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奇運のファンタジア   作者: みたらし団子
美琴の魔道具
33/92

第33話 美琴の欠点

魔法演舞に(ファンタジア)のルビを振りました。


 誰もが巨漢のオカマことキャサリンの登場に、言葉を失っている中、美琴はふと何かに気づく。


(もしかして、この人は……)


 身長二メートルほどあろうかという巨体。

 その腕は、美琴の胴ほどある太さ。そして、特徴的なのは厚化粧と壮絶に似合っていない縦ロールの髪型。

 美琴は最近見た雑誌を思い出して、声を上げた。


「失礼ですが、もしかして美智乃雄真みちのゆうまさんですか?」


「あらん、嫌だ。私のこと知ってるの? だけどね、私のソウルネームはキャサリン、その名前で呼ばないでねん」


 そう言って、キャサリンはウィンクをする。

 だが、美琴はそれを見なかったことにして「やはりそうでしたか」と感慨深そうに頷いた。そんな美琴に対して、肩を擦りながら彩香が尋ねて来た。


「美琴の知り合い……って、訳じゃないよね」


 二人の会話から、言っていて知り合いではないと思ったのだろう。

 彩香の言葉を引き継ぐように、穂香が尋ねて来た。


「有名な人なの?」


「ええ。彼は……」


 と言いかけた瞬間、美琴は得体の知れない殺気に襲われる。


「あらん、私のことなら彼女が正しいわよ?」


 振り返るとそこには、和やかな表情を浮かべるキャサリンの姿がある。

 だが、その目は笑っていなかった。


「……失礼しました、彼女が正しいですね」


「ええ、そうよ」


 美琴が訂正すると、満面の笑みを浮かべるキャサリン。

 なるべく見ないように視線を逸らす。


「彼女は、魔法協会のA級ライセンス持ちです。海外での実習が必要なため、日本でも五人しかいないんですよ。ですが、魔法演舞の指導もできるのですか?」


「当然じゃない、こう見えて私魔法演舞ファンタジアの指導資格を持っているのよん」


「「へ?」」


 呆然とした声が二人の口から洩れる。

 何を思っているのか、尋ねるのは酷だろう。きっと、「魔法よりも肉弾戦の方が得意では?」もしくは「ボディビルダーじゃないの?」とでも思っているはずだ。


「それにしても、貴方よく知っていたわね」


「ええ、まぁ。この前雑誌でちらりと見たので」


「少し見ただけで記憶できるなんて、随分と頭が良いみたいね。羨ましいわ~」


(いえ、そうではないのですが……)


 いくら美琴であっても、少し見ただけで顔と名前を覚えられるわけではない。

 だが、これだけ特徴的な人物だ。むしろ忘れられる人物の方が珍しいだろう。キャサリンの褒め言葉に、曖昧な表情で頷くのだった。


「それで、貴方が田辺美琴ちゃんね。そちらの二人は、確か三沢彩香ちゃんに高田穂香ちゃん……今日から三人ともよろしくね」


 キャサリンがそう言い終えると、先ほどまで呆然としていた二人が声を上げる。


「ちょ、ちょっと待って下さい! 私たちもですか!?」


「美琴だけじゃないの!?」


 慌てたように言い募る二人。

 きっと、美琴だけが生け贄になると考えていたのだろう。だが、そうは問屋が卸さない。


「大丈夫よん、貴方たちほどの人材を放っておくつもりはないわぁ~。遠慮なんてしなくていいのよぉ」


 その言葉に、「遠慮じゃないのに……」などと言っているが、キャサリンは聞く耳を持たなかった。

 そんななか……


「んじゃあ、お嬢。俺はこの辺りで失礼するぞ。巻き込まれたらかなわん」


「待って下さい、爆弾を置いたまま帰るつもりですか!?」


 一人帰ろうとする秀之に、美琴は制止の声を掛ける。

 しかし……


「終わった頃、回収に来る……俺、運転手じゃないんだけどな」


 遠い目をする秀之。

 そして、哀愁漂う後ろ姿から「車内だと二人きりなんだぞ」という呟きが聞こえて来た。キャサリンと二人きり……その後ろ姿に、美琴が掛けられる言葉はなかった。

 一方で、カーラはというと……


「私は研究室へ向かう。二人の実証データを分析する必要がある」


「「待って、置いてかないで!?」」


 立ち去ろうとするカーラに、彩香と穂香は制止の声を掛けた。


「研究には、私たちの協力が必要ですよね!」


「うんうん、手伝いが必要!」


 二人とも必死だ。

 何せカーラの実験により疲弊した後、キャサリンの指導を受けるのだから。何をされるか分からず、不安なのだろう。

 だが、カーラに慈悲はない。


「お前らじゃまだ。終わったら、鍵を返しに来い」


 そう言って、カーラは秀之に続いて去って行くのであった。


「じゃあ、早速はじめようかしらん。まずは基本的なステップからよん!」


 最後にハートでもつきそうなくらいのテンションで言い放たれた言葉。

 対極に、美琴たちはげんなりとした表情で指導を受けるのであった。






「はぁ、はぁ、はぁ……」


 時刻は既に夕方。美琴は呼吸を荒くして、仰向けで倒れている。

 いったい何があったのかと言うと……


「まさか、ここまで……ここまで踊りが下手なんて」


 愕然とした表情を浮かべるキャサリン。

 美琴の結果が信じられないのだろう。彩香と穂香もまた同様である。ただ、二人は顔を見合わせて笑っているように見える。


「ひ、人には……はぁ、はぁ。向き、不向きが……はぁ、はぁ……あります」


 息も絶え絶えの美琴。

 かれこれ三時間。美琴はというと、彩香たち二人が十分で終わった基本的なステップの習得にそれだけの時間が掛った。

 踊りが下手というよりも、呪われているようなレベルである。


「美琴。もしかしてだけど、リズム感覚がない?」


「そう言えば、カラオケも行ったことないよね。いつも断ってるけど、もしかして……」


「……」


 二人の疑問に、美琴は沈黙で答える。

 そう、美琴にはリズム感覚が皆無なのだ。それこそが、美琴が魔法演舞にだけは出場したくないと思う理由である。

 すると……


「容姿は抜群、運動神経は悪くない。魔法に関しては、私以上。けど……リズム感覚はなし、と」


 指導中ということで、いつになく真剣な口調のキャサリン。

 端末に美琴の結果を書き記している。そして、重いため息を吐いた。


「まさか、これほど致命的な欠点があるなんてね。けど、才能がないというには他の能力が高すぎるし……」


「問題児ですみません」


 美琴は素直に謝った。

 自分の欠点を理解しているが故だろう。いつになく、弱気の態度である。


「まぁ、大丈夫よん! ビシバシ鍛えて、人並み程度には踊れるようにしてあげるから! 大船に乗った気持ちでいてちょうだい!」


「ひ、人並み……」


 ビシバシ扱かれても、人並みにしかならない。

 その言葉に、密かにショックを受ける美琴であった。そんな美琴の内心を知ってか知らずか、キャサリンは言葉を続ける。


魔法演舞ファンタジアは、踊りで評価されるのは魔法との組み合わせになるわ。技術的な評価は魔法であって、踊りではないの。だから、踊りで減点されないように基本的な踊りが出来ていれば、十分なの」


「その基本的な踊りができるかどうか怪しいのですが?」


「……」


 美琴の返しに、真剣な表情で考え込むキャサリンいや美智乃雄真。

 分かってはいたが、この返しは辛いものだ。内心傷ついていると……


「そこは気合で乗り越えるしかない。幸いにも、才能は関係ないから気合で乗り越えて」


「まさかの根性論!?」


 確かに、踊りに関しては技術的な評価はない。

 あくまで魔法とどれだけマッチングしているかの評価だ。基本的なものさえ覚えていれば、後は練習で補えるだろう。

 そこにどれほどの時間が掛るか分かったものではないが……。

 愕然とする美琴を無視して、キャサリンは彩香たち二人に視線を向ける。


「二人には悪いけど、私も美琴ちゃん以外を見るのは厳しいかもしれないわ。スピードブレイクってことだから、残念だけど魔素操作や魔法についてだけでも良いかしらぁ?」


「「それで、大丈夫です!」」


 その提案は、二人にとって願ってもない申し出だった。

 申し訳なさそうに言うキャサリンに満面の笑みで答える。それを見た美琴はというと……


「やはり、私がスピードブレイクに出場した方が良いのでは? 二人の方が才能がありますし」


 至極当然の考えだ。

 魔法に関しては負けているつもりはないが、容姿や才能は二人の方が上だと考える。踊りに関しては、比べるのもおこがましいだろう。


「何言ってるのよ、美琴。お父さんのためでしょう? 頑張らないと」


「うっ」


 彩香の一言に、美琴は言葉に詰まる。

 それを言われると弱いのだ。たとえ踊りが下手であろうと、美琴の目的は別の点にある。


(そう、ですね。優勝しなくとも、魔道具の披露さえできれば……)


 美琴が恥をかこうと、出場さえすればその目的は達成される。

 父の偉大さを世間にアピールさえできれば、本番でこけようが関係ない。そう決意しようとしたが……


「うんうん。こけてる美琴を見るのが面白い」


 穂香の一言に、美琴の表情が固まる。

 

「穂香、それ言っちゃだめ!」


「あっ、つい本音が」


「……」


 二人の本音を知り、ジト目で見る美琴。

 やはり、この二人が出場すればいいのに。そう思う美琴であった。


「じゃあ、明日からビシバシ行くから、そのつもりでね!」


 そうして、魔法演舞に向けて動き始めるのだった。





 


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