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奇運のファンタジア   作者: みたらし団子
美琴の魔道具
31/92

第31話 合同授業(下)

誤字報告、ありがとうございます!

脱字が多かったようで、申し訳ありませんでした。


後半は彩香視点になります。

 麗子に絡まれるというアクシデントがあったものの、信哉の監督のもと順調に授業が進む。


「全員、ペアになったようだな。なら、今日の授業について説明するぞ」


 ペア同士で固まっているため、美琴の隣には彩香でも穂香でもなく不愉快そうな表情を浮かべる麗子が座っている。

 その視線の先には、クラスメイトとペアになった勇気の姿。

 魔道具の性能差ということで、結局彼らは普段通りクラスメイトとペアを組むことになった。「何故、私がこんな女とペアになんか」という不服そうな声が聞こえて来る。


(こんな女で悪かったですね)


 内心、悪態をつく。美琴もまた、麗子と進んで組みたいとは思えない。

 美琴の視線の先には、ペアを組んだ彩香と穂香の姿があった。

 恨めしそうな視線を向けると、美琴の視線に気づいたのか、頬を引きつらせて明後日の方向に視線を逸らした。


「今日の授業は、前回の授業で伝えておいた通り、決闘エチュードを行う。復習ってことで、誰か決闘について説明してくれ」


 手を挙げようとする者はおらず、不平不満が飛び交う。

 信哉が大きくため息を吐くと、不意に視線が退屈そうに欠伸をかく穂香へと向けられる。


「じゃあ、そこで今にも眠りそうな高田。答えろ」


 まさか指名されるとは思っていなかった様子の穂香。「げぇ」という声を上げて、苦笑を浮かべる彩香に促されて立ち上がった。


「……劣化トロイメライ」


「もう少し詳しく説明できないのか……。魔法学の実技の目的としては、主に魔法の操作能力、制御能力、魔素を利用した防御技術を身につけることだ。普段は射撃シューティングなどそれぞれ分けて授業をするが、決闘ではすべての技術を応用する必要がある。……まぁ、高田の言う通りトロイメライとルールが似ている。ぶっちゃけると、予算の関係上そのそれを簡略化したものだ」


 そう言って取り出したのは、シンプルなデザインの腕輪だ。

 これが、トロイメライで言うマテリアルの代わりとなる物である。信哉は、生徒たちに見えるように高く持ち上げると、生徒たちを見渡した。


「そうだなぁ、三沢。これがどのような魔道具か答えてみろ」


「はい。自身の魔素で障壁を張る魔道具です。ダメージを受けると、持ち主の体内魔素が減少し、残り二割を切ると赤く染まります」


「その通りだ。扱いとしては魔道具ということになるが、これは使用者の意思と関係なしに自動で発動するのが特徴だな。最近では危険だという意見が多いものの、魔法がどれほど人に恐怖を与えるか知ってもらうために授業で採用している」


 美琴は、信哉の言葉に深く頷く。

 魔法は、人を殺めることができる技術だ。ある程度の規制はされているが、魔法を用いた犯罪は近年増加傾向にある。

 そこで魔法を向けられることの恐怖を知ってもらうために、このような授業があるのだ。批判があるものの、その必要性は明らかであり、今のところ授業で決闘がなくなることはない。


「さて、説明はこのくらいにするか」


 信哉がそう言うと、男子を中心に歓声が上がる。

 次の指示を待たずして、勢いよく立ち上がった。一方で、男子と違って女子は決闘を怖がっている者も多いのだろう。少し足取りが重かった。

 そんななか……


「ふふん。格の違い、教えてあげますわよ」


 得意げに胸を張る麗子は、そう言い残すと勇気たちのもとへと駆けつけて行った。


「はぁ……」


 そんな麗子の後ろ姿を見て、美琴はため息を吐く。

 誠では、面倒だからと理由をつけてペアにはならなかっただろう。それを考えると、美琴になってから感情に振り回されることが多くなったと感じてしまう。


(いえ、こちらが普通なんですよね……。金田誠は、どうしてあそこまで感情が希薄だったのでしょうか?)


 自分の事であるはずなのに、疑問に思う美琴。

 いや、本来の感情というものを知ったからこその疑問かもしれない。一人静かに座っていると……


「えっと、美琴?」


 彩香が声を掛けて来た。その傍らには穂香の姿もある。


「何です?」


 非難をするような視線を向けると、二人は少々居心地が悪そうだった。


「さっきはごめんね。先生を早めに呼んでいれば、良かった」


「ごめん」


 申し訳なさそうに言う二人。

 特に穂香は何もしなかったので罪悪感が大きいようだ。短い期間ではあるが、話し相手となることが多いため、穂香が軽度のコミュ障を患っているのは理解している。

 あの中に割って入るのは穂香には厳しいことなのだろう。


「いえ、気にしないで下さい。私も、断ろうと思えば断れたはずですから」


 気にしていないとアピールするように、視線を和らげる。

 それを見て、二人は安堵の息を吐いた。そして、美琴の手に握られる、黒色の魔道具を見て言った。


「ところで、それってカーラさんのところにあったのだよね?」


「はい。どうせ使う人がいないからと言って、馴染ませるという意味を込めてもらったんですよ」


「使えるの?」


 月宮学園の一件を思い出してか、それとも転移魔法であることからか。

 どちらを指しているか、分からないが問題はなかった。


「ええ、少し触ってみたのですが、面白い副次効果がありまして。ちょっと、じっけ……コホン、訓練をしてみようかなと」


 せっかくもらった魔道具だ。

 実験データが取りたいということだが、魔法式が大雑把なカーラだ。色々と無駄が多く、開発者としての血が騒ぐのか、色々と弄ってしまった。

 その過程で見つけた副次効果があるので、せっかくだから実験しようと思ったのだ。


「今、実験って言いかけた!?」


 愕然とした表情で声を上げる穂香。


「美琴よりも、麗子の方が危険そう……」


 どこかひいた様子に、彩香は頬を引きつらせるのであった。

 信哉の指示で、生徒たちが動き始めるのであった。


 授業が後半に差し掛かる頃。

 遂に美琴と麗子の順番が回って来た。信哉から魔法障壁の魔道具を渡されると、前へ出る。


「まぁ、せいぜい足掻けば良いわよ。結果は見え透いているけどね」


 麗子は、美琴の対面に立つと肩を竦めて言い放つ。

 きっと、自身の勝利を確信しているのだろう。魔法の才能は血筋に影響されるケースが多く、月宮の血を引く麗子の才能は確かなものだ。

 それに加えて、格上の魔道具を使っているという自負があるようで、美琴のことを完全に下に見ていた。

 周囲からもまた……


「麗子、気をつけなさいよ。流石に一方的だと可哀想でしょう?」


「持っているものが違うの、少しは手加減してあげなさいよ」


 麗子を応援する声のなかに、そんな声が混じっていた。

 その声の発信源は、勇気の近く。カラフルな色合いの少女たちがそこには立っていた。おろおろとした様子の明美を除くと、一様に美琴へ敵意を向けている。


(きっと、すぐに終わらせるなという意味なんでしょうね、はぁ……)


 勇気は本気で心配しているようだが、他の者たちは美琴が無様に負ける姿が見たいのだろう。

 内心ため息を吐いていると、麗子が言い放つ。


「安心しなさい。貴方のような程度の低い相手でも、手加減くらいはしてあげるから。まぁ、予想よりも弱かったらごめんなさいね」


「そうですか」


 サディスティックな笑みを浮かべる麗子に、美琴は淡々と返事をする。

 そんな冷静な反応が、澄ましているように見えるのだろう。麗子は、眉をピクリと動かした。

 何かを言いかけようとしたが、それよりも先に信哉が口を開く。


「じゃあ、始めるぞ! 制限時間は、三分。降参する場合は、すぐに言ってくれ! 準備は良いか!?」


「「はい!」」


「では、始めろ!」


 信哉の開始の合図とともに、麗子は魔道具を構える。


「……【ファイアブレイド】!」


 中級火属性魔法【ファイアブレイド】。

 炎で作られた無骨なデザインの剣が美琴へと襲い掛かる。少し時間が掛っただけあって、魔素の収束は十分だ。

 いくら美琴の魔素の量が膨大だからと言っても、何度も直撃すれば大きく魔素が削れてしまうだろう。

 しかし、そうはならなかった。


――【ディメンションゲート】、起動


 美琴は、高速で放たれる炎の剣に向かって手を伸ばす。

 魔道具の起動に伴い、美琴の有する魔素が魔道具へと流れ始める。


――第一段階ファーストフェイズ、ドミネイト


 ゲートを開くためには、空間を支配する必要がある。

 美琴は僅かな魔素を用いて、自身を中心とした半径五メートルの距離を支配する。


「【ハック】」


 美琴は、小さく呟いた。


――ハッキング、スタート……成功


 刹那の時間に、美琴は炎の剣に干渉する。


「っ!?」


 突然、美琴の前で停止した魔法に、麗子は鋭く息をのんだ。

 おそらく気づいているのだろう。自分の放った魔法の制御が奪われてしまったことに……。

 驚愕する麗子を視界に収めながら、美琴は次のプロセスに移行した。


――属性変換、炎から氷へ


 先ほどまで、橙色だった炎が一瞬で青く染まる。

 そこには、同じ魔法だったとは思えない美しい造形の氷の剣が完成していた。美琴が手のひらを翻すと、氷の剣はベクトルを変える。


「まさかっ……!?」


 自身に向けられた氷の剣に、嫌な予感を覚えたのだろう。

 あり得ない……そんな言葉が美琴の耳に届く。だが、残念ながらこれは現実である。支配能力が美琴よりも遥かに劣っているからこそ起こる現象。

 だが、麗子にはそれを認めることはできなかった。


「行け」


 美琴の一言ともに、氷の剣は麗子へと襲い掛かるのであった。




*****




「え、えげつない……」


 美琴と麗子の対戦を見て、最初に出て来たのはその言葉だった。

 麗子が、美琴へ向けて最初に放たれた炎の剣。それは刹那の時間で、氷の剣へと変貌し麗子へと襲い掛かった。

 咄嗟の判断で転がり、直撃を避けたがダメージを受けてしまったようだ。麗子の表情は、いったい何があったのか理解していない様子だが、それは仕方のないことだろう。傍から見ている彩香たちもまた美琴が何をやったのか分からないのだから。


 しかし、麗子は諦めなかった。

 魔道具に不調があると考えたのか、麗子は別の魔道具を取り出すと、美琴へと魔法を放った。


「っ、この! 【フレイムスピア】!」


 麗子から放たれるのは、直径三メートルはある炎で出来た槍。

 魔素の収束もしっかりとしており、当たればただでは済まない。だが、炎の槍が飛んでくるというのに、美琴はそのまま立っているだけだった。


「【……】」


 美琴が何らかの魔法を発動した。

 勢いよく飛んで行った炎の槍が、急速に勢いを失い、美琴の前で止まってしまう。そして、炎が氷へと変換されると、ベクトルを変更すると麗子へと襲い掛かった。


「またっ!?」


 ヒステリックな声を上げて、避ける麗子。

 そう、この光景は一度だけではない。複数の魔道具で、複数の魔法を確かめたが、どれも氷属性に反転させられ、麗子へと襲い掛かった。

 無様に這いつくばる麗子に対して、埃さえも被っていない美琴。


 そこにあったのは、明確な格の違いだった。


 ほぼすべての生徒が、美琴が何をしているのか理解していないのだろう。

 麗子が放った魔法が、何故か氷へと変換され反射されてしまう。そんな魔法が存在したのだろうかと、彩香もまた疑問だった。


「まじかよ……」


 そんな中、美琴を除いて最も理解している信哉が声を上げた。

 近くにいた彩香の耳には、その驚愕が伝わって来る。


「先生、美琴は何をしているのですか?」


「ああ、三沢か。……いや、俺にも何をやっているのか正確に分かるわけではない。だが、おそらくは空間支配だ」


「空間、支配?」


 聞きなれない言葉に、彩香は首を傾げる。


「それって何?」


「珍しく積極的だな、高田。空間支配っていうのは、そのままの意味で空間を支配するってことだ。あの空間は田辺が支配しているのだろうな」

 

 その言葉を聞き、美琴が持っている魔道具のことを思い出す。

 転移魔法だ。それは空間にゲートを作りだし、空間と空間を繋ぐもの。その過程で空間そのものを支配するのだと理解した。

 だが、同時に疑問が生まれる。


「空間支配ということは分かりましたが、何故氷に? 闇ではないのですか?」


「……これは仮説だが、おそらくあいつのやっている事は魔法式の乗っ取りだ。放たれた魔法の魔法式をハッキングしているんだよ」


 そう言って頭を掻く信哉。「こんな芸当、支配能力に余程の差がないと不可能だぞ」という声が彩香の耳に届いた。


 彩香は、ふと視線を勇気たちに向ける。

 開始前までは、麗子の圧倒的勝利を疑っていなかった面々。甚振いたぶるように指示を出していたくらいだ。

 しかし、結果はどうだろうか。

 麗子の実力と、彼らの実力の間に大きな差はない。勇気も含めて、間抜けにも口を大きく開いて二人の決闘を眺める。


「そろそろ終わらせましょうか」


 魔法の連続行使や美琴からの反撃。

 それによって、麗子の魔素は大幅に減少していた。限界が近いのは、疲労を色濃く滲ませた麗子の表情を見れば明らかだ。


「何ですって!?」


 ヒステリックな声を上げる麗子。

 どう見ても、麗子が劣勢だ。しかし、それを認められないのだろう。ハッキングされるのが分かっていながらも、麗子は炎の槍とは別に、最初の魔道具で炎の剣を放つ。

 威力こそ、単発のものよりは劣る。

 おそらく、魔法の同時行使に美琴が対応できないと考えたのだろう。

 しかし……


「【ハック】」


 現実は無情だ。

 美琴は、さしたる苦労もなく放たれた魔法の魔法式を変換する。そして、氷属性に変換された魔法は、美琴によって強化されて反射された。


「なっ!?」


 回避不可能。

 麗子の消耗した魔素の障壁をガリガリと削り、あっという間に障壁の腕輪が赤く染まった。

 誰もが唖然とするなか、信哉は声を高く上げる。


「そこまで!」


 魔素を全く使用していない美琴は、疲労を全く感じさせず一礼をするとその場を後にする。

一方で、その場にへたり込む麗子は、羞恥と怒りにより顔を赤くして立ち去って行く美琴の後ろ姿をきつく睨みつけるのであった。




*****




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