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奇運のファンタジア   作者: みたらし団子
美琴の魔道具
26/92

第26話 カーラの実験 (上)

明けましておめでとうございます!


 美琴たちがカーラに連れて来られたのは、カーラが実験用に貸与されているアリーナの一室だった。


「さてと。時間もないし、早く始めるか」


 気だるそうに言うカーラ。

 身だしなみや健康に気を使えば美人であるのに、不健康な生活が祟り、勿体ないと感じてしまう。

 そんな美琴たちの感想を知らないカーラは、これから一発芸でもやるのかと思わせる眼鏡を掛けると振り向いて来た。


「実験を始める前に聞いておくけど、適正属性はなに? あと、パワーとテクニック、どっち派?」


「……あなたはもう少し身だしなみというものを気にするべき、です」


 もう何が変か、等とは問わない。

 すべてが変だ。


「マコト妹、兄に似て口うるさいぞ」


「だから、誰が妹です。だいたいあなたはもう少し女性としての自覚を持ってください」


「言っておくけど、美琴も大概だからね。もっと女の子らしい服を着なよ」


 美琴の苦言に彩香が突っ込みを入れる。

 因みに、今の美琴の服装はワイシャツにジーパンだ。

 他人に女性らしさを言えるような服装ではなかった。

 彩香の突っ込みに言葉を詰まらせると……


「ふっ、女を磨いてから出直してくるんだな」


「なっ!?」


 お前にだけは言われたくない。

 だが、誠として……男としての意識が強い。

 喉まででかかった言葉を飲み込むと、悶々とした気分で押し黙る。

 勝ち誇った笑みを浮かべる芸人(カーラ)を鋭く睨んだ。


「さて、それで茶髪のお前、サヤカだったか? 属性は?」


 先ほどからジト目で見る彩香に尋ねた。


「私は光です。どちらかと言うとテクニックかな……」


「なるほど。ゲームで言うところのなんちゃって剣士キャラだな。剣士の格好をする固定砲台っと」


「何ですか、その評価は!? 私の意見まったく関係ないですよね!?」


 彩香の申告を無視して、メモをするカーラに彩香が非難の声をあげる。


(当たってる……)


 遺憾ではあるものの、カーラの評価は美琴と同様だった。

 彩香は不満の声をあげるが、カーラは取り合うことなく、視線を穂香に向ける。


「それで、そっちは?」


「風……派手な魔法が好き。きっと魔法使いタイプ」


「つまり、モンクか。魔法は補助で殴った方が早い、と」


「違う!」


 モンク扱いに不満の声をあげるが、カーラは無視してメモを取る。

 おそらく、あの眼鏡に何らかの細工がされているのだろう。


(確認する意味がないだろ。相変わらず過ぎる……)


 ふと、そんなことを思う美琴。

 最後に会ってからそれほど時間が経っていないとは言え、あまりの変わらなさに苦笑してしまう


 そして、美琴に視線が向けられると思いきや、カーラはメモ帳を閉じた。


「まだ私は聞かれてないんですが?」


 美琴が怪訝そうに尋ねると、カーラが「何言ってるんだ、こいつ」とでも言いたそうな目でこちらを見る。


「マコト妹、お前は闇だろう。見るからに腹黒そうだし。後半になって仲間入りする胡散臭い奴だな」


「なっ!?」


 腹黒そうだから闇属性。

 そんな法則性は発見されていない。

 しかし、自分が腹黒だと自覚している。そして、闇属性だ。

 当たっているため、何も言い返せなかった。

 後ろから、「あ、当たってる……」「は、腹黒……」という震える声が聞こえてくる。

 後ろを振り向かなくとも、口元やお腹をおさえて、笑っているのが分かる。


「……コホン!」


 気を取り直すこと、二人への忠告も兼ねて大きく咳払いをする。


「確かに私は闇属性です。しかし、氷属性も有しております」


「ほぅ。言われてみれば、マコトみたいに冷酷そうだ」


「い、言うに事欠いて……」


 冷酷無慈悲な血も涙もない誠みたい……。

 中身はそうだが、いくらなんでも美琴に失礼だ。そう思って憤る。

 だが、カーラは二人同様に聞く耳を持たず、背中を向けて段ボール詰めの魔道具の山を漁り始めた。


「えっと、これとこれだな。ほいっ、と!」


 お目当てのものを見つけると、振り返ることもせず、彩香と穂香に魔道具を放り投げた。


「え、あっ……これなに?」


「っ!?……痛い、頭に当たった」


 彩香は辛うじてキャッチしたが、お腹を抱えて笑っていた穂香はキャッチできず頭に当たったようだ。

 人のことを笑った罰が当たったのだろう。

 因果応報である。


「光は中級魔法の【ライトピラー】を複数展開だな。マコトが考案した多重展開魔法を使ったものだ。完成には程遠いが実用段階はクリアした」


「多重展開魔法ですか?」


「理論としては簡単で、魔法の展開を一度キャンセルして再展開するというものだ。最初の魔法を維持することが困難だったが、それをハードに記録させることで解決した。だが、威力の低下が難点だ」


 眼鏡を外すと、いつになく饒舌に語るカーラ。

 しかし、多重展開魔法と聞いて何か思い当たることがあったのだろう。

 彩香と穂香の視線が美琴に集中する。


「それって美琴がやってたのだよね」


「授業で氷剣を二本作ってた」


「なに?」


 二人の言葉を受けて、カーラの視線が鋭くなる。

 説明を求めているようだ。

 しかし、カーラの作り上げたものと美琴がやったことは似ているようで、実際はかなり異なる。


「私が行ったのは多重展開魔法ではありません。名付けるならば、デュアルスペルといったところでしょう。構想こそ同じですが、魔法式を完全に切り離していますから」


「つまり、二つまでしか展開できないと……だが、魔法式から切り離した魔法をどうやって制御している?」


「魔素制御の応用ですね。後は再展開した魔法に結びつけるだけです」


 実行したものの、今思うと無駄が多い。

 内心苦笑すると、「起動時間を考えると、普通に二度展開した方が良いですね」と付け加える。

 カーラに視線を向けると、難しそうな表情を浮かべて考え込んでいた。


「あのっ、美琴がしたことって凄いんですか?」


 そんなカーラの様子を見て、彩香が尻込みした様子で尋ねてきた。


「凄いなんてレベルではない……控え目に言って、化け物としか言いようがないな」


「勝手に化け物扱いしないで下さい。コツを掴めば案外簡単です」


 美琴が心外だと言うと、三方向からジトりとした視線が向けられる。


「美琴はさておき、私の分は?」


「お前のも同じだ。ただ火力より手数を増やしたものだな。下級魔法の【ウイングカッター】を多重展開したものだ。効果のほどは自分で確認しろ」


「「……」」


 二人から「本当に大丈夫?」という視線が向けられる。

 不安に思う気持ちは分かるが、カーラの腕は確かだ。静かに頷き返す。


「それでマコト妹……お前のはこれだ」


 そう言って、高級素材が使われた黒色のデバイスを美琴に見せる。


「これは?」


「空間転移、と言えば分かるだろう」


「っ!?」


 カーラの言葉に息を飲む。

 それは闇属性の空間把握に長けた誠が提案した魔法だ。

 自分を中心とした空間を把握。

 数値化した後、そのデータを用いて転移する。

 問題は転移だ。

 異空間を経由する移動は人体に影響を与えることが確認されている。

 実現は不可能だと考えられていたのだ。


「いったいどうやって……」


「発想の転換だ。これから刺激を得た」


 驚愕に表情を染める美琴に、カーラが真剣な表情を浮かべて取り出したのは……


「聖典だ」


「は?」


 青い狸が可愛らしく描かれた一冊の本だった。

 いったいそれは何なのか。

 困惑する美琴に代わって……


「それ、ただのマンガじゃないですか!?」


 彩香が声をあげる。


「その通りだ。異空間を経由する? その考えが間違っていたのだ! 空間を繋げれば問題ないのだよ!」


「「「うわぁ……」」」


 よりにもよってマンガ……。

 三人は胡散臭そうにカーラを見る。


「ここまで完成させるのは困難だった。稀少な素材を湯水のように使って、ようやく試作品が完成した」


 ここまでの苦労を思い出して遠い目をするカーラ。

 それはそうだろう。

 異空間を経由したものの方が難易度は遥かに低いはずだから。


「だが、ここで問題が生まれた。それは使い手だ。闇属性、それも空間把握に長け……」


 彩香の視線が美琴に向けられる。


「空間をねじ曲げるほどの馬鹿げた魔素の保有量を持ち……」


 穂香の視線が美琴に向けられる。

 何故だか嫌な予感がする。


「そして! 自力で魔法式を演算出来るような人外」


 カーラのキラキラした瞳が美琴を射抜く。


「ま、まさか……」


 マンガの知識を再現したから、実験体になってくれ。

 そういわれたとき、人はどのような態度を取るだろうか。


 料理マンガの創作料理の再現とは次元が違う。

 しかも、マンガの創作料理は大抵不味い。もしくは強引に調味料で味をまとめるため、不味くはないが大味になる。


 失敗する可能性がある実験に付き合うほど、酔狂な人はいないだろう。

 少なくとも、美琴はごめんだ。


「ふっふっふっ……」


 奇妙な笑い声をあげてにじり寄るカーラ。

 危機感を覚えた美琴はカーラから距離を取り始めた。

 しかし、後ろはもう壁だった。

 カーラと壁に挟まれた美琴。

 助けを求めるような視線を二人に向けると……


「……」


 無言で合掌する彩香。


「グッドラック」


 そう言って、サムズアップする穂香。

 二人とも助けてはくれないようだ。


「大丈夫、大丈夫……危険はない、はず」


 物凄く不安になることを言うカーラ。

 万事休す。


(これが因果応報なのですね……)


 孤立無援となった美琴は、取締役解任のための株主総会を思い出すのであった。








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