第64話 カーラに頼み事(上)
今回は少し短いです。
申し訳ございません。
時間の関係で、上下に分けさせていただきました。
一度自宅に戻った美琴は、制服に着替えると月宮学園に向かう。
因みに、今日は登校日だ。すでに授業を終えて、部活紹介を行っているのか、放課後でも多くの生徒で入り乱れていた。
平然と授業をサボった美琴は、生徒たちの輪に紛れながらカーラの研究室へと足を運ぶ。
「……なぜ、あなたがここにいるのですか?」
カーラの研究室前に、見知った顔があり美琴は尋ねる。
「あら、お姫様じゃない。私は、キャサリン先生から頼まれて、カーラ先生に用があったんだけど……」
そう言って、扉を見る勇気。
昨日、葵に容易く開けられたことがショックだったのだろう。指紋認証ドアロックに加えて、二重にドアロックがかけられている。
おそらく、中にはドアチェーンまでつけられていることだろう。
「これだから、金持ちの引きこもりは……。少し良いですか?」
「ええ。姫様が声をかけた方が、出てくるでしょうしね」
美琴が前に出ると、勇気が扉の前を退く。
――トントントン!
規則正しいテンポで奏でられるノック音が響く。
「カーラ。私です、用があるので開けてください」
「……不良娘。いまさら何をしに来た。もう授業は終わっているぞ」
中から返事があった。
どこか恨み言でも言うような声色だ。
「所用です。というより、あなたに不良とは言われたくありませんよ。不良教師」
「ふっ、私は今日十分も教室にいた。放課後になって現れる不良娘とは違うのだよ」
「……十分って。全然誇れないじゃない」
まったくもって、その通りだ。
だが、カーラの中では十分も教室にいたという感覚なのだろう。当たり前のことのはずが、カーラであれば大した進歩だ。
そう思いつつも、美琴は深くため息をつく。
「私は忙しい。だから、用があっても帰れ」
「可愛い生徒が、教師に相談があって来たのですよ。そこは、快く助けてあげるのが、教師ではないのですか」
「ふっ」
美琴が自分で可愛い生徒と言うと、カーラは鼻で笑う。
隣では勇気もまた「可愛い……?」と首をかしげていたので、美琴は思いっきり足を踏んでやった。
「いった! ゴキッていった! 今絶対ゴキッて!」
「うるさい人ですね。少しは静かにできないのですか?」
「鬼! 悪魔! 魔王様!」
痛みのあまり目に涙をためる勇気は、甲高い声色ではなく本来の声色で罵詈雑言を美琴に浴びせる。
しかし、その程度の悪口など聞きなれているため、大人な対応で聞き流す。
その際、勇気の反対側の足を踏んだのは、単なる事故だ。芋虫のように転がっている勇気に一瞥することはない。
(まったくもって失礼な人たちですね。傍から見れば、お父さんの娘なんですから可愛いに決まっているじゃないですか)
と、内心憤りを顕わにする。
きっと、二人は美琴の内心を知っているからこその反応なのだろうが、美琴には関係のないことだ。
「私は時間外労働をしない主義だ。早く帰れ」
「そうですか……」
いくら説得しても出てきてくれはしないようだ。
それならば仕方がない……。
「……うん?」
中から疑問の声が上がる。
美琴が簡単に引き下がったことに、疑問を覚えたのだろう。
「えっ、ちょっ……! 姫様それは拙いですって!」
「大丈夫です、周囲に迷惑はかけませんので」
「いやいやいや! それ、絶対修理のおじ様たちにご迷惑をかけるやつですよね!」
「大丈夫です。カーラの研究室の扉がなくなっても、問題ないそうですから」
「おいっ、マコト妹! 何をするつもりだ!?」
二人の間で不穏な会話がされていることに気づき、カーラが焦ったような声を出す。
そんな勇気とカーラの二人に、安心させるような穏やかな口調で美琴は言った。
「安心してください。以前は競技用の威力でしたが、改造を施したこの【闇桜】なら、この程度の扉すぐに壊せますから」
美琴が自宅に戻ったのは、何も制服に着替えるためだけではない。
カーラとOHANASHIできるように準備をしてきたのだ。
「姫様が乱心!乱心なされた!」
「マコト妹、良識を思い出せ!」
隣と中から、悲痛な叫びが聞こえる。
美琴が魔素を練り上げ始めると、周囲の空間の重圧が高まる。これは拙いと思ったのか、勇気が美琴を羽交い絞めにする。
勇気自身、月宮の分家に連なる者の中でも上位に入るレベルの魔素を持っている。しかし、美琴の保有する魔素の量は文字通り桁が違う。
身近で膨大な魔素に当てられて、表情を青くする。
「カーラ先生、逃げてください!」
これは止められない。
勇気はそう思って、中にいるカーラに声をかける。カーラ自身、扉の向こうでシャレにならない魔素の高まりを感じているのだろう。
美琴が魔法を展開する、その瞬間だった。
――ガチャ! ガチャガチャ! ガチャガチャガチャ!
やけに長い開錠の音が響き渡る。
表面上は二つだが、案の定中にも鍵をかけているのだろう。しばらくすると、焦燥の表情を浮かべたカーラが出てきた。
そして、いつの間にかデバイスを仕舞って、平然とした笑みを浮かべた美琴を見て、カーラは察した。
「このペテン師が……」
「私は良識のある学生ですから。ふふっ、器物損壊を良しとするわけがないじゃないですか」
珍しく、逆の光景だ。
恨みがましい視線を向けるカーラに対して、美琴は余裕の表情。扉を閉めようにも、美琴の命令で勇気が足を間に差し込んでいる。
「……いや、カーラ先生が開けなかったら、マジでやるつもりだったわよね。目が本気だったもの」
疲れたように呟く勇気の言葉など、二人の耳には届かない。
美琴が顎で勇気を使うと、察したのか勇気が無理やり扉を開けた。
仮に、その光景を妖怪にパシリにされている元ヤクザさんが見れば、「お嬢、やっぱりこっちの人間だな」と感嘆の声を上げることだろう。
美琴がその称賛を受け入れることはまずないだろうが……。
「あっ、西川さん。もう帰っていいですよ」
「いや、私もカーラ先生に用があるんだけど……」
明日の昼頃に、下の方も更新したいと思います。
今後もよろしくお願いいたします!




