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奇運のファンタジア   作者: みたらし団子
月宮の血統
21/92

第21話 旅は道連れ

誤字報告、ありがとうございます!

非常に助かります!


 次の日の放課後。

 授業が終わると、美琴は自然と集まるクラスメイト達の視線を気にした様子もなく、堂々とした足取りで彩香の席へと向かった。

 満面の笑みを浮かべると……


「と言う訳で、彩香さん、この後一緒にお婆様に会ってくれませんか?」


 単刀直入に言い放つ。

 有無を言わさぬ口調で告げられた一言ではあるが、それよりも何の脈絡もない言葉に彩香は驚くよりも困惑した様子だ。


「は?」


 これには、彩香もどう反応して良いのか分からなかったのだろう。

 教科書やノートを片付ける作業を止めて、「頭、大丈夫?」とでも言いたそうな表情でこちらを見て来る。

 その反応に、美琴はピクリと表情を動かす。

 確かに、いきなり祖母と会って下さい等と言われれば、驚くだろう。しかし、彩香はまた美琴の奇行かというような意味を込めて見て来るのだ。

 心外だと言い返したい衝動に駆られるが、今はそれどころではないと自分に言い聞かせる。


「良かったです、ついてきてくれるのですね」


 返答を待たずして、勝手に話を進めてしまった。

 交渉は相手が冷静さを欠いているときに進める方が、有利に働くものだ。

 このまま言質を取りたいところだが、冷静さを取り戻し始めた彩香は、何か危険を感じたのだろう。

首を振って、聞き返して来た。


「いやいやいや……。何がと言う訳で、美琴のお婆さんに会わなければならないの!」


 至極当然な疑問だろう。

 しかし、美琴にはどうしても彩香を連れて行かないとならない理由がある。


「簡単なことです。お婆様からお呼び出しがかかったのです。ただ、友達も連れて来て良いそうなので、人身御……コホン、彩香さんを紹介しようかと」


「今、人身御供って言おうとしたよね!? 私は身代わりか、何かなの!?」


「冗談です。それでどうですか、一緒に行きません? きっと楽しいですよ……きっと……」


「絶望したような目で言われても説得力はないわよ……」


 聞く耳持たない美琴の態度に、深くため息を吐く彩香。

 すると、不意に背後から声を掛けられた。


「二人とも、どうしたの? 美琴のお婆ちゃんがどうとかって聞こえたけど」


 穂香だ。

 そそくさと授業の片づけを終えると彩香の席に向かった美琴を見て、何の話をしているのか気になったのだろう。


「何か、この後美琴がお婆ちゃんに会う予定があるみたい。それに、私も一緒についてきて欲しいって言うんだけど……」


「けど?」


「なんていうか、嫌な予感しかしないんだよね。美琴の話からして、相当性格に難がある人物みたいなんだよ。そうだよね?」


 言外に、美琴は変人であるからその祖母がまともであるはずがない。

 そう言われたような気がした美琴。釈然としないが、琴恵の性格に相当難があるのも事実であるため、否定はできない。


「いいえ、そんなことはありませんよ。ただ、ちょっと現代の妖怪と呼ばれているくらいですので」


 何と言うこともない一言。

 それくらい普通ですよと言わんばかりの口調に、一瞬だが安堵の息を吐きそうになる彩香。しかし、何かに気づいたのだろう。

「うん?」と声を上げると……


「妖怪って何!? それ、絶対にちょっとじゃないよね!?」


「……騙されませんでしたか」


 やはり騙されなかったかと、残念そうな表情で呟く。


「うわぁ、美琴が黒い。黒いよ、美琴……」


 ドン引きしたように距離を取る彩香。

 しかし、そもそも美琴に彩香を騙すつもりはなかった。普段からお世話になっている人に対して、不義理だと思ったからだ。


(そう言えば、先生のあの言葉どう言う意味だったのでしょうか?)


 ふと思い出すのは、琴恵の言葉。

 

『貴方は貴方よ、美琴』


 琴恵は何を思って言ったのか、美琴には分からない。

 自分は誠であるという意思はしっかりと存在する。しかし、誠であれば普段から恩がある彩香に対してでも、自分の得になることであれば平然と騙すだろう。


 今後も良好な関係を維持するため?

 しかし、美琴の知る彩香であれば、この程度のことであれば多少の文句を言われるだけで関係が悪化するとは考えられない。


 弘人のことで罪悪感を覚えることもそうだが、それは田辺美琴として転生したからだと考えていた。

 今の自分になったことで価値観が変わった、そう思っていたのだが……


(何故、美琴の自我がないのに、価値観や記憶を有しているのか……)


 不思議だった。

 混じり合っているはずなのに、一切の反発がないのだ。当初は、美琴は自分の中で眠っている、もしくは消滅してしまったと考えていた。

 しかし、それはどこか違うと感じている。


 理由は分からないが、琴恵の一言からその疑念は増すばかりだ。

 では、自分は誰なのか。そして、田辺美琴とは誰なのか。答えのない問答を続けることしかできない。


「……と、美琴ってば!」


「っ……何でしょうか?」


 彩香の呼びかけに、先ほどまで泥沼状態だった思考が引き戻される。


「何でしょうかって、急に思いつめた表情をしたから。どうかしたの?」


 心配そうな表情でこちらを見る彩香。

 そして、穂香もどこか心配した様子だ。


(二人が私について知ったらどう思うのでしょうね)


 自分と言う得体の知れない存在が知られることが怖いと感じてしまう。

 それと同時に、負い目から罪悪感を覚えるのだ。慣れることのない胸の痛みを感じながら、嘘の仮面を被ると……


「どうやって、彩香さんを言いくるめようか悩んでいただけですよ」


 そう言って、クスリと笑う。


「なっ!?」


 彩香は言葉を失う。

 すっかり美琴の演技に騙されてしまった、そう思ったのだろう。少しの時間を置いて、「心配して損した」とため息を吐いた。

 すると、先ほどまで黙っていた穂香が割って入る。


「ねぇ、私もついて行っても良い?」


「穂香!?」


 まさか、穂香が興味を示すとは思わなかったのだろう。

 美琴ではなく、彩香が驚きの声を上げる。


「穂香、本気なの? あの美琴の祖母だよ」


「……彩香さん、貴方は私を何だと思っているのですか?」


 常人でないことは、重々承知している。

 だが、普段の生活では普通の女子生徒を心がけているのだ。

 確かに、年ごろの少女の話題について話されても、理解はできない。

 ファッションは、おしゃれよりも機能性重視である。

 株取引や、帳簿作成、魔法式の編集など、中学生らしからぬことをしている自覚もある。

 しかし、それだけで変人認定されるのは遺憾だった。美琴の反論を無視して、彩香は言葉を続けた。


「穂香、良く考えてみて。美琴のお婆ちゃんが、まっとうな人間とは思えない。美琴が妖怪だとか言う人物だよ。それでも、行きたいの?」


 物凄く、失礼な言い草だった。


「うん、何か面白そう」


「面白そうって……」


 普段であれば、「家に帰って寝る」か「ゲーム」と言って早く帰ってしまうのに、今日に限っては、珍しく積極的である。

 決意は固いようで、困惑気味の彩香は美琴に視線を向けて来た。


「けど、美琴の方は大丈夫なの?」


 突然、穂香が訪れても迷惑にならないか。

 確かに、予定にない来訪は迷惑だろう。しかし、これは琴恵にとって想定内であるため問題はない。

 大丈夫だと首を縦に振った。


「それなら大丈夫です。お友達・・・を連れてきなさいと言われただけですから」


「お友達を?」


「ええ、お友達を」


 怪訝そうな表情を浮かべる彩香。

 美琴の言い方に違和感を覚えたのだろう。実際は、『お友達』ではなく『魔素操作に長けたクラスメイト』を連れて来いと言われたのだ。


 この場合、彩香か穂香のことだろう。

 何らかの思惑があるのは明確だ。

 とは言え、琴恵の性格からして悪いことにはならないだろう。面倒ごとを押し付けられる可能性は高いが。


 騙しているようで悪いが、琴恵に逆らう勇気は美琴にはなかった。

 しばらく視線を交差させ続けると、彩香が大きく息を吐く。


「分かったわ、私もついて行くよ」


「本当ですか、それは助かります! ただ、誘っておいてなんですが、理由を聞かないのですか?」


「おそらく、美琴は連れて行く理由を知らないんじゃないの? 普段の美琴なら、しっかりと理由を話してから誘うはずだし」


 「そうでしょう」と視線で同意を求められたので、美琴は肩を竦める。


「理由を知っていれば、その方が誘いやすいですしね。……それでは、彩香さん、穂香さんも学校前まで迎えが来ているようなので、行きましょう」


 美琴の一言に、二人は頷き返すのであった。









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