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五話 降り掛かる悪夢

盛り上がって行かせます。

 私は1時間の暇を、ぶらり歩きまわりで消費した。

 敵城視察、とかいうやつだ。


 寺石が、生徒の状況を見守るといったからって、全員を見守ることはできないはず、だから私は助力の意も込めて、歩き回ることを決めたのである。


「とは言っても、あの子達どこにいるのかな」


 先生らしい言葉を言ってみる。夢だったのだ。こうして、先生のように振る舞うのは。上手にできているかは分からないが、これでいいのだ。


「あっ、先生じゃん。お〜い!」


 とどこからか私を呼ぶ声がする。振り返ってみれば、そこには無邪気な少年―――佐藤相馬が立っていた。相変わらず、輝くような笑顔で振舞っている。


「ここ、やばいな!物語の中に入ったみたいだぜ!」


 その反応に私は苛立ち共に、懐かしさを抱いていた。私たちもそんな感想を言い合っていた。


 まるでファンタジー映画だ。漫画みたいだ。お姫様とかいるのかな。


 そんな今になってはどうでもいいような会話をしていた。そうして、失敗していった。


 そんな記憶と同時に、佐藤くんの体はドロドロに溶けて消え、次の瞬間虚ろな目をしてたった佐藤くんがこっちに向かって来ていた。


「ちょい。先生!……大丈夫?」


 私は佐藤くんに昔の私たちの影を重ねていたのだ。見てみれば佐藤くんには外傷の一つもない。今でもピンピンとしていた。


「こんな経験絶対ないんだ。楽しんだもん勝ちだ!そうだろう先生!」


 なんだか、複雑な心境だ。先生としてはこの子のことを尊重するべきなんだろうけど、五年前の惨劇を知っている私としては、正直、怒鳴りたい。


 と、私が脳内で葛藤している最中。


「で、先生は何してんの」

「えっ、私?……ちょっとした散歩だよ。ちょっと気が動転しちゃってね」

「ほほう。先生ですらも気が動転する中、俺は落ち着いている。おおー!これはもしや、俺が主人公なのでは!」


 ある意味一番落ち着いてないのは佐藤くんなんだけどな、と私は心の中でつぶやく。わっはっは、と高笑いをあげて、佐藤くんは去っていった。


 と、思いきや、いきなりUターンしてきて私の目の前まで迫って来た。私は反射的に迎撃準備に入った。


 なぜなら、その形相が真顔だったからだ。だが、私の目の前に来ても、佐藤くんは動かない。


 な、なんだ。


「先生、この近くで、渡辺と三森見ませんでしたか」

「えっ?どうしたの。もしかして行方不明?」

「はい………どこいったのかまるで検討つかなくて」


 まさか、敵がここまで迫っていたとは。今夜に仕掛けるんじゃなかったのか。


 やられた。あれはフェイクもしかして、私が聞いていることがバレていた?


 そんなバカな。ちゃんと気配も消していたはず。


「あいつら、どこに隠れやがったんだ」


 へっ?隠れた?消えた、じゃなくて?


「佐藤くんもう一度聞いていい?」

「はい、どうぞ」


 私はゆっくりと息を吸い込み、にこやかな笑顔で問いかけた。


「渡辺くんたちは何者かに()()()()()()の」

「いえいえ、俺たちで城内かくれんぼしてるだけですから」


 ややこしいわ!まず、なんなの!城内かくれんぼって!


「いや、そのこんな経験滅多にできないな、と思ったので」

「あ、そう」


 そんなやつ五年前の私たちの中にもいなかったのに。まず、滅多にできない経験しているのにかくれんぼってなんだ。もっとあるでしょ。剣を持ってみたい、とか。魔法を使ってみたい、とか。


 もしかして、こいつ馬鹿?


「かくれんぼするのはいいけど程々にね」

「は、はい」


 そうして、私と佐藤くんは今度こそお別れした。



 だが、私の敵城視察は終わらない。私はそこらかしこを歩き回っていた。もちろん生徒たちの状態を見るために。


 生徒たちは本当に自由気ままに動いていた。走り回ったり、兵士たちとお話ししたり。


 そして周りを見渡した時に気づいたのだ。中庭の中で、一際目立つ集団があることに。なんとなく察しはついたが、私は近づいてみることにした。


「あっ。先生、こんにちは」

「こんにちは」


 その生徒の集団の中の一人、そして中心人物でもある少女―――九重渚が私に挨拶をした。もちろん、それに返事したのも私だ。


「こんにちは」


 と他の生徒たちからも、まばらに挨拶が上がって来た。


「えっと。調子はどうですか」


 特に話す内容を決めてこなかった私が出した言葉はこれであった。


「はい、みんないい感じです」


 答えたのは九重さんだった。もちろんといえばもちろんのことだが。


「渚ちゃんすごいんですよ、先生」


 生徒の中の一人、吉田さんは腕を立ててそんなことを言ってきた。見れば他の生徒たちも「うんうん」と主張するように、首肯している。


「いや、そんなことないって」


 と当の本人はそう否定しているが、周りは「いやいや、すごいから」「ほんとにすごいから」と九重さんを持ち上げている。


「私たちが落ち込んでいるところに九重さんが来てくれて、私たちを励ましてくれたんです」

「自分もこんな状況を飲み込めてないはずなのに、私たちの方へ来てくれたんです」


 と、思い思いに九重さんの話をしてくる。実際、私も九重さんはすごいと思う。こんな状況の中で、こんなにうまく馴染めるだなんて。


「私たちがここで生き残るためには、みんなで協力しないといけないと思ったんです。だから一人でも多くの人に立ち直って欲しくて」

「「「な、渚ちゃん」」」


 みんなは涙目になって渚を眺めている。


「それにね。私がここに馴染めたのもわけがあるんだよ」

「え、なに?」


 と、私は聞き返していた。純粋に興味を持ったのだ。


「ここの人って優しいんだなって気づいて」

「へぇ〜」


 私は内心、とても焦っていた。ここまで、敵の魔の手が侵食していたとは思わなかったからだ。


「じゃ、じゃあ、私たちはこれで」


 私はその場を去った。ほかに、絡まれている生徒はいないかを確認するために。



 ぐるっと回り、一階のところまで帰って来たが、そこまでひどい現場は見えなかった。というか一度も寺石に合わなかったんだが、ちゃんとを仕事しているのだろうか。


 そうして、私は地下への階段を降りていった。


「ここには誰もいない、かな」

「あら、先生」


 と、召喚場所を覗き込んだ時に見つけたのは黒髪を腰付近まで伸ばした背の高い少女―――相田美琴だった。


 ていうか、本当にここから動かなかったのね、相田さん。


「どうしたんですか、こんなとこに」


 相田さんは私にそんな質問をして来た。なんといく、そっくりそのまま質問を返したい。


「相田さんこそ、どうしたの」

「いや、別に私は。動くのが嫌だったので」

「でも、こんな異世界で一人で行動は危ないんじゃないのかな」

「みんなで仲良く行動するよりかは、一人で行動した方が、ましだと思います。みんなグズだから」


 相田さんそんな言葉を吐き出していた。おとなしい子だと思っていたら、こんなにもよく喋る子だとは思わなかった。


「パーティーはあと30分ぐらいだと思うけど」

「気がむいたら、ね」


 あまり会話せずに離れてしまった。が、大丈夫だろう。見た感じ、誰もこの近くにはいなかったし、気配もしなかった。


 ここにいた方が安全なのかもしれない、と心の片隅で思い始めていた。


 よし、あと30分。どう時間をすごそう。


 ♦︎


「パーティー、か」


 嫌な思い出だ。こういうパーティーは私たちの時にもあった。つまり五年前にもやったのだ。しかし、あの時、食べた料理には精神干渉、記憶操作の薬が入っていたのだ。


 ただし、それを食べなかったもの。それを少量しか食べなかったもの。それらは異常をきたすことがなかった。


 しかし、がっつりと料理を食べたものは記憶を書き換えられ、国のために闘う人形とかしてしまった。結果、私たちは仲間割れを起こしてしまった。


 だが、今回も同じ手を喰らうわけにはいかない。


 あらかじめ薬か何かが入ってないか調べておいたのだ。[光]魔法の、力で。対象の状態を調べることができる魔法『光目(こうもく)』だ。


 あちらの世界で言えば、スキャニングが近いかもしれない。


 まぁ、とにかく私はそれで今回の食べ物にはなにも入ってないことを確かめていた。だから、今回は大丈夫だろう。


「勇者諸君、此度は我らが世界『アルデリア』に来ていただきありがたく思う。それでは、ささやかではあるが、宴を執り行いたいと思う。では、皆の者グラスを掲げよ」


 そして、王は一拍置いて。


「乾杯!」

「「「「乾杯」」」」


 その場にいた全員が同時にグラスを天に掲げ、その言葉を口にした。


 宴は始まった。シャンデリアが天井に何個も取り付けられ、高級そうな赤いカーペットが敷かれた、室内で。


 踊り子は舞台に上がりその芸を披露している。周りを見ても、美女ばかりいた。


 当然、男の子たちは鼻の下を伸ばしっきり。まあ、いいか。今ぐらい夢を見させても。


 私は基本アルコールは飲まない。苦手なのだ。大学で飲まされた時は本当に死ぬかと思った。まぁ、私には回復魔法があるから、それでどうにかすることもできたのだが。


「食べ物は食べないんですか、先生」


 含みのある言い方。この人を見下したかのような声音。一瞬で声の主が誰かが分かった。


「どうしたの、寺石。情報共有はまた後でしょ」

「だから、そのことで。僕は特になにもなかったとだけ先に伝えておこうと思いまして」

「なっ!?」

「まぁ、1日目ですからね。動くならもっと後でしょうから。これ以上はあんまり話してられません。では」


 そうして、寺石は去っていった。


 寺石はああ言っていたが、悠長している暇は無い。


 なんせ、今夜彼らは動こうとしているのだから。


 その後も、宴は続いた。食べ、飲み、踊り、歌い、宴は続いていった。


 そして、もう佳境もすぎ、終わろうとしていた時。


「では、最終演目といたす」


 辺りに沈黙が走る。


「勇者諸君はこの宝玉に手をかけてくれ。これは属性魔法を知るための魔法道具だ」


 なっ??そんなこと五年前にはなかったぞ。まさか、これが今日動くといったやつなのか。


 寺石はアイコンタクトをして来た。だいたい言いたいことは分かる。


『どうにかしてください』


 まあ、そんなところだろう。


 分かった。私がなんとかする。


 未だ戸惑っている生徒の中を私は縫って進む。


 そして、声をあげた。


「はい。わかりました」


 一番手を切って、私は宝玉に手をかざす――――ふりをする。


「(光よ、その聖なる力を持って対象を探索せよ)」


 私は、小声でそんな呪文を唱える。料理にも使ったあの魔法だ。


 その結果は、異常なしだった。


「そんなっ!」

「どうなされた」


 王が横から何かを言ってきた。


 何もない、なんて。私は複数回『光目』を宝玉にかける。しかし、結果は皆同じだった。


『異常なし』


 仕方なく、私はその宝玉に手をかざした。そうすれば宝玉は白色の光放った。


「おう!」


 会場からざわめきが聞こえる。


「これは…[光]魔法じゃな」


 王がそう言えば、上位家族からさらにどよめきが走った。


 [光]、そして[闇]魔法は希少価値が高いのだ。だから、こんなにも、あやふたとしているんだろう。


 そうして、私は舞台から降りていった。


 寺石は何か言いたげな表情だったが、そこでは口を開けようとはしなかった。


 属性魔法の催しは続き、寺石はやはり緑色の光を放ち、[風]ということがわかった。



 パーティーが終わり、今はみんなが思い思いに話し合ってる状態。


 そんなところで寺石は中庭に来るように私を促した。終わった瞬間、私たちはすぐに外へ出た。


 中庭とはいっても、隅の方の人気が少ない場所だ。


「寺石、あれは」

「分かっています。どうせ、なにも()()()()()()()()んでしょ」


 その言葉は私の胸に刺さる。いや、だから本当になかったのだ、と私は反論しようとした。だが、突如として私の胸に『本当になかったのか?見落としているだけじゃないのか』と疑念が走る。


「まぁ、あったならばお手上げです。あなたの[光]魔法には対象の状態を見ることができる魔法があるようですから。そこまでは責めませんが」


 と、そんなこと話してる場合じゃない。


「今夜、何かが起こる」

「聞かせてください」


 寺石はそのあまり動かない表情を一瞬ピクリと動かし、私の話を聞き始めた。



「そうですか。たしかに嫌な予感がしますね」

「私は今夜は一晩中おきて索敵をする。寺石は―――」

「僕はもしものときのため生徒たちを見張っとけばいいんですね」

「………そ、そうだよー」


 この男、私が言おうとしたことを掻っ攫って行きやがった。かっこよく決めようと思ったのに。


「わかりました。では、早速準備を始めましょう」


 そう寺石が言うと、私たちはお互いにうなずき合いその場を去っていった。



「近づいてくる、奴は………いないか」


 私は私たちが寝泊まりする部屋の外の廊下で索敵を行なっていた。


 私が無数に仕掛けて魔法の鏡私はそれを介して、この辺一帯を全て監視しているのだ。


 今のところ誰も来ていない。おそらく、今夜私たちが寝てる時に何かを仕掛けるのだろう。


 もしかしたら、索敵していない抜け道のようなところがあって、そこから襲撃してくるかもしれないが、その時は寺石が大声を上げ、それを風に乗せていち早く私に届く手はずになっている。


 だから、私はこの索敵に集中していた。誰も映らない。


 "カツッ"


 そんな音が壁を反響していた。どこ、からだ。この音はどこから聞こえて来た。


 "カツッカツッ"


 そのあとは止まない。その足音は止まない。一体どこから発されてるんだ。


 耳には確かに聞こえるのに、目には見えない。


 誰だ、どこだ。恐怖が染み付いていく。


 そんな瞬間、


「先生!危ない!」


 寺石の声が聞こえた、それもやけに焦っている様子の。その足音はさらに聞こえる。


「後ろッ!」


 私は咄嗟に地を蹴り、振るわれた剣を避けていた。抜け道のようなものがあったのか。はやく目の前のこいつを倒して、中に入らないと。


 私は一気に間合いを詰めた。『精花(せいか)』。[光]魔法の一種だ。肉体を強化するのではなく、精神に勇気を奮い立たせる魔法だ。その魔法の効力により、体から恐怖が抜け去り、自然と動けるようになったのだ。


 そうして、私はさらなる魔法を放とうとする


 ――――――が。


「なっ?!そんな。ばかなっ!?」


 暗くてよく見えなかった。だが、ここまで近づけばよくわかる。敵襲の身なりが明瞭と見えた。


 敵襲の後ろには逃走しようとしている寺石くんと数人。


 佐藤くんと、相田さんと、九重さん。


 助けたい。だが、私の目の前には敵がいた。いや、敵なのか?


 分からない。


 なんで、どうして、あなたが剣を持ってるの。


 吉田さん!


 そこには、昼、九重さんと笑顔で仲良く話していた吉田さんの姿があった。


 その目が捉えるのは虚。思考を放棄したかのような挙動に、私は背中が冷えていくのを感じた。


 これじゃあ、まるで。


 五年前、意識を乗っ取られた、私のクラスメートのようじゃないか。


 私の脳裏に五年前がよぎって行く。しかし、どの記憶、どの断片も、地獄で満たされている。


 そんな、また、騙された。


 …………負けた。


「裏切り者」


 そんな言葉を吉田さんの体は言う。いや、実際は言っていない。だが、そんな言葉を言ったような錯覚を私が起こしたのだ。私が勝手に彼らの姿見と吉田さんの体を重ねてしまったのだ。


 一体、いつだ。いつ精神干渉されたんだ。


 ♦︎


 騒がしい、と青年は感じていた。


「まさか、もう始まったのか」


 それを悟った青年は即座に白の方へと向かっていった。


 もう二度と、失敗しない。


 そんな幻想を胸に抱いて。

ご覧いただきありがとうございました。

よろしければ

『壊れた勇者は恋をしたくない』も

よろしくお願いいたします。

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