表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/14

四話 隔てた扉の向こうと完全なるハッピーエンド

少なめです。

 そうして、私は調査を開始した。範囲はこの四階から上―――私たちが見ることのできない領域だ。

 あの大きな図書館から出て、その廊下を歩いて行く。もちろん、不可視化の魔法を自分にかけて、だ。


(さて、と。まずどこから、探しに行こうかな)


 とにかく、私はそのフロアに存在している部屋全てに足を運んだ。その中にはまだ作業中の人や、休憩中の人などが入っていたが、不可視化の魔法にかかれば、そんなこと関係なかった。


 しかし、そこにあったのはやはり腐りきったものばかりだった。


 そこでは魔物の解剖実験をしていた。

 そこでは改竄される前の歴史書が存在していた。

 そこでは拷問部屋が設置されていた。

 そこでは違法な薬が製造されていた。


 腐敗した現実が、私の眼を襲って来た。こんなものが、隠れていたのを五年前の私たちは見抜けなかった。


 身の毛もよだつ、こんな残酷な現実を、だ。


 でも、今回は違う。絶対に思う通りにはさせない。


 私はそのことを胸に、前へと進んでいった。


 そして、四階フロアをあらかた巡回し周り、めぼしい情報がなかったのを知ると、その上―――五階へと足を進めた。


 そして、その階段を静かに上がり、最上階へとたどりついた。


 私はその廊下を足音一つたてずに、進んで行く。


 そうして、一つ一つの部屋へと回って行く。だが、そこにあったのは、上位貴族の寝室や、非常に高価そうな美術品など、私にとってはどうでもいいものだった。


 何か、ないのか。ここには今回の作戦が書かれてる書類は存在しないのか。


 そういう不安と焦燥にかられ、私の足音の間はどんどん狭まって行く。早歩きでその長い廊下を駆け抜ける。


 どんな些細な情報でもいい。どうか、神様!


「して、今回の作戦はどうだい」

「はっ!まだ、初期段階ですので、なんともいえません」


 一人は王だ。今日のあの召喚場所での会話から、声は覚えていた。もう一人は、誰だ。わからない。が、これはかなり重要な情報かもしれない。


 私はそう考え、両開きのドアを隔てている向こうの会話に聞き耳を立てた。右側のドアに寄り添って。


「なんとも、ではない!必ず成功させよ!」

「まぁまぁ、王よ。そこまで、感化なさるな。大丈夫です。このラクイルツェ、必ずや成功させてみせます」


 誰、だ。王以外の面子がわからない上に、第三者まで現れてしまった。しかし、このラクイルツェ、王に対し、あの態度が許されるほどの上位貴族のものなのか。


 まあ、私にとってそこはどうでもいいのだが。


「まあ、ラクイルツェがそこまで言うのなら、大丈夫だろう」


 そして、王がそこまで信用している人物。私にはその正体がわからなかった。だが、この会話はなかなか機密度の高い会話らしい。


 これを聞いていれば、あるいは。


「で、王よ。この作戦が成功したあかつきには、分かっておりますか」

「ああ、もちろんだ」


 何なんだ。この会話は何かがおかしい。何故だかはわからない、だが気持ち悪い。


「で、だ。これからどういう動きなのだ」


 王はそうそこにいる二人に問いかけた。


「あぁ、まぁ今夜で何か一手を打とうかと思っています。だな、リース」


 と、ラクイルツェ。それにつられリースと呼ばれた、三人の中のもう一人は答える。


「はい、そうでございます」

「今夜、か」


 王は何か深く考えるような雰囲気で、大きなため息を吐き出した。


「どうなされましたか王よ」

「どうしたんですか」


 順に、ラクイルツェ、リースが王に尋ねた。


「いや、今夜のパーティー代、結構したんだ」


 やばい。なんとも言いづらい。いや、敵からすればザマァみろってところなのだが。なんだろうか。もはや哀れに思えてくるのだ。


「はぁ、あの肉、なかなかするんだよな」


 いや、知らないよ!だったらするなよ!と私は軽く心の中で突っ込む。知らなくていい情報も知ってしまった。


 だが、得た情報だってある。


「とにかく、今夜動かさせていただきます」


 そうだ。つまり、今夜。今夜、何かアクションを起こすということだ。


 これは中々大きい情報だ。中ではまだ何か会話をしているが、これ以上、下にいなければ逆に怪しまれてしまう可能性だってある。だから、私は早速この情報を持ち帰ろう。


 と、その場所を引こうとした、瞬間。


 "ガタン"


 と、急に両扉のうち、私が聞き耳を立てていなかった方、つまりは左側の扉が開いた。


 え?一瞬私は状況を理解できなかった。


「どうしたんだい、リース」

「いえ、何か動くような気配がいたしましたので」

「そうか。…………で何かいたか」

「いえ、私の杞憂だったようです」


 そうして、その剣をぶら捧げる鎧に包まれた男は、扉を閉めた。


 なん、だったんだ?私はなにも物音を立てなかったはずだぞ。

 なぜ、バレたんだ?


 その前に扉を隔ててるとはいえ、私はなぜあいつの気配を察知出来なかったのか?


 わからない。わからないが、私は身の危険感じ、すぐさま下のフロアへと降りていった。


 今回の偵察でわかったことは一つ。


 今夜、何かが起こるということ。私はこのことを寺石に話し、パーティーの後どう対処するかを話し合おうと決めた。


 パーティーまで後1時間弱。


 さて、何をして暇を潰そうか。


 ♦︎


 青年は懐かしい記憶を思い出していた。


 ある少女との出会い、ある人との出会い。そして、クラスメートとの再会。


 思い返せば、幾度となく人との出会いがあった。


 青年は思う。


 出会いとは別れを呼ぶものだ、と。


 人は、生物は寿命というものをあらかじめ持って生まれてくる。つまり、死と隣り合わせで生まれ、そして生きていくのだ。


 だから、出会いがあれば必ず、別れがある。


 少し前の僕はそんなこともわからなかったのか、と。


 青年は自嘲する。そうするしか、平常心を保つ方法を思いつかなかったのだ。


 でも、そんな狂った運命でも、僕は一度曲げることができた。確かに完璧なハッピーエンドじゃなかった。


 でも、確かに、絶望を一縷の希望へと変えたんだ。


 今度こそ、完全なるハッピーエンドを求めて。


 僕はこの道を歩いて行く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ