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奇運のファンタジア   作者: みたらし団子
奇運のファンタジア
54/92

第54話 エピローグ

本日二話目です!

誤字報告、ありがとうございます!

 大会は、美琴が一位で毅が二位という結果となった。

 スコアで見れば、本当に僅差である。デバイスによる衝撃こそ大きかったものの、やはりミスが多かったからだ。

 大会が終了して各々が解散する頃、美琴は毅と相対していた。


「言えっ! いったいどんな不正をした!?」


 感情的になっている様子の毅。

 やはり、二位という結果に納得がいっていない様子だ。当然、美琴は不正などをしていない。それこそ、美琴が二位だったとしてもおかしくない結果だ。


「私は不正などしていませんよ」


 美琴がどんな証拠を見せても、納得はしないだろう。

 見当違いな憤りに辟易とするが、毅はふとデバイスに視線を向けた。そして、「ああ、そうか……」と自虐をするように笑う。


「結局は金って訳か……お前らは、そうやって最新の物を揃えられる。はっ! 結局はそう言うことか」


 きっと、並列魔法具があれば……。

 そんなことを考えているに違いない。そんな自虐をするような笑いに、美琴は眉を顰める。


「またそれですか……結局はそこに行きつくんですね」


 美琴がため息交じりに放った一言に、毅は声を荒らげた。


「お前に何が分かる!? 恵まれた奴に、俺らの気持ちが分かるものか!」


 美琴は確かに恵まれているのだろう。

 四家として受け継がれた膨大な魔素とそれを制御できる能力。家計では苦労しているが、今回の件では月宮から実質的な援助を受けている。

 そして、カーラや弘人という卓越した技量を持つ技師から与えられたデバイス。

 魔法式にはかなり手を出しているが、美琴一人では絶対に作ることができないだろう。とは言え、こうも一方的に言われると腹が立って仕方がなかった。

 美琴が反論をしようとすると……


「ああ、ここにいたのかね」


 突然声を掛けられる。

 聞き覚えのある声に後ろを振り向こうとしたが、それよりも先に毅が反応した。


「西川さん……」


 振り返った先にいたのは、勇気の父親西川光秀だ。

 光秀は、息子に似た甘い笑みを貼り付けて美琴たちの側に歩み寄って来た。


「すみません、西川さん。俺……」


 酷く申し訳なさそうに謝ろうとする毅。

 そんな毅を一瞥すると……


「ふむ、やはりその程度か。なに、気にする必要はない。もともと君には期待していなかった」


 無価値なものを見るような目で毅に視線を向ける。

 俯いていた毅は一瞬何を言われたのか分からなかった様子。しかし、言葉の意味を理解すると、顔を上げて光秀の顔を見た。


「な、なんで……俺に期待しているって」


「まぁ、この大会くらいは優勝できると期待はしていたがね」


「っ……!?」


 光秀の落胆の声は、毅にとって何よりも辛かったのだろう。

 俯いて、拳を強く握った。それを見た美琴は思う。


(相変わらず、自分のミスを認めようとしない男ですね……)


 毅は傲慢さこそなければ、全国でも屈指の実力を持つであろう選手だ。

 その才能に目をつけたのは評価できる。だが、結果として地方大会でさえも優勝できなかった。

 自分の見る目がないと思われたくないのだろう。

 そのため、突き放すような言い方をする。

 毅の肩をポンポンと叩くと、光秀は美琴に気味が悪い笑みを向けて来た。


「田辺美琴くんだったね。優勝おめでとう」


「……ありがとうございます」


 正直なところ、全く嬉しくもなかった。

 というより、この男はどういう神経をしているのだろう。毅は、虚ろな表情でこちらを一瞥すると、この場を去って行く。


(後でフォローをしたほうが良さそうですね)


 美琴自身、毅に怒りを感じているわけではない。

 煩わしい人物であることに違いないが、それでも魔法演舞において美琴以上の才能があるのは事実だ。

 このまま折れてしまうのは勿体ない人物である。

 もっとも、美琴が何かをする前に琴恵が動くだろうが。

 そんなことを考えていると、毅のことを完全に忘れたように光秀が美琴に話しかけて来た。


「息子の勇気から、君のことは聞いているよ。息子の贔屓ひいき目かと思ったが、今日の演技を見て納得だ」


 これほどまで手のひら返しの上手い男はいないだろう。

 毅を憐れだと思う反面、むしろこの男に感心してしまった。


「それにしても、まさか田辺君に、君みたいな娘がいたとは。聞いた時は、本当に驚いた」


「たなべ、くん・・……?」


 相手にするのが面倒だと思っていた美琴。

 しかし、その一言にビジネススマイルが凍り付いた。しかし、美琴の反応を別の意味でとらえたのだろう。

 光秀は弾むような声で言葉を続けた。


「もしかして、聞いていないのか? 田辺くんも薄情だな、社長として右も左も分からぬときに面倒を見てやったというのに」


「……」


 やれやれと言った様子の光秀。

 一方で、美琴はこの男が何を言っているのか理解できなかった。事実のねつ造だ……この男がやったことと言えば、誠の弘人を解任するという判断に真っ先に賛成すると言うことだけ。

 面倒を見たという事実は、どこにもない。


「それよりも、君のデバイス。いったいどこの国のものなんだ? どんな人が作ったのか興味があるな」


 やはり、この話題に移った。

 田辺製作所としては、この並列魔法の技術は喉から手が出るほど欲しい。平静を装っているが、美琴の目にはその瞳に隠された欲望をしっかりと捉えていた。

 凍り付いた笑みを解かし、微笑みを浮かべると……


「父の自作ですよ」


 美琴は端的に事実を述べる。

 あまり感情的になるのも良くないと分かっている。だが、この男の表情を見ていて苛つかずにはいられなかった。

 一方で、光秀はその言葉を一瞬理解できなかったのだろう。


「なっ……!?」


 美琴から伝えられた事実に一拍遅れて、驚愕の声を上げる。

 それを見た美琴は、内心ほくそ笑みながら……


「おかしいですね。お世話になった人であれば、父も一報くらい入れそうなものですが。ただ、電話帳に西川さんの名前がなかったと思いますけど」


 と事実を伝える。

 暗に「本当にお世話になったんでしょうか?」と伝えているのだ。実際、真っ先に切り捨てた誠以上に光秀は世話を焼いてなどいない。


「そ、それはだな……田辺君は抜けているところがあったからだな。きっと、私に話すのを忘れていたんだよ」


 水臭い奴だなと語る光秀。

 事実ねつ造も甚だしい。こんな上司の下で働く社員は、本当に可哀想だ。

 この男とだけは、美琴は比べられたくなかった。

 美琴は小さくため息を吐くと、鞄の中に手を入れた。


「それと、ここに面白いものがありますよ」


 驚愕する光秀に、美琴は鞄に仕舞ってあったお守り・・・を取り出す。

 一瞬怪訝そうな表情をする光秀。美琴が取り出したのは、田辺製作所からの手紙だ。中から取り出したのは、一度ビリビリに破かれた一枚の紙。

 それを美琴は、光秀に突きつけた。


「これ、何だか分かります? 父は、縁のある田辺製作所にこの技術を一度持ち込んだのですよ」


「こ、これは……」


「父は素晴らしい人格者です。裏切られた後でも、田辺製作所のことを思い、何かできることはないかと憂いておりました。だからこそ、この技術を御社に持ち込んだというのに……」


 おそらく、この場に弘人がいれば、「美琴がやったことだよね」とでも言いそうだ。

 しかし、幸いなことにこの場に弘人はいない。まるで舞台女優になったかのように、父親の美談(ねつ造)を光秀に言って聞かせる。

 きっと弘人がこの場にいれば、顔を覆ってどこかの穴に入っていたことだろう。

 三十分が経過した頃には、どこか辟易とした様子の光秀。

 そんな光秀に、美琴はにっこりと笑って言った。


「仏の顔は三度までとはよく言ったものですね。父も流石にこの仕打ちに憤り、結果がその通知書です」


「っ……!?」


 (美琴により)ビリビリに破かれた通知書。

 そこから弘人の怒りを理解したのだろう。本人は特に憤ってはいなかったが。だが、少なくとも田辺製作所に技術を持ち込むことはなくなった。

 顔色を悪くした光秀が……


「ま、待ってくれ! それは、採用者が勝手に判断したことだ!」


「だとしても、これほどの技術……価値が分からないとは思えませんけど?」


「あ、ああ。その通りだ! まったく、適当な仕事をして!」


「ですが、その人物に任せたのはあなたですよね?」


 取り付く島などない。

 憤りを見せる光秀に、美琴は小首をかしげて尋ねた。任命責任があるのではないか……そう伝えられた光秀は、言葉に息詰まる。


「だ、だが……」


「それと。残念ですが、既に月宮と話が進んでおります」


 美琴は、下手な言い訳を聞かないように途中で口を挟んだ。


「つ、つきみや……」


 呆然とする光秀。

 言いたいことを言い終えた美琴は、数か月も抱えていた鬱憤が晴れるような気分だった。先ほど光秀が毅にしたようにポンポンと肩を叩く。


「私は言ったはずです。チャンスを一度逃したら、二度と戻っては来ないと」


 美琴ではなく、誠としての言葉だ。

 声も容姿も違うというのに、何かを感じたのだろう。光秀はまるで幽霊でも見たような表情を浮かべて、部屋を出て行く美琴を見送るのであった。


「……何をしているんですか?」


 部屋を出ると、そこには弘人たちの姿があった。

 いつの間にか、彩香たちと合流したのだろう。因みに、キャサリンの腕の中には毅の姿があった。

 きっと部屋を出た後、捕獲されたのだろう。抵抗の跡が見受けられるが、逃げる気力がないほどぐったりとしていた。

 一様に青い顔をして、美琴の表情を見た。


「うん、美琴おつかれ……」


「優勝おめでとうって言うつもりだったんだけど……」


 何故か微妙そうな表情を浮かべる二人。

 そして、弘人に視線を向けると顔を覆っていた。


「娘からの期待が重い」


「まぁ、頑張って」


 励ますような声を掛ける千幸に、美琴は先ほどの話を聞かれたのだろうと気づく。


「大丈夫ですよ、ありのままの事実を伝えただけですから。お父さんはこれまで通り素晴らしい人格者です」


「「……」」


 美琴が笑みを浮かべて伝えると、二人の表情が凍った。


「本当にお前、誠そっくりだな」


「なんか、今日で一番表情が輝いて見えたのは私の気のせいかしら?」


 と、カーラとキャサリンは言って来た。

 たとえ根本が同じだとしても、誠と美琴は違うのだ。二人の言い方ではまるで同類のように感じてしまい、遺憾だと思う。


「言いたかったことが言えて満足ですが……」


 流石にその言い方はないだろうと苦情を入れたかった。

 しかし、美琴が言葉を続けるよりも先にキャサリンが口を挟んだ。


「それよりも、そろそろ帰りましょうよ。貴方のお父さんがお店を予約してくれたみたいだから、急いで行きましょう」


 キャサリンの提案に否定の声は上がらなかった。

 こうして、魔法演舞の大会は終わりを迎えたのだった。





 大会からしばらくが経つ。

 美琴の活躍もあって、並列魔法は瞬く間に話題になった。

 正式に秋月から下請けを貰えるようになった田辺工房。暇だった日々が懐かしくなるほどの忙しさだ。


「お父さん、これはどういうことでしょうか?」


 満面の笑みを浮かべる美琴。

 その手には、ムーンクラフトからの発注書があった。娘の剣幕に怯えた表情をする弘人だが、尻込みしながら口を動かした。


「え、えっと……在庫に余裕があるかなって」


 表情を凍らせる美琴。

 発注書にある納品数と在庫の数は一致していない。今から製作するとなると、徹夜をして間に合うかどうか微妙な数だ。


「お父さん、お願いですから報連相は怠らないで下さい!」


 相も変わらず、経営者としてのセンスはゼロだった。

 



 こうして、天才経営者のやり直しは第一歩を迎えたのだった。






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