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奇運のファンタジア   作者: みたらし団子
月宮の血統
23/92

第23話 秋宮

誤字報告、ありがとうございます!


「「大きい……」」


 月宮家の邸宅を前に、彩香と穂香の呆然とした声が響く。

 彩香の家から見た西川家の邸宅もかなりの大きさだが、月宮家は歯牙にもかけないほど大きい。

 そんな二人の姿を見て……


「これでも、本家に比べると小さい方なんですよ」


 美琴は苦笑を浮かべる。

 二人は、美琴の発した言葉に口を大きく開く。信じられないと言いたそうな表情だ。

美琴が何かを伝える前に、葵が苦笑を浮かべて言った。


「ええ。月宮の本家は、京都にあります。とは言え、あちらは伝統があるというだけで、あまり機能性には長けていません」


「お婆様も、年一度か二度しか戻りませんしね」


 美琴も、京都の本家へ行ったことがある。

 しかし、ただ広いだけだ。

伝統を感じさせると言えば確かに聞こえは良いだろうが、その実態はただ古いというだけで管理の方が大変である。

そんなことを思っていると、葵が首を傾げて美琴に尋ねて来る。


「美琴様、よくご存じですね。訪れたことがあるのですか?」


「……っ」


 葵の一言に、美琴は小さく息をのむ。

 よくよく考えれば、美琴は以前弘人に連れてこられるまで、ここへ立ち寄ったことはないのだ。

 それにも関わらず、本家を知っているのはおかしなことだろう。


(……美琴になってから妙に口が軽いような気がします)


 きっと、誠であればこのような失言をしなかっただろう。

 冷血無慈悲で不愛想なだけあって、口数が少なかったからだ。美琴になってから、感情の起伏が大きくなったことで失言が増えたのだと思う。

 それは人間として良い事であるはずだが、この時ばかりは誠の方が良かったと思ってしまう。

 葵にどう説明したものかと悩んでいると、後ろから複数の人影が出て来た。


「これは、秋宮様。お久しぶりです」


 葵は、先頭に立つ中年の男性に一礼をする。

 すると、男性はその場に足を止めると……


「ここはいつから託児所になったんだ? 子供の遊び場ではないのだから、早く追い出せ」


 葵の側に立つ美琴たちを一瞥すると、挨拶を飛ばして侮蔑の言葉が飛んできた。

 とてもではないが、初対面の相手に対する態度ではない。葵は、ピクリと表情を動かすと……


「秋宮様。こちらは、大奥様のお客人にございます。無礼な発言はお控えください」


 咎めるように言う。


「ふんっ!」


 琴恵の客と聞き、不快そうな表情を浮かべる秋宮。

 後ろに妻と見られる女性も、こちらに侮蔑を孕んだ視線を向けて来る。


(はぁ、秋宮ですか。もう二度と顔を合わせたくなかったですね……)


 秋宮家は、月宮の分家の一つだ。

 しかし、『月』の文字が付いていないため、血縁はかなり遠いと分かる。しかし、秋宮は月宮の魔道具製造を担当していることもあって、無視できない存在だ。

 四家に連なるもの以外を下賤な存在として見下す性格もあって、実力だけで這い上がった誠とは犬猿の仲である。

 誠は煩い子蠅程度にしか感じなかったが、今思うと苛立ちを感じずにはいられなかった。


「ねぇ、あの人たちって……」


「うん。麗子の」


「だよね」


 ふと、後ろからそんな声が聞こえて来る。

 何やら二人の様子からして知り合いのようだ。美琴は、視線を二人に向けると小声で尋ねる。


「二人は知り合いなのですか?」


「知り合いって言うか、ねぇ……」


「会ったことはないけど、間接的に知っている」


 二人は顔を見合わせて、過去に何かあったのか嫌そうな表情をしている。


「どういう意味です?」


 美琴が尋ねると、彩香は神妙な表情で口を開いた。


「いるんだよね、うちの学校に」


 まるでお化けが出るというような言い方だった。

 しかし、ここでの話はある意味ではそんな可愛らしい話ではなかった。


「秋宮麗子。親にそっくり、因みにハーレム要員」


「……」


 穂香の一言に、美琴は言葉を失う。

 そんな美琴に、彩香は苦笑交じりに言った。


「一応、校内ではかなり有名な話なんだけど。それに、演舞部で遠目に見ているはずなんだけどね。明美ちゃんに食って掛かっていた子」


「ああ、そう言えば……」


 彩香の一言に、そう言えばと思いだす。

 脳裏に浮かぶのは、赤髪の高飛車そうな少女。きっと、あの少女が秋宮麗子なのだろう。何か因縁でもあるのだろうか。

 できれば、秋宮との縁は切りたいところだ。


 そんな現実逃避をしていると……


「それで本日はどのような御用ですか? 大奥様から、秋宮様が訪れるという話をお聞きしておりませんが?」


 いつになく硬い表情で尋ねる葵。

 しかし、秋宮は気にした様子もなくつまらなそうに言い放つ。


「急用ができたからに決まっているだろう。当主様に会わせてもらう」


「ご当主様への連絡は?」


「そんなもの、今から訪れれば良いだろう。幸いにも、そこの小娘どもがいるということは時間が空いているのだろう?」


 美琴たちと面会するくらいなら、暇なのだ

 そう言外に言われたような気がする。いや、事実そう言っているのだろう。

 このまま今日の面会が潰れてくれるのでは……ふと、そんなことを思う美琴。

 すると……


「だいたい、何だこの小娘どもは。大方、没落した分家の者だろう。こんな貧乏くさい小娘どもを呼ぶなど、当主の正気を疑わざるを得ないな」


 秋宮は、美琴たちを一瞥すると鼻で笑う。


(……流石に調子に乗り過ぎ)


 美琴の思考が急速に冷めて行く。

 ここは、月宮家だ。なのに、資産はあるものの月宮の末端でしかない秋宮が、我が物顔で当主の批判をする。

 いったい、何様のつもりだろうか。

 その挙句、美琴だけでなく彩香たちのことも侮辱しているのだ。美琴が静かに怒気を高めると……


「そこまでにしなさい!」


 ぴしゃりと声が響く。

 声が聞こえた方を見ると、そこには般若がごとき形相を浮かべる琴恵の姿があった。その視線は、秋宮夫妻のみならず美琴へも向けられている。


「これは、当主様。ご機嫌麗しく」


 先ほどまで、琴恵の正気を疑っていたとは思えない態度だ。

 琴恵に対して恭しく一礼をする秋宮夫妻。

 しかし、琴恵の視線は冷めたままだった。


「外が騒がしいと思えば。秋宮、いったい何の用ですか?」


「いいえ、当主様に急用がありまして。その途中、この小娘どもが私に対して無礼な態度を取ったのです。どんな教育を受けたのか、まったく親の顔が見てみたいものですな」


「無礼な態度?」


 秋宮の言葉に、美琴はポツリと呟く。

 いったい無礼なのはどちらなのだろうか。アポなしで訪れる秋宮の方が、よほど無礼だ。小さく息をのむ音が聞こえて来る。

 しかし、それを無視して美琴は左腕に手を伸ばそうとすると……


「そこまでにしなさい!」


 その声は、果たしてどちらへと言ったものなのか。

 僅かに冷静さを取り戻した美琴は、左腕に向かった手を元に戻す。


「その子たちは私の客人よ。秋宮、それよりもその急用とやらについて話しなさい」

 琴恵が説明すると、不承不承とばかりに大きく息を吐く秋宮。

 とは言え、美琴たちを取るに足らない存在だと思っているのだろう。すぐに本題へと話を移行する。


「それは、以前話した件で再度当主様に検討をお願いしたく」


「それについて、許可を出すつもりはないと何度も伝えたはずです」


 詳細を聞かず、琴恵はバッサリと切り捨てる。

 しかし、秋宮はそれに納得できないのだろう。なおも言い募るが、琴恵はまったく取り合うつもりがない様子だ。

 「検討を……」「許可は出せない」そんな二人の問答が続く。

 すると……


「美琴様、それから三沢様と高田様も、こちらへ……」


 突然、葵が美琴たちにこの場を離れるように提案して来た。

 今は琴恵に視線が向いているが、いつこちらに再び矛先が向くか分からない状況だ。美琴は、冷静になった頭ですぐに理解すると葵の後を追ってこの場を立ち去った。









昨日は、ある意味記憶に残るクリスマスでしたね。

日経平均株価が千円ほど落ちるとは……

いつかは二万円を下回るとは思っていましたが、

東京五輪の後を想像していたので驚きました。


証券会社の前は、

クリスマスと言うよりも葬式のようでした……

いったいどれだけの損害を出したのか、

想像するだけで恐ろしいですね。

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