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奇運のファンタジア   作者: みたらし団子
天道の箱舟
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第69話 魔素の本質

大変長らくお待たせいたしました!

 川口の部屋を出た美琴たちの姿は、天道学園の高等部にあった。

 今は休み時間のためか、生徒たちの楽しそうな話し声が校舎の外にまで届いてくる。それを聞いたカーラはというと……。


「思ったよりも賑やかだな。もっと、こう……廃れたような印象があったが」


 さも意外そうな声色でつぶやいた。


「いやいや、カーラ先輩。ここが廃れた印象って、何をどう考えたらそうなるんですか?」


「こんな辺鄙へんぴな場所だぞ。普通はこんなに集まらないだろう」


「……先生。確かに辺鄙っていえば辺鄙かもしれないけど、ここはあの天道が経営しているところなのよ」


 勇気もまた、呆れたように肩をすくめた。


「まったく、カーラは分かっていませんね。普通は、空に浮かんだ学校とはロマンがあって憧れるものですよ。正直なところ天道でなければ、私も通ってみたいくらいです」


「「「えっ」」」


「何ですか、その意外そうな声色は?」


「い、いやね……だって、姫様だと「不便な場所ですね」とか言ってバッサリ切り捨てそうな気がして」


「お前熱でもあるんじゃないか?」


「……あなたたちとは、一度しっかりお話をする必要があるようですね」


 美琴がジト目で「私を何だと思っているのですか」と呟くと、二人とも視線を明後日の方向へ背ける。

 そんな三人のやり取りを見てか……。


「ははははっ」


 突如、川口が笑い出す。

 彼の性格を考えると、人の目もある場所でこんな風に笑うとは思えなかった。それは、カーラもまた同様だろう。

 彼女もまた、興味深そうな視線を川口に向けていた。


「いや、失礼しました」


 川口も、そんな二人の視線に気づいたのか目にためた涙を指で拭う。


「突然笑い出したので驚きましたよ。何がそんなにおかしかったのですか?」


「おかしいと言いますか、何と言いますか。田辺さんは、とても先輩に似ているのに、軽いやり取りをしているのが信じられなくて。人間らしくて、その……誠先輩だと想像すると、ははははは!」


「さりげなく、私をけなしてません?」


 色々と言いたいことがあるが、お腹を抱えて笑っている川口には聞こえていないようだ。勇気は誠を知らないため状況についていけないようだが、カーラもまた川口と同じ想像をしてしまったのか、顔を背けて肩を震わせている。

 そんな二人の姿を見て、美琴は深くため息を吐く。


「いつまでも笑ってないで、はやく案内をしてください。時間は限られているのですから」


 美琴の背筋が凍るような声色に、川口ははっとなり慌てて頭を下げる。


「す、すみません。……で、では、最初に施設の方を案内させてもらいます。とはいえ、今日一日ですべてを見て回れるわけではありませんので、他の高校では見られない天道独自の場所を見て回りましょうか」


「天道独自の施設というと、具体的にはどういったものが?」


「最初の教室までは距離がありますので、歩きながら説明していきますね」


「月宮もそうだけど、無駄に広い学校よね」


「大方、下らん見栄の張り合いだろう。まったく、移動が不便で仕方がないな」


「ほんとよね」


「コホン! お二人とも、文句を言わない。……川口先生、説明の方をお願いします」


 後ろで愚痴を言い始める二人に注意をすると、川口に説明を促す。


「その説明をする前に、皆さんは四家の魔法系統の特色はご存じですか?」


「当然です」


「ああ」


 川口の質問に、美琴もカーラも迷いなく頷く。

 日本国内で魔法式やデバイスを研究している人間が知らないわけがないのだ。しかし、勇気は知らないのか……。


「魔法系統の特色? そんなのがあるの?」


 一人首をかしげていた。


「はい、ご存じないようですので一度説明をしますね。そもそも、魔法系統とはご存じですか?」


「ええ、もちろんよ。火属性とか水属性とかそういったやつでしょ」


「高校生レベルであればそれで問題はありません。しかし、大学ではその系統を属性系統と一つの系統でまとめています」


「えっ、ちょっとまって、それじゃあ他の系統って……?」


「身近なもので言いますと、医療系統や強化系統……最近では宗教系統と呼ばれるものがありますね。ほかにも色々とありますよ」


 川口が指折りで数えるが、勇気には理解できない話なのだろう。


「要するに、魔法学ではなく、その前の魔素学の話ってことだ」


「……?」


「カーラ、その説明でわかるわけがないでしょう。魔素を属性魔法にするのではなく、魔素というエネルギーの用途で分けると言えばわかりやすいでしょうか? 例えば、そうですね。魔素をデバイスによって魔法にするのと、魔素をガソリン代わりにして車を動かすのとでは違いますよね」


「あぁ。なんとなく、分かった気がするわ。それで、その四家の特色って」


 勇気が尋ねると、再び川口が説明を始める。


「はい。月宮は属性系統、土御門は強化系統、諸星は錬金系統、そして天道は具現化系統というそれぞれの系統に特化しております」


「具現化系統?」


 勇気が首をかしげると、川口は再び尋ねる。


「西川さんは、魔素とは何だと考えますか?」


「魔素? 魔素って、すんごいエネルギーのことでしょう?」


「随分とざっくりとした回答ですね……」


「こいつともう一人は、試験でも臆面もなくそう回答するからな。採点する気にもならなかった」


「穂香……」


 カーラの言葉に、美琴はもう一人の人物を思い浮かべて頭を抱える。


「ゴホン! では、そのすごいエネルギーとはいったい何なんでしょうね」


 川口はそう言って前を歩く。

 勇気は問いかけに対して考えるそぶりを見せるものの……


(何も考えていない表情ですね。さっきの話といい、この表情といい……彼はどこか穂香に似ています)


 本人が聞けば激しく否定することだろう。

 しかし、考えているように見せて何も考えようとしていないところはよく似てる。ただ、勇気の場合本当に考えているように見えるから不思議だ。そんなくだらないことを考えながら、美琴は顎に手を当てる。


(それにしても、魔素の本質ですか)


 美琴もまた川口の問いかけについて考えていた。


「魔素とは、もともとこの地球上にあったエネルギー資源の一つ……あらゆるところに存在する化学構造式を持たない元素の一つ、という考え方が一般的だな。尤も、それは有力な説の一つとして考えられているだけだが」


「ええ、その通りです。ですが、天道では具現化系統の研究を進めて、一つの有力な説を考えつきました」


 川口はそう言って、言葉を区切る。

 そして、一拍を置くと……


「魔素とは、精霊であると」


「精霊?」


「なるほど」


 川口の答えに、勇気は首をかしげるが美琴は納得した表情を浮かべる。


「なるほどって……。姫様は、その話を信じるの?」


「おかしな話ではないでしょう。もともと、日本では精霊信仰の考えが色濃く残っていますし、世界各地でアニミズムが存在しますから。魔素が精霊だったと考えれば……いいえ、この場合ですと精霊が魔素だったというのであれば納得できます。尤も、その確証はないのでしょうが」


「田辺さんのおっしゃる通り、未だ確証はありません」


 美琴の言い分に、川口は頬を掻く。

 まだ、これは有力な一説というレベルでしかないのだろう。しかし、美琴が納得しているのには別の理由があった。


(魔素が精霊たましいであるというのであれば、私ほどその生き証人はいないのかもしれませんね)


 ふと、そんなことを思う。

 しかし、それを美琴が口にすることはない。あえて話すような話でもなければ、天道であれば近い将来解明する確信があったからだ。


「話を戻します。天道の具現化魔法についてですが……百聞は一見に如かずとも言いますので、実際に見てもらった方が早いでしょう」


「随分もったいぶるわね。姫様やカーラ先生なら、知ってるんじゃないの?」


「知らん。知ってたら、こんなところまでわざわざ来ないぞ」


「私は噂程度ですね」


「えっ」


 勇気は心の底から驚いた様子だ。

 美琴やカーラでさえもほとんど知らないとは思いもしなかったのだろう。


「四家の情報というのは、なかなか得難いのですよ。他の四家どころか、月宮でさえも現在どんな研究を進めているのか分かりませんから」


「姫様でも、そうなの?」


「ええ。それに、天道は箱舟を見ればわかると思いますが魔素を兵器に転用していることで有名です。天道の【アマノ】がデバイスを作っていますが、高い技術力は見て取れるのですが、あまり特色がないんですよね。ただ、威力こそあるものの燃費が悪い気がしました」


「私も調べてみたが、よくわからん技術が使われていたな」


「カーラ先生でも分かんないの?」


 勇気の言葉に、カーラは不機嫌そうな表情を浮かべる。


「いくら、カーラ先輩でも畑違いですから。それに、根幹の部分は天道のブラックボックスです。カーラ先輩でも、調べるのは困難でしょう」


「……ただ、興味がなかっただけだ」


 川口のフォローに、認めたくないのかぶっきらぼうに言い返す。


「へぇ。ってことは、そんな貴重な技術の結晶を私たちは見れるってことなのね。でも、良いのかしら?」


「幽玄様が許可していますから。それに、近日中に公表する予定です」


「まぁ、どちらにせよ運がいいことには変わりありませんよ」


 雑談をしながら歩き続けると、ようやく目的地に着いた。


「こちらがアリーナの二階になります」


「「「……」」」


 開かれた扉の向こうには、一本の通路がある。

 側面がガラス張りになっており、そこから下にあるアリーナを一望できるのだろう。月宮学園でさえ、こんな光景を見たことはない。

 だが、それよりも驚いたのは……。


「いったい、どれだけの広さなんですか」


 美琴が震える声で尋ねた。

 一直線の通路だというのに、その先にある扉がとても小さい。三人が言葉を失っていると、川口がいたずらが成功したとばかりに忍び笑いをする。


「驚かれるのも無理ありません。高等部のアリーナは、ここ箱舟でも一番の広さを誇っておりますので。……普段は一つのアリーナとして使わず、十二に分けて使われております」


「単純に考えると、十二倍の広さということか……呆れた」


「まったくねぇ~」


 川口の説明に、カーラも勇気もため息を吐くと川口の後を追って歩き始める。

 美琴は最後尾を歩きながら通路やガラス窓から一望できるアリーナの様子を見渡していた。


「呆れるのも無理ありませんよ。実際、十二に分けたところで授業で使っているのは二つか三つですからね」


 先ほどから眺めているが、アリーナはどこも使われていない。

 にもかかわらず、月宮学園と同等かそれ以上の設備が整っているのだ。美琴は思わず……。


「まさに無駄ですね」


 美琴がばっさりと切り捨てる。

 これには、川口も苦笑しか出てこない様子だ。しばらくすると、川口は足を止めた。それに続くように、カーラも勇気も足を止める。


「どうかしました……」


 尋ねようとしたが、美琴の言葉は最後まで続かない。

 すぐにカーラたちが見ている光景を見て、美琴もまた足を止めてしまう。


「これが、天道の具現化魔法です」


 まさに幻想的な光景。

 アリーナの中では、水の魚が宙を泳ぎ、火のトカゲが地を這い、風の妖精が戯れる……そして、その中央には雄々しい翼をはためかせる伝説上の生き物の姿があった。


「龍……」


 そして、その足元には一人の青年が立っている。

 尋ねたわけではない。だが、心の中で思った疑問に、川口は答えた。


「彼は、天道龍哉てんどうりゅうや君。察していると思いますが、幽玄様のお孫さんです」







次話更新は、6月7日の12時です。

今後の予定としては、毎週土日に更新するつもりです。

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