、お前にしては頭を使っている、か?」
「オイ失礼だな。私はどちらかと言えば頭脳派だぞ。勘違いしちゃいかんぞ、えぇ?」
「いや、直感を重視して動き、思考を置き去りにする方ではないのか」
おい、私の本質を見抜くんじゃねぇ。ふざけんな、まだ印象とかの諸々で修正効くんだからさ、バラさないで!
「誤魔化しても、何時かは化けの皮は剥がれる。本性は、いずれ露になるぞ」
「正論で叩きつぶすのやめろ。泣きたくなるから。止して頂戴」
心がしんどくなるんだよ。お嬢様はそこまでハート固くないしさ。優しくして?
「まぁ、事情は把握した。何か起きた時、俺で良ければ加勢くらいはしよう」
「いんにゃ、直接はやめてくれ」
「何故だ? 万が一、彼らが再びお前の弟と衝突すれば……」
「まぁ荒事になるわね。十回に、八、か、九回には。だけど、それでもだめ」
ここらへんはまぁ、やっぱりシュレクの立場が関わってくる。
「シュレクは王子として、一応顔が知れてる。そのシュレクが加勢したとあれば……」
「……なるほど、問題の規模が広がる、という事か」
「正解。一を聞いて十を知るってのはあんたみたいな奴の事を言うんだろうね」
まだ貴族のお子さん同士のいざこざで済んでる。当事者同士で済む。だがここに王族が絡んでくると、話はめちゃややこしくなる。
「最悪、父が出張る可能性もあるか。大公の問題にかかわったとなれば」
「え、何それは……そこまで行く?」
「行くだろう。王家の血族という縁はお前が想像するよりはるかに重い。他の貴族の子息といざこざがあったとなれば、場合によれば王家とその一件に関わった全ての家との話し合いにもなる」
ヒエッ。貴族怖い。王家と貴族怖い。そんな大事にしなくていいから。
「ま、まぁね。兎も角、そう言う事だから、陰ながらサポートしてくれると嬉しい」
「分かった」
あーびっくりした……そんなんなるの王家って。怖いよ。
最近気が抜けてるようなので、気合い入れ直したいです……




