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螺旋に沈む世界  作者: 島 一守
魔王が生まれるまでの七日間
6/10

6.ふたり

 今生の別れを覚悟した二人の再会。人目もはばからぬ抱擁に、周囲の村人達も茶化すでもなく、皆一様に自身の事のごとく喜んだ。

しかし、そうしているとダイは突然、わき腹を押さえうずくまる。


「あだだ……」

「どうしたの!? もしかして傷が開いちゃった!?」

「すまない。……傷はないんだが、どうやらご馳走を食べ過ぎて、体がびっくりしたみたいだ」


 心配させまいと咄嗟にそう答えたが、事実少年の魔法によって傷ひとつなく回復しているのだ。

本当は自身で考えている以上にリーンとの再開が喜ばしく、それによる不調であろうと彼は考えていた。

けれど、少しの気恥ずかしさが彼に冗談交じりな言葉を言わせたのだ。


「もうっ! こっちがびっくりするじゃない!」

「悪い悪い。さっ、リーンも腹減ってるだろ?」


 そう言って自身の皿に盛られた山盛りの料理を差し出すが、彼は再会の喜びからか大切なことを忘れていた。


「それよりも先に……。貴方がダイを助けていただいた旅の方ですね。

 村長よりお話は伺っております。このたびは本当にありがとうございまいた」

「君が……彼の治療をした魔導士だね? 魔力の残り香でわかったよ。

 あの魔術痕……君ほどの魔導士を僕は知らないな」


 少年の礼に対する反応は無い。けれど、村長やアルマの時とは違い、リーンの魔導士としての才能には興味を持ったようだ。

しかし、村長に詳細を聞いているリーンにとっては、自身より強力な魔法を使う者から褒められても、嬉しくはあるがバツの悪さを感じるのだった。

それは、自身の力不足からダイを置き去りにしたという後ろめたさでもあった。


「お褒めいただき光栄です。けれど、貴方は魔導だけでなく剣術にも優れていると聞きました。

 私も双方は難しくとも、せめて魔導はもっと精進せねばなりませんね」

「そっか。頑張り屋さんだね。じゃ、そんな君にちょっとしたプレゼントをあげるよ」


 少年は持っていたカバンを開け、ごそごそと中を探る。そして中から金色の首飾りを取り出した。

それはシンプルなチェーン状のデザインの真中に、ひとつの小さな小さな、水色の宝石があしらわれている。

その宝石に、リーンは思わず見とれてしまう。


「まぁ、綺麗……」

「これは魔石で、この石から魔力を引き出す事ができるんだ。君に必要なんじゃないかな」

「えっ……? 魔石……?」


 軍学校で魔導を専攻していた彼女ですら初めてお目にかかる代物、魔石。それは長く生きた魔物の中のみに発生する石である。

魔石持ちの魔物となれば、それは国軍総出で戦ったとしても倒せるかどうか、授業の中で教授が口ごもるのを彼女は覚えていた。

しかし”魔石持ち”と呼ばれるそれらの魔物は、魔石を介しての魔力を行使するため、魔石を砕けば活動できなくなる特性がある。そのため弱点とも言える石である。


 つまり、その魔石を砕く事なく取り出す、それがどれほど難しい事であるかは言葉にするまでも無い。

どんなに小さくとも、国宝級であり、値など付けようが無い物である。


「そっ……そんな高価な物いただけませんっ……!」


 周りの村人は魔石に対する知識もなければ、もちろん見た事も無いのだから「高価な物なんだ」というくらいにしか捉えていないが、その価値を知るダイ率いる三人にとっては信じがたい光景である。

それを貰い受ける事などできるはずもなかった。


「んー、僕が持ってても仕方ないんだよね。それに魔力貯蔵庫として使えるから、万一の時にもあると便利だよ?」

「ですが……助けていただいた上に、身に余る代物ですわ……」


 その言葉に彼女の気持ちが揺らがなかったわけではない。

もしこの魔石を持っていたならば、今回の洞窟での一件は違った結末になっていただろう。

この少年のように、洞窟内の魔物を殲滅するまでには至らずとも、逃げ延びることなど造作も無かったはずだ。

だからといって、そう簡単にそれを受け取れるほどリーンは図太くはなかった。


「じゃあこうしよう、これは君に預けるよ。魔石ってのは魔力の結晶で、貯蔵庫みたいなものなんだ。だから、魔力を込め続ければ成長していくんだよね。いつかまた会うときに、大きく成長させて返してくれればいい」

「でも……」

「リーン、厚意を断るのも失礼だ」


 少年の旅の目的を知る彼は、それが他の意図を持たぬ親切心であると分かっていた。

だからこそダイは、預かるにしても分不相応のそれを受け取るよう促した。

その言葉に背中を押され、彼女は首飾りを恐る恐る手に取り、そして首に付けてみせた。

魔石は、まるでここが居場所であると言わんばかりに青く光り輝く。

それは、彼女が次こそは彼を見捨てる事無く守り抜く、その想いに反応しているように見えた。


「それじゃ、リーンも食事にしよう」

「あれ? ケイは?」

「待ち切れなくて一人で食べてるぞ」


 彼の指差す先には、大男が皿に乗せられた料理を一気に流し込む姿があった。

それを見たリーンはあきれたように、けれどどこか嬉しそうに言うのだ。


「全く、この宴はただの夕食会じゃないっていうのに……。

 でもよかった。村に帰ってきてから上の空で、何も手に付かない様子だったから」

「あの頭の中まで筋肉ぎっしりなケイが上の空なんて……想像もつかないな」

「あ? リーン、お前だってガラにも無く村の移転作業手伝うとか言って走り回ってたじゃねーか」

「当然でしょ? 村の一大事なんだから」

「で、ダイ。お前が帰ってきた時どこに居たと思う?」

「そういや見かけなかったな」

「それはな……ぐっ!」


 その先を話す前に、ケイのわき腹をリーンの肘がえぐった。

蹲り口を押さえるケイは、若干顔が青ざめおり、急所に入った事が伺える。


「お前……食ったモンが出てきちまうだろうが……」

「なら口を縫い合わせてあげましょうか?」

「まぁまぁ二人とも、その辺にしておけ」


 その様子に三人は顔を見合わせ、プッと吹き出したかと思えばケラケラと笑い出す。

このいつものやり取りが再びできる。その奇跡に笑い、そして涙したのだ。

そんな三人に、会場の村人達も酒や料理を持って大騒ぎとなる。

それはこの彼らが村の守り手として、どれほど信頼されているかを表すものだった。

そして宴は夜更けまで続けられた。

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