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奇運のファンタジア   作者: みたらし団子
平穏の終わり
38/92

第38話 弘人と学園へ

誤字報告、ありがとうございました!

ルビについても修正いたしました。

 休日の朝。

 目を覚ました美琴は、服を着替えると一階に降りる。リビングには、すでに弘人の姿があった。


「お父さん、おはようございます」


「おはよう、美琴。今日も練習かい?」


「はい」


 ここ最近の休日は決まって月宮学園に通っている。

 未知のUMA……ではなく、キャサリンと魔法演武ファンタジアの練習のためだ。もう一月近く経つが、まだ踊りもどきの状態だ。

 いったい、いつになれば半人前レベルに踊れるようになるのやら……

 美琴が、思わず遠い目をしていると弘人が苦笑した。


「まさか、美琴に苦手なものがあるなんてね。……しかも、踊りって」


「……誰にでも苦手なものはあると思います」


「美琴は、なんでも要領よくこなすからね。苦手なものがないと思ってたよ」


「私は、スーパーマンか何かですか?」


 自分のことを何だと思っているんだと、思わずジト目になってしまう美琴。

 その返答が面白かったのか、弘人はより一層笑みを深める。それを見た美琴は、「はぁ」と重いため息を吐くと、椅子に腰かけた。


 弘人が朝食を用意し、二人で食事をとる。

 最近では、彩香がここに加わることが多い。だが、寝泊まりをしているわけではないため、朝は大抵二人だけだ。

 田辺家ではありふれた光景である。

 朝食を終えて、食器洗いを手伝っていると弘人が尋ねて来た。


「それはそうと、僕も挨拶に行っていいかい?」


「挨拶、ですか?」


 突然の申し出に、首を傾げる美琴。

 いったい何のことだ。そう視線で尋ねると……


「カーラさんと……えっと、キャサリンさん?」


「え?」


 一瞬、誰の事を言っているのか理解できなかった。

 徐々に言葉の意味を理解し始めた美琴は、思わず手に持つ皿を落としそうになる。落とす寸前で、しっかりと持つとシンクに皿を置く。


「……正気ですか?」


「挨拶に行きたいと言って、正気を疑われるとは思わなかったなぁ……」


 真剣な表情で尋ねられ、頬をく弘人。

 ことの重要性を理解していない様子だ。美琴は、落ち着きを払った声で尋ねる。


「いえ、ですが……。変人とUMAに遭いたいって、変わったご趣味ですね。……いえ、個性的でいいと思いますよ」


 人の趣味はそれぞれ。

 中には、宇宙人に挨拶をしたいという人もいるかもしれない。それに比べれば、変人とUMAに遭いたいなど、些細なことだろう。


「美琴の優しい目が辛い……。そんな趣味ないのに」


 美琴が理解を示そうとすると、弘人は落ち込んだ様子だ。

 本当に趣味じゃないのか。そんなことを思っていると……


「美琴がお世話になっているから、一度挨拶をしておきたかったんだよ」


「そう、だったのですか」


 確かに、子供がお世話になっているのだから、親として挨拶くらいはしておきたいのだろう。趣味だという訳ではないようで、安堵の息を吐く美琴。

 しかし……


「分かりました。ただ、キャサリンさんはともかくカーラに挨拶は不要ですよ」


「どうしてだい?」


「他人に関する興味が極端に薄いので。挨拶を無駄だと考えているような人です」


 人としてどうかと思うが、カーラとはそういう人間だ。

 そこまで考えて、ふと思った。


「そう言えば、お父さん。カーラとは面識があるのではないのですか?」


 カーラは、元田辺製作所の技師だ。

 元社長であった弘人と面識があるはず。そう思っての質問だが……


「ああ、それなんだけど。……仕事を覚えることに忙しくて。カーラさんとは話をする前に、辞めちゃったから」


――グサッ


 見えない刃が、美琴の心を貫いた。


(ああ、私が原因ですね……。ごめんなさい、本当にごめんなさい……)


 原因が自分にあることを思い出した、美琴。

 最近、自分のメンタルが脆くなっているのではと考えることが多い。

 いや、誠のメンタルは冷血無慈悲な鉄皮面に相応しく、鋼のようだった。今思うと、人間として重要なものが欠けていたのかもしれない。

 その反動かは分からないが、半年前に比べると情緒が不安定になってきた気がする。


「それじゃあ、そろそろ行く支度をするよ。美琴も、準備した方が良いよ」


 そう言い残してリビングを後にする弘人。

 美琴が立ち直ったのは、それから十分後のことであった。時間ギリギリとなり、訪ねて来た彩香に急かされて支度をするのであった。






 そして、訪れた月宮学園。

 途中で合流した穂香と合わせて四人で訪れていた。当然、学園へのアクセスには公共機関を使用している。弘人が車を出すようなことを言ったが、誰も好んでかつての東ドイツのような空中分解しそうな車に乗りたくない。

 美琴も彩香も心を一つにして、丁重にお断りをした。


「へぇ、ここが月宮学園なんだ……随分と立派だね」


 感心したような声を出す弘人。

 初めて訪れたものにしてみれば、月宮学園の威容は驚きだろう。先代の月宮家当主がこだわったそうで、外見は城である。

 それに対して、内装は落ち着いた雰囲気であり、最新技術が用いられ快適な環境で教育を受けることができる。

 そして何よりも、魔法教育において最先端の学校だ。魔法施設は、他の学校に比べて群を抜いている。

 流石は四家……その中でも、トップの資金力を持つ月宮家だろう。


「やっぱりそう思いますよね、この学校の推薦を貰えるなんて夢のようです」


「受験勉強しなくても、勝ち組」


 弘人の言葉に感化され、二人も嬉しそうな表情を浮かべる。

 そして、三人そろって推薦を拒否した美琴にジト目を向けてくる。居心地の悪さを覚えた美琴は、足早にカーラの下へ向かうのであった。


「やっと来たのか」


 いつもの部屋には、不愛想なカーラの姿があった。

 時計を確認するが、予定よりもまだ十分ほど早い。いつも遅れてくるカーラらしくないため、怪訝けげんそうな表情で美琴が尋ねる。


「カーラ、熱でもあるのですか? それとも、拾い食いでもしたのですか?」


「失礼な奴だな、マコト妹。私だって、早く来ることはある」


 心外だと言わんばかりの表情。

 普段の自分の態度を思い返してほしいと思うが、カーラに何を言ったところで鼻で笑うのが目に見えているので、開きかけた口を閉じた。


「ところで、そっちの男は?」


 弘人の姿を見たカーラが、弘人を指さして尋ねてきた。


「……記憶にないのですか?」


 信じられないという表情を浮かべる美琴。

 短い期間であったが、弘人は社長だった。つまり、カーラの上司だったのだ。弘人がカーラと面識がないのは仕方がないとしても、カーラが覚えていないというのはどういうことなのだろう。

 美琴に言われて、何か思い出しそうな様子のカーラ。しばらく、考えたそぶりを見せた後……


「やっぱり、知らん」


 ガクッとなる美琴。

 弘人は「仕方がないよ」と言って、苦笑を浮かべた。


「僕は、田辺弘人。美琴の父親で、誠君の前の社長だったよ」

 

 弘人に言われて思い出した様子のカーラ。

 ポンっと手を打つ。そして……


「ああ、マコトに追い出された奴か」


――グサッ


 本日二度目の美琴の心をえぐる一撃。

 耐え切れず、膝をついてしまった。突然の美琴の奇行に目を丸くする一同。特に心臓病を患っていたことを知っている弘人と彩香は、目に見えて慌てていた。


「だ、大丈夫です……黒歴史が顔を出しただけですので」


「ほ、本当に大丈夫? 発作とかじゃないよね」


「お母さんに連絡を取ろうか?」


「いえ、大丈夫です。本当に何ともありません」


 何事もなかったように立ち上がる美琴であるが、その心は深手を負っていた。

 すると、カーラが……


「そんなことよりも、お前に聞きたいことがある」


「「「そんなことより!?」」」


 カーラの冷淡な態度に、声を上げる弘人たち。

 穂香も、カーラの対応にそれはないと言葉を失っていた。しかし、当の本人はというと、何かおかしいかと首を傾げる。


「だから言ったではないですか、この人は変人なんです」


「他人に興味がないんですよ」


「頭のねじが、一本どころか全部外れてる」


 娘たちの辛辣しんらつな評価に、さすがの弘人も口元を引きつらせる。


「否定はしないが、散々な評価だな。それよりも、お前。マコト妹の持つ魔道具の製造者なのだろう? 少し話が聞きたい」


「マコト妹? 美琴のことかい?」


「ええ、その通りです。あの冷血非道な悪魔のような男と似ていると言って、妹と呼ぶんですよ、失礼なことに……」


 田辺美琴に対して失礼だ。

 同意を求めるように視線を向けるが、弘人はなぜか表情をほころばせる。


「ははっ、確かに! やっぱり、美琴はどこか誠君に似た雰囲気があるよね」


 まさかの父親の裏切り。

 いうに事欠いて、自分の娘をあんな悪魔と似ているとは……いや、中身は同一人物なのだが。

 勝ち誇ったようなカーラの表情を見て、苛立ちを覚える。


「それで、さっきのことだが」


「うん、こっちは大丈夫。僕としても、美琴のデバイスを見た時からカーラさんとは話をしてみたかったから」


 同じ天才同士引かれ合うものがあったのかもしれない。

 カーラに先導されて、弘人は練習部屋を後にする。去り際、カーラは「今日は適当にやっておいてくれ」とだけ言い残して出ていくのであった。


「ねぇ、美琴。もしかして、お母さんを急かしたほうが良い?」


 ふと、二人の後姿を見ていた彩香がそんなことを言う。

 それを聞いた美琴は……


「それはないので、安心してください。おそらく、あの人は人間に興味がありませんので」


「だよね」


 美琴の言葉に、安堵の息をつく彩香だった。

 それからしばらくして、未知のUMAではなくキャサリンが到着。地獄の練習が始まるのであった。









明日も投稿します!


※未知のUMA→美智乃雄真

 誤字ではなく、敢えてです。

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