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6話

 その日、アポロはいつもの居酒屋に向かう。

 店主への挨拶もそこそこに、目的の人物をあっさりと見つける事ができた。


「ここにいてくれて助かった」


「アポロさん」


「ティム、ちょっと相談したい事があるんだけどいいか?」


 こちらに気がついたメガネをかけた青年魔術師が、少し驚いたようにしながら目をぱちりとあける。


 彼――ティムとパーティを組んでいたのは5年ほど前になる。

 当時は魔法学院の学生だった少年だったが、その豊富な魔力量と歳不相応ともいえる知識の多さに助けられていた。

 冒険者としての実績が必要だったとかで、3年ほど活動をしてから引退した。引退当時のランクは、Cだ。

 そのまま活動を続ければ、間違いなくBにはなっていただろう。


(まあ、それ以上の上は難しかったかもしれないが)


 AランクとBランクの差は大きい。

 それは、Bで長い間止まっているアポロだから分かる事。


(いや、そんな事はどうでもいいか)


 頭の中で首を横に振る。

 そして、話を続けた。


「智慧を貸して欲しいんだ」


「僕が、ですか? アポロさんには冒険者時代、お世話になりましたから別にいいですけど……」


 少し困惑した様子だった。


「でも、僕は冒険者を引退していますし――」


「いや、冒険者云々とは関係なく魔法に関する事でいくつか聞きたい事があるんだ」


「はあ。でも分かる事と分からない事がありますけど」


「信仰力に関してだ」


 そう訊ねる。

 そもそも、信仰力というものに関してアポロはいまいち詳しくなかった。

 時折、パーティを組む神官が口にしているのを聞いた事があるが、せいぜいその程度だ。


「信仰力、ですか?」


 なぜ、不意にそんな質問をしたのだろうか。

 そんな疑問が顔に書いてある。

 だが、深く聞かずに考えてくれている。


 そういったところが、彼を信用していた点だし頼りにできた。


「まず魔法と信仰力っていうのはどう違うんだ?」


「そうですね。単純にいえば、魔法と呼ばれる力は個々の魔力のみを用いて使う奇跡。一方、信仰力と呼ばれる力は、多くの人々の思いによって使われます。だからこそ、個人で使うだけの力であるただの魔法では、信仰の力――神聖力という呼び方もしますが――で戦う人達には勝てません」


 す、と目の前に置かれた紅茶を飲んでからティムは続ける。


「古の時代の英雄アスラなども、人々の信仰の力を受け、魔王セレニアを打ち倒したといいますし」


 英雄アスラと魔王セレニアの名を聞いて、少し眉がぴくりと動いてしまう。

 だが、言葉を遮る事なく先を促した。


「英雄アスラを崇める神聖教や、神聖騎士団などもこの信仰力が力の源です。アスラ信仰がある限り、彼らは本来の実力以上の力を発揮できます」


 神聖騎士団は、神聖教お抱えの騎士団。

 アスラ王国軍とは命令系統が別であり、そのため王国軍と何度かいざこざがあったらしい。

 まあ、今は関係がない話だ。


「なるほど」


 その信仰力がほとんどないため、セレニアは黄金像化の呪いを解除する事ができない。


「その信仰力を高めるにはどうすれば良いんだ?」


「どうってそりゃあ、崇めさせるしかないのでは?」


「崇めさせる、か」


 多くの人々から崇められる存在――それはまさしく神だ。

 あの少女に対し、そのような思いが集まれば彼女は復活できるのか。


「具体的にどうすれば?」


「具体的に、と言われましても。例えば多くの人の前で奇跡を起こすだとか、街を救って見せたところに君臨する、とかですかね?」


 黄金像のままの状態ではそれも難しいだろう。


「そうか……」


 人々がセレニアを神だと崇めるようになれば、信仰力が集まる。

 そうすれば、元に戻せるかもしれない。


 一応、一つの解決策は見えた。


(だけど――)


 多少、衰えつつあるとはいえこの神聖アスラ王国では英雄アスラ信仰と魔王セレニアへの畏怖は大きい。

 ここでセレニアこそが神など主張しようものなら、袋叩きにあうだろう。


(何か策を考える必要があるか――)


「アポロさん」


「?」


「僕の話、参考になりましたか?」


「あ、ああ」


 不意に黙り込んでしまったせいか、少し心配した様子でティムが話しかける。


「一応、どうすべきか道は見つかったよ。ありがとな」


「そうですか。 ……何か、とてもいい顔をしてますね」


「そうか?」


 思わぬ言葉にティムも聞き返す。


「ええ。ここ数年では見た事がないような顔です」


「そんな顔してたか?」


「はい」


 店主にも似たような事を言われたが。

 自分は今、充実しているのだろうか。

 確かに、一つの目標ができて燻っているような日々よりも、毎日を楽しんでいるようにも感じる。


「何をしようとしているか知りませんが、頑張ってくださいね。僕もできる限りの協力はしますから」


「ああ、また頼むよ」


 ティムは今、王都で何らかの重職に就いているらしいが、休暇をとってよくこの冒険者街、そしてこの居酒屋に来ている。そのため、引退後もアポロとの関係は続いている。

 だが、本来は多忙らしく急に王都に戻るような事も何度かあった。


 彼にも彼の立場がある以上、頼り切りになるわけにはいかないが、彼の知識は大きな助けになる。


 ティムに礼を言って、アポロは居酒屋を後にした。


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