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9話

「さて……と」


 再び自宅まで戻って来たアポロは、本を置いた後、ひぞまずは居間として用いている部屋まで行き、簡単な食事をとろうと調理場まで向かう。


(……ん?)


 ふと、違和感を覚える。

 何か、どこかが違っているようなかみ合ってないような感覚。


 不審に思いながらも、簡単な食事を作ってそれを食した。


 だが、再び居間に戻り、一度買ってきた本を本棚に入れようとした時にその違和感の正体に気がついた。


(配置が変わっている……?)


 アポロが、本などはぴったりと突き詰められた感覚が苦手だった。

 それは子供の頃、異様なまでに整理整頓するようにしつけられた事が影響しているのか、完全に本が揃っている状況ではなく、少し斜めにずれた状態である事の方が逆に安心するのだ。

 そのため、本棚に入った本は、少し斜めに傾けていれてあった。

 だが、今はしっかりと揃っている。


 再び今、そして調理場を見る。

 改めてみてみると、やはり違う気がする。

 ものの配置が少し変わっているのだ。


(空き巣か?)


 そう思い、金目のものを一つずつ確認していくが、持ち去られた様子はない。


(ああ、そういえばこれもか)


 セレニアの黄金像のところに立つ。

 まだ話せる状態でないのか、無言のままきらきらと輝いてみえる。


(やっぱり盗られてはいないか)


 泥棒の類ではなかったのか?

 そうだとしても、わざわざ散らかした部屋を元に戻すなど奇妙な話でもある。


(これを持っていかないのも不自然だしな)


 再び黄金像に目を向ける。

 どう考えても金目の物だ。売れば、それなりの値段にはなるだろう。


(いや、持ち運ぼうとすればばれるからか?)


 浮遊魔法を用いれば、重さは問題にならない。

 だが、人目にはつく。

 こんな黄金像を持ち運びしていれば目立つ。


 事実、自分がこの家に持ち込んだ事も見られていたようではないか。


(あるいは、熱心な神聖教徒ならセレニアの像なんて嫌がるか?)


 何せ、神聖教に魔王と忌み嫌われて伝わる伝説の存在だ。 

 いくら黄金像に価値があろうと嫌がっても不思議ではない。


「こいつが今すぐにでも話せればわかるかもしれないが――」


 そもそも、この状態の時に意識がどうなっているのかよく分からない。

 詳しく聞いておけば良かったか。

 いや、その機会なら今後に作れば良い。


 今はそれよりも。


「一応、聞いてみるか」


 家を出て、隣の家に行く。

 まずはマイクに話を聞いてみる事にしたのだ。

 彼は、隣に住んでいるのだ。何らかの手がかりぐらい聞けるかもしれない。



 マイクがすぐに出て来た。


「はいはい、どうしたんだ?」


「お前、今日ずっと家にいたのか?」


「ん? ああ、今日は休みだからな。それがどうした?」


「じゃあ、俺の家に誰か来てなかったか?」


「お前の家に?」


 怪訝そうに首をかしげるが、


「いや、誰も。誰か来る予定でもあったのか?」


「……そうか」


 やはり、誰も来なかったのだろうか。

 全ては自分の気のせいだったのかもしれない。


「何もなかったならいい。最近、物騒だからな。泥棒にでも入られたのか心配になっただけだ」


「そうか。お前、あんなもの持ち込んだばかりだしな」


「ああ」


 セレニアの黄金像の事だろう。

 アポロは頷く。


「全く。それで、変に神経質になってるんだろ」


 そうかもしれない。アポロも「ああ」と頷く。


「とっとと売っちまえよ。そうすりゃ、そんな不安からも解放されるぜ」


「いやまあ、それはやめとくよ。やっぱり」


「なんでだ?」


 あの黄金像――セレニアに関しての諸々をまだ話すわけにはいかない。


「ところで、マイク」


「何だ?」


「神聖教の過激派ってやばいのか?」


 その言葉に一瞬、ぽかんとした後、「はあ?」と怪訝そうに見られた。


「いや、前そんな事を言ってただろ」


「そりゃあ、な。色々と派手らしいし。ここは国教が神聖教で、今じゃ教皇様は国王よりも権力持っているって噂だし」


「そんなになのか?」


「ああ、相手が神敵なら大抵の事が黙認されるって噂だ」


「……そうか」


 ふと、思いついたのは神聖教の過激派だったのではないかという可能性だ。先日、マイクから話を聞いていたらからかもしれない。

 宗教の過激派が、空き巣の真似事とは、似合わない話ではあるが、黄金像の噂でも聞きつけて来た可能性だってある。


(そりゃないか。何せこの黄金像を貰ってほんの数日だしな)


 だが、すぐに内心で否定した。

 やっぱり、ありえないような些末な可能性だろう。


「ありがとう。参考になった」


「……おい。何かやばい事でもしたんじゃないだろうな? 急にそんな事を聞くなんて」


「おいおい、お前が言ったんだろう? あんな黄金像持ち込んだらおかしな噂をたてられるって」


「それはそうだが。多分あれだけで、神敵認定はされない。多分……」


 マイクは自信なさげに言う。

 その答えに何となく不安に思いながらも、聞いておく事にした。


「一応、聞いておくけど。神敵認定されたらどうすればいい?」


「国外にでも逃げろ。それも、神聖教の力が弱い国に。国教が神聖教の国じゃあ、どこにいっても同じだ」


「……それもそうか」


 あまり参考にはならなかったが、アドバイスとして有り難く聞いておく事にした。


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