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奇運のファンタジア   作者: みたらし団子
奇運のファンタジア
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第51話 魔法演舞(上)

遅れて申し訳ありません。

五十一話を誤って削除してしまいました。


 梅雨が明けて、本格的な夏を迎えた。

 ついに魔法演舞ファンタジアの大会本番を迎え、都内にある魔法協会が保有するアリーナへ美琴たちはやって来ていた。


「思ったよりも人が多いですね」


 魔法演舞ファンタジアは、歴史が古いだけあってスピードブレイクとは比べ物にならないほど規模が大きい。

 出場資格が必要のないただの地方大会。

 だが、魔法協会が主催しているということで自然と注目が集まるのだ。


「もしかして、緊張しているのかい?」


 美琴が大きく息を吐くと、隣に立つ弘人がそんなことを言って来た。


「まさか、美琴に限ってあり得ないよ」


「どう言う意味です?」


 美琴に代わって答えた彩香に、思わずジト目を向ける美琴。

 美琴だって、普通の女子中学生だ。緊張の一つくらい普通にする。だが、美琴の抗議の声は弘人や千幸の笑い声にかき消されてしまう。

 すっかりと毒気を抜かれてしまった美琴は、気を遣って離れた場所に立つ穂香たちに視線を向けた。


「では、お二人はごゆっくり。私たちは、カーラたちと行動しますので」


「終わったら連絡を入れるから、二人で見て回ると良いよ」


 美琴と彩香の奮闘もあって、奥手な二人も最近では良い雰囲気になりつつある。

 「後は若い二人でごゆっくり……」というニュアンスが伝わったのだろう。二人は照れたような表情を浮かべつつも、仲良さそうに去って行った。


「二人の春は早そうですね」


「まだ夏が始まる前だけどね」


 そう言って、二人は顔を見合わせて笑うのであった。


「あら、美琴ちゃんはともかく、彩香ちゃんはお母さんと一緒じゃなくて良かったのかしら?」


 穂香たちと合流すると、キャサリンが彩香に尋ねて来る。


「馬に蹴られたくないので」


「こういう時は、こっそり背後から写真を撮るもの。後で、お小遣いアップの交渉に使えるはず」


「弱みを握っておくと、予算確保は楽だぞ」


「穂香……」 「カーラ……」


 彩香が穂香に。

 美琴はカーラに。あまりにも無粋な発言に、ジト目を向けるが本人たちは気にした様子もない。この二人こそ、馬に蹴られるべきだろう。


「取りあえず、ここを移動しましょう! 座れる所があるから、しばらくの間そちらで休みましょうか」


 キャサリンという存在がいる以上、目立つことこの上ない。

 否定の声は上がらず、四人は移動を開始するのであった。





 キャサリンに案内されたのは、最寄りのカフェ。

 大会前ということもあって、混雑していた。運よく席に座ることができると、美琴はカーラに視線を向けた。


「それにしても、意外ですね」


「何がだ?」


「カーラ、貴方はこのような場所に顔を出すような性格ではないでしょう。どういう風の吹き回しですか?」


 前回は、秋月の関係者ということで出席をした。

 しかし、今回は出席する理由がないのだ。データを取りたいのであれば、わざわざ大会を見る必要はないのだ。

 しかも、カーラは人混みが大の苦手だ。

 自ら進んでここへ足を運ぶような性格ではない。


「お前も大概失礼な奴だな。世話をしてやったんだから、確認にくらい来るだろ」


 カーラの発言とは思えぬ発言に、美琴は目を丸くする。

 そして、体を乗り出すとカーラの額に手を当てた。低血圧らしく、ひんやりとした体温が手のひらに伝わって来た。


「美琴ちゃん、疑わしいのは分かるけど、熱はないわよ」


「みたいですね……」


 一瞬、偽物では。

 などと疑いはしたが、不機嫌そうにこちらを見るカーラはどう見ても本物である。


「それはそうと、美琴。そろそろ移動しなくて良いの?」


 突然、彩香がそんなことを聞いてくる。

 時刻は大会開始三十分前。確かにそろそろ移動するべきかと思うが……


「歩いて五分程度なので、問題ありません。一人で待っていても退屈なので」


「あぁ、なるほど……」


 彩香たちは、二人で出場したため退屈はしなかったのだろう。

 だが、美琴は一人だ。知り合いのいない状況で、ただ座っているのもなかなか苦痛である。


「まぁ、開会式が終われば順番までどこにいても良いのでしょう? なら、席を用意しておくわね」


「助かります。待合室にもテレビがあるようですが、直接見たいですから」


「あら、いつにもまして意欲的ね」


 キャサリンは、美琴がやる気になったと思ったのだろう凶悪な笑みを浮かべる。

 すると、隣に座っていたカーラがキャサリンの二の腕をついて言った。


「違うぞ。こいつが見たいのは、魔法式だ」


「は?」


 一瞬、何を言われたのか分からなかったのか現れた美智乃雄真さん。

 一方で、美琴の隣に座る彩香と穂香は「やっぱりか」という表情で息を吐いた。そんな四人を見て美琴は呆れたように……


「技術者にとって、この大会は自分の作った製品のコンペです。使いやすいように改良してあるものもあるのですから、当然でしょう」


「技師じゃなくて、選手でしょう!」


 どこか疲れた様子のキャサリン。

 カーラは深く頷くが、彩香たちには共感を得られなかったようだ。キャサリンのおごりでいただいたアイスコーヒーを飲み終えると、美琴は時計を確認する。


「では、そろそろ移動しますね。ごちそうさまでした」


 美琴は、そう言い残して一人でアリーナへと向かうのであった。





「お預かりしておりました、デバイスを返却しますね」


 待機室へ向かうと、スタッフから使用するデバイスが返却される。

 どのような魔法が仕組まれているのか、違法性がないかなどの確認のためだ。開会式が遅くなるのは、この確認作業に時間が掛かるからである。

 美琴は、スタッフから二つのデバイスを受け取ると、カバンの中に収納する。


「ありがとうございます」


 美琴は一礼をすると、待機室へ向かった。


(気合が入っていますね)


 待機室には、既に多くの選手たちが顔をそろえていた。

 ジュニア部門ということもあって、上は高校生までだ。しかし、スピードブレイクとは違い中学生の姿も多い。

 周囲の視線を集めながらも、美琴は空いている席に腰かけた。


(派手な衣装を着ている人も多いですね)


 開会式前だというのに、すでに衣装を身に纏っている選手も多い。

 夏ということもあって、全体的に衣装は薄着である。男女ともに、少々露出が多いのではないかと思えるほどだ。

 特に衣装に規定はないのだが……それこそ、ジャージ姿でも問題はない。

 しかし、流石にジャージ姿で出場する選手はいない。ドレスのような衣装から、魔法使いのような衣装……コスプレと言っても過言ではない。

 この場にはいないが、魔法少女のコスプレで出場する人もいる……男女問わずに。

 ただ、一つだけ気をつけているのは動きやすさだ。

 罰則こそないが、踊りに不適切な衣装で出場すれば満足に動くこともできないだろう。ドレス風の衣装であっても、動きやすいようにスリットが入っていた。


(はぁ……)


 内心、ため息を吐いてしまう。

 あるのだ、美琴にも。いつの間にか用意されていた衣装が。キャサリンハンドメイドの一品……美智乃雄真さんはかなり多芸なようだ。

プロの一品と言われても納得してしまいそうなクオリティーである。

 そして、その衣装は美琴のカバンの中に入っている。

 幸いにも露出が多いわけではない。キャサリン曰く、派手な衣装は似合わないと言われ、美琴は内心安堵したものだ。

 とは言え、コスプレに抵抗があるのも事実。

 袖を通すたびに、美琴の精神力がガリガリと削れていくような錯覚を感じてしまう。

 

「では、選手の皆様定刻になりました。番号順について来て下さい」


 ようやく時間を迎えたようだ。

 スタッフの指示に従い、選手たちは会場へと向かう。


「多いと思っていましたが、ここまで多いのですね」


 随分と席が多いと思っていたが、空席が目立つ心配はなかった。

 ちらほらと空席が存在するものの、ほぼ満席状態である。視線を彷徨わせると、不意にひときわ目立つ人影を見つけた。


 キャサリンだ。


 そして、その近くには一心不乱に端末を操作する女性の姿。

 恥ずかしそうに顔を伏せている二人の少女。いったい何があったのだろうか。周囲の視線も自然とそちらへと向かっていた。


(私の時も、あんなふうに見られていたのでしょうか……)


 見られていた時は気にしていなかったが、実際に見るとドン引きだ。

 嫌な想像に内心、冷や汗をかく美琴。なるべく視界に入れないように、視線を巡らせると……


「あっ……」


 視界に入ったのは、弘人と千幸だ。

 二人も美琴の視線に気づいたのだろう。手を振って来た。二人の間は、微妙に開いているような気がするが、それでも夫婦のような雰囲気があった。

 そのことに苦笑をすると、不意に見覚えのあるシルエットを見つける。


「あれは……」


 中肉中背ちゅうにくちゅうぜい、老いを感じさせるものの整った顔立ち。

 その近くには最近は見なくなった金髪の少年の姿があった。西川勇気……そして、最近再び距離を近づけ始めた諸橋と海藤の姿もあった。


西川光秀にしかわみつひで……」


 現田辺製作所の社長。

 その姿を見た美琴は、自然と口角を上げてしまうのであった。









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