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奇運のファンタジア   作者: みたらし団子
奇運のファンタジア
47/92

第47話 彩香&穂香vs美琴

ストックに余裕が出来たので、もう一話投稿します。

第46話の後半に入れる予定だったものです。


彩香視点になります




*****




 美琴が賛同したことで、月宮学園へやって来た彩香たち。

 カーラに許可を取ると、アリーナの一室を開放してもらった。因みに、この場にはキャサリンを抜いたいつもの面々と水野父娘だけだ。

 明美の母は以前は有名な選手であるものの、今は専業主婦である。家事があるため、先に帰宅した。


「ほぅ、お前が明久か。随分と優秀みたいだな」


 年上の相手でも、普段通りの態度をとるカーラ。

 美琴から聞いた話だが、カーラは月宮においても異端な存在らしい。一応、秋月の魔道具開発に関係しているそうだが、雇用関係は月宮とのものだ。

 多重展開魔法はあくまでついでであり、メインは美琴の持つ転移系の魔道具の開発である。


「初めまして、ケリーさん。貴方ほどの人物に覚えて頂けるとは光栄です」


 カーラの無礼な態度にも、嫌な顔一つしない明久。

 人間が出来ているなと思いつつも、明美から尋ねられる。


「あの、ケリーさんって凄い人なんですか?」


 父親の態度に、どこか委縮いしゅくした様子の明美。

 その言葉を聞いて、彩香も穂香も首を傾げる。


「凄いって言うか……」


「むしろ、変人?」


 彩香が言葉に詰まると、穂香が代弁する。


「へ、変人……」


 神妙に頷く、彩香と穂香を見てどこか表情を引きつらせる明美。

 すると、それを見かねた美琴が口を挟んで来た。


「カーラは変人です……」


「お前に言われたくないぞ、マコト妹」


 美琴が話している最中に、明久との話を中断して声を上げるカーラ。

 確かに、美琴にだけは言われたくないだろう。常識人を装っているが、一番常識に疎いのは美琴に違いないからだ。

 しかし、美琴はカーラの言葉を聞いていないのだろう。コホンと可愛らしく咳払いをすると言葉を続けた。


「ですが、カーラは間違いなく天才です。彼女の発明は、国内に留まらず、海外でも注目の的になることが多々ありますから。今回の多重展開魔法もまた、間違いなく注目されることになるでしょう」


「そこまで、ですか……」


 カーラの事は尊敬している。

 だが、美琴の素直な称賛には、明美のみならず彩香も驚かざるを得なかった。そして、その魔道具を使っていることに、更なるプレッシャーを感じる。


「取りあえず、時間が押している。試合をするなら早めにやれ」


 にべもない態度に、苦笑を浮かべる。


(とは言え、あまり遅くなるのも悪いか)


 彩香はともかく、穂香は早めに帰った方が良いだろう。

 長話をしても良くないと、明久と明美が見守るなか試合を始めようとする。だが、何を思ったのかカーラは定位置へ歩き始める二人を止めた。


「どうかしたんですか?」


 機器が故障でもしたのか。

 そんな風に思った彩香だが、カーラは視線を美琴へと向ける。完全に観客モードとなっている美琴は、その視線の意味が理解できないのだろう。コテンと首を傾げる。


「ちょうど良い、マコト妹。お前が相手をしろ」


「「「は?」」」


 この一言には、美琴だけではなく彩香たちも口をそろえて疑問の声を上げる。


「トロイメライは、一対一、もしくは二対二の競技です。まさか、カーラも加わって四人で行うのですか?」


 美琴の疑問に、カーラは呆れた表情をする。


「違うぞ、お前ひとり対そっちの二人だ。ちょうど良いだろう」


 などと言うが、彩香としては本音で言えばそれだけは御免だった。穂香も同様だろう。


「ちょ、ちょっと待って下さい!? 美琴とですか!?」


「いくら何でもハードすぎる!」


「だから、二対一だろう」


 カーラはいい加減煩わしいような表情をするが、二人にとっては死活問題だ。

 全く勝てるような気がしない。あの魔王に勝てるとすれば、勇者くらいだ。キャサリンに生気を吸われ尽くした勇気のことではないが。


「流石に二対一は厳しいのでは? 多重展開魔法は、確かに一つの魔法しか使えません。ですが、手数が違います」


 明久がフォローをする。

 美琴の実力を知らないが故に、美琴が負けるとでも思っているのだろう。だが、現実はまったく違うのだ。


「問題ない。さっさとやれ」


 取り付く島もないとはこのことだ。

 不安そうな彩香たちとは対照的に、美琴は何やら考えている様子だ。意味ありげな視線をカーラに向ける。

 その視線を受けたカーラは、肯定するように首を縦に振った。


「……なんか、嫌な予感がする」


 普段と変わらない表情だが、どこか裏を感じさせる二人の表情を見て彩香は嫌そうな表情を浮かべる。


「同感」


 穂香もまた何かを感じ取ったのだろう。

 似たような表情をしつつ、二人は定位置へと向かった。


「作戦は?」


「きっと美琴が使うのは【闇桜】だと思う」


「あのチート魔法か」


 げんなりとした様子の穂香。

 確かに、【闇桜】のような魔法は存在する。だが、非常に扱いが困難であり、使用者はかなり限られている。

 少なくとも、彩香たち二人には扱うことが不可能だ。


「けど、あの訳の分からないハッキングは?」


「あれは多分使って来ないと思う。前に聞いたけど、一度にそれほど多く書き換えはできないみたい」


「となると、やっぱり物量?」


 穂香の魔道具は、下級魔法だが同時展開数は三十と非常に多い。

 まるで機関銃のような連射が特徴的だ。一方で彩香は、最大で八の中級魔法を一気に展開することができる。

 その威力は高く、それこそ全弾命中すれば勝利は確定するだろう。


「取りあえず、穂香は牽制けんせいをお願い。魔素を集中させる時間を与えないで。防御が薄ければ、一気に畳みかけるから」


「分かった」


 作戦は決まった。

 こちらが必死に策を巡らせているというのに、美琴は素知らぬ顔でデバイスを操作している。踊りは下手なくせに、魔法の扱いだけは無駄にうまい。

 まるで結果が最初から分かっているような、そんな余裕そうな表情である。


(絶対に、一泡吹かせてやる)


 彩香も穂香も思いは同じだ。

 先ほどの不安はどこへやら。今では、何としてもあの余裕そうな表情を崩したい。そう思っていた。

 先ほどまで感じていた重圧はすでになく、審判役として立つ明久に注目する。明久は、両者の準備が整ったと判断したようで、手を挙げる。


「それでは、始め!」


 明久の宣言と共に、試合開始の合図がついた。

 

「【エアバレット】」


 魔法展開速度に優れた穂香が、魔法を発動させる。

 その数は三十。穂香が美琴へ向けて開いた手を中心に、円形の魔法陣が展開される。そこから放たれる風の弾丸。


「これほどの練度とは……」


 審判役をしている明久の驚愕の声が上がる。

 以前に比べれば確かに成長した。それこそ、最初はダメージを与えることができなかったが、今では威力が弱い穂香の魔法でも着実にダメージを与えられるほど。

 だが、それで勝てるほど甘い相手ではない。


「【闇桜】」


 案の定、美琴が使って来たのは【闇桜】だ。

 高等魔法であるにもかかわらず、発動は一瞬。魔法陣が輝くと、そこから黒い花びらが舞い散る。

 非常に美しい魔法だ。

 形を変え、風の弾丸を真っ向から相殺し、時には盾のように変形させることで圧倒的に数の多い穂香の魔法を防いでいる。


「互角っ……」


 彩香も、これで勝負が決まるなど思ってはいない。

 だが、【闇桜】はあくまでも魔法演舞ファンタジア用に調整された魔法だ。トロイメライ用に調整された魔法がことごとく相殺されている。


「やっぱり、化け物」


 隣から、そんな声が聞こえて来る。

 それには、彩香もまた心底同意したい気分だ。


「彩香、まだ掛かりそう!?」


「無茶言わないで!」


 彩香の用意している魔法は中級魔法。

 単発ならばすぐに発動できる。だが、単発で撃ったところで効果はないだろう。


――多重展開魔法……


 三つ、四つ、五つ……

 次々と魔法式を展開させていく。


「っ……!? 数が多い」


 隣から焦燥の声が聞こえて来る。

 互角だった戦況が、徐々に押され始めている。黒い風が、津波のようになって刻々とこちらへと迫ってきているのだ。

 穂香も必死に迎撃をしている。

 だが、物量で勝っていても一掃できないのだ。相性が悪いとしか言いようがない。


「……」


 六つ、七つ……

 迫りくる黒い風を前にして、彩香は落ち着いて魔素を収束させる。

 あと一つ……。七重でも十分かもしれないが、相手は美琴だ。手抜きなどできはしない。


「彩香!」


 このままでは押し切られる。

 焦燥しょうそうを孕んだ声を上げた瞬間、ようやく彩香の準備が整った。


――中級光魔法【フォトンレーザー】、起動


 彩香の手前から放たれる八条の光。

 闇属性魔法の天敵だ。それを、一点集中にして押し寄せて来る黒い風を突破する。


「っ……」


 一瞬だが、美琴が動揺したような気がした。

 美琴もまた【フォトンレーザー】の威力を殺すように、【闇桜】の形を操作している。だが、彩香の全力だ。そう簡単に、威力を弱らせることはできない。


「【エアバレット】」


 そこへさらに、穂香の追撃だ。

 美琴の守りが薄くなっているため、次々にオブジェクトへ直撃する。個々の魔法は非常に軽い。だが、モニターに映るダメージ値は着々と増えていた。

 たとえ彩香の攻撃が防がれたところで、穂香が削りきることができる。これならば……


「間違っても、勝ったとか言わないで」


 と、何故か心を読まれたかのように穂香が口にする。

 だが、どうやらまだ勝敗は決まらないようだ。


「【氷樹】」


「うそっ!」


 途端に現れるのは、氷の桜。

 ちょうどオブジェクトの間に氷の樹木が現れる。【闇桜】を散らしながら一直線に進んでいた彩香の魔法は、氷の樹木に防がれてしまう。


「流石に、魔法式を書き換えるの大変でしたね」


 彩香だけでなく、穂香もまた美琴の言葉に攻撃を緩めてしまう。


「何をしたの……?」


 いくら美琴でも、【闇桜】と【氷桜】を並列で使用するのは不可能だ。

 並列魔法があるが、聞いた話だと【闇桜】と【フロート】の組み合わせである。だが、目の前に佇むのは黒い桜が咲く、氷の大樹。

 自然界に存在する桜とはまるで対極に位置する桜が咲いていた。

 こんな状況でも思わず見とれてしまうほど幻想的な光景だ。


「簡単なことです、【フロート】を【氷樹】に書き換えただけのこと。まぁ、少しズルをしましたが」


 などと言って肩を竦ませる美琴。


「うそ……」


 優勢だと思っていた。

 だが、美琴が手を抜いていたからだと思った彩香は呆然とした声を上げてしまう。

 そして、その一瞬の隙が勝負を決してしまった。


「散れ」


 その瞬間、広がる漆黒の風。

 呆然としていた彩香たちは対処に遅れてしまい、一瞬で逆転されてしまった。


「っ……! そこまで!」


 彩香たち以上に衝撃を受けていた明久。

 だが、試合終了の合図が響くと慌てて声を上げた。そして、三人を集めると……


「正直、私から言えることは特にないですね。二人とも私の知っているテスター以上の練度です。これなら、間違いなく好成績を残せますよ」


 最初に称賛の声を上げる。

 その言葉は本心なのだろう。駆け寄って来た明美もまた、「凄かったです」と言って目を輝かせていた。


「私はあまり魔法が得意ではないので、物凄く憧れました」


「本当にその通りです。流石は、ケリーさんが認めるだけのことがあります」


 あまり称賛されることがなかったため、素直な称賛に自然と口元を緩めてしまう。


「では、まずは高田さん。下級魔法とは言え、一度に三十ほどの魔法を展開できるのは素晴らしいと思います。ただ、一度に放つのは減点です。一度に放つのではなく、波状攻撃を仕掛けるなど工夫をした方が良いですよ」


「なるほど……」


「次に、三沢さん。見事な作戦だったと思いますよ。少々過剰攻撃だと思いましたが……」


 そう言って、明久は美琴に視線を向ける。

 明久もまた、上級魔法並みの攻撃を防がれるとは思っていなかったのだろう。当の本人は、どこか居心地が悪そうな表情だ。


「まぁ、相手が悪かったとしか言えませんね。普通は防げず終わりですから。ただ、八重にならずとも、それよりも前に撃った方が効果的だったと思いますよ」


「はい」


 もう少し早く撃てば美琴がもう一つの魔法を発動させられなかった。

 結果論ではあるが、準備段階でも有効だと判断できたとき起動させれば良かったと後悔する。そして、大きく息を吐いた。


「やっぱり勝てなかったか」


 相手が悪いと言えば、その通りだ。

 最初から勝てると思っていなかったが、まだ手加減をされているような気がしてならない。

 不満そうに美琴を見ると……


「流石にこちらが有利な条件でしたからね。言うほどの余裕はありませんでしたよ」


 などと言う。


「不利の間違い」


 彩香同様に、穂香もまた釈然しゃくぜんとしない気持ちなのだろう。

 どこか怒っている様子だ。


「いえ、二人の手の内を知っていましたから。間違いなく、彩香さんが一点突破してくると思っていましたので。それなら対策は簡単です」


「確かにそうかもしれないけど……」


「それと一応言っておきますが、魔法式の改編は試合前に済ませてあります」


「えっ、さっきは……」


 美琴の話し方では、試合中に書き換えたようだった。

 彩香の疑問が分かってか、美琴は苦笑を浮かべる。


「あれはブラフです。二人は言葉一つで、防御ができなかったではないですか」


 言われてみて、思い出す。

 最初から最後まで余裕そうな表情を浮かべていた。だが、いくら美琴でも自分たち相手に手を抜くようなことをするだろうか。


「もしかして、演技だったの?」


 穂香もまた同じ結論に至ったのか、そんなことを口にする。

 すると、美琴もまたにっこりと笑うと肯定した。


「試合に向いている魔法ではないので、二人が思っている以上に手一杯でしたよ。もし、あのとき冷静に対処されれば、最終的には押し切られていたと思います」


「「「「……」」」」


 美琴の種明かしに、カーラ以外の者たちが言葉を失う。

 まさか、魔法を使った試合で言葉や表情で隙を作るなど思ってもいなかった。そんな彩香たちの内心を知らない美琴は、更に言葉を続ける。


「しかも、あれはキャサリンさんの提案ですぐに壊れるように出来ているんですよ」


 肩を竦ませて「一撃耐えられれば上出来でした」などと言う美琴。


「「……」」


 まさかそこまで考えて行っていたとは思わなかった。

 なんとも胡散臭うさんくさい気もするが、最初の余裕な態度もまたブラフだった。嘘と演技が勝因だったと語る美琴に、二人は唖然としてしまう。


「だからちょうど良いと言っただろう? そいつなら、そういう勝ち方をしてくると思ったからな」


 カーラはそう言って、「良い経験になっただろう」と笑う。


「カーラがそういう勝ち方をしろと言ったのでしょう」


「私は別に、指示していないぞ。お前の性格なら、確実に勝利するため騙し討ちをすると思っただけだ」


「なっ!?」


 おそらく、先ほど裏のある表情を浮かべていたのはこのことだったのだろう。

 改めて二人は同類なのだと思う彩香だった。すると、状況を飲み込めた明久が顎に手を当てると……


「確かに思い返してみれば、その通りです。二人が呆然とした隙を狙わなければ、押し切られたのは田辺さんの方かもしれません」


 先ほどの試合を冷静に分析している。

 明美もまた状況を把握できたのだろう。苦笑いを浮かべて、カーラと言い争っている美琴を見る。

 彩香は穂香と視線を合わせると、美琴の肩に手を置いた。


「「美琴、騙し討ちは汚い」」


 流石に美琴のような選手はいないはずだが、大会当日は騙し討ちにだけは気をつけようと心に決めるのであった。




*****



 


以前本作で取り上げたバイナリ―オプションについて。

友人が実際に挑戦したので、せっかくなのでその結果について触れてみようかと。


テクニカル分析を駆使して、勝率は六割ほどとのことです。

ただ、手数料が引かれるということでもうけはないみたいですね。


友人はテクニカル分析を極めれば確実に儲けられるため、

ギャンブルではないという結論を出したそうです。

作者としては、その発言自体がギャンブルだと感じてしまうのですが……。


よほど自分の分析に自信がなければ、できないと思います。

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