三話 じゃあ、パーティーの後に
誤字脱字があればご報告していただけるとありがたいです。
私たちは五年前、この世界に一度来ていた。
その時は状況をうまく飲み込めなくて、全員が不安に満ちた顔をしていた。
その時、この国の王様は優しく私たちを、迎えてくれた。
それに私たちは完全に騙され、魔王を殺すことが善と考えていた。
だが、結果はどうだ?
確かに、魔王は殺された。でも、でも、殺されるようなことをしたか?
そうだ、そいつは何もしてなかった。
ただ、能天気に、そして必至に今を生きていただけだ。
なんの罪もない者が殺された。
そこから、なにかが崩れ始めたのだ。いや、もとから歯車は狂っていたのだ。
少年は魔王の死を嘆き悲しんだ。何度もその骸を揺さぶり、語りかけ、抱きしめた。
そんは彼を彼らは嘲笑う。
無様だ、と嘲笑する。冷笑する。
少年は荒れ狂った。そして、その魔王を殺した王国に単独で攻めいった。私はそれが当然の感情だということを理解できた。
でも、できなかった人たちがいた。
そいつらは最後まで王国に味方し、結果脳に何かを埋め込まれ、戦闘人形に成り果ててしまった。
王国の上位貴族たちはほぼ全滅した。そのたった一人の少年に滅ぼされた。
それをみた人たちは彼をこう呼んだだろう。
『魔王』と。しかし、王は最後に抗った。
戦闘人形―――かつての少年の旧友たちをその少年へと攻撃させた。
心優しき少年は迷う。どうすれば、どうすれば。
全てを知った私たちは少年に加勢した。そして、勇者対勇者の大規模な大戦が勃発する。
少年は最後まで諦めなかった。ハッピーエンドを望み続けた。
だが、運命は少年にとことん残酷だった。
そして、少年は一人この地に残り、私たちをみおくった。
♦︎
「ほう、それはなかなか面白いことを考えてますね」
それから、私は寺石に私の知っている情報の一部を話した。そして、これから始めようとしている計画の概要も。
「ですが、それを終えた後は、何か行く宛があるのですか?」
「もちろん」
私は即答した。これには寺石も意外といった様子だった。
「これを終えたら、おそらく戦いは避けられない。だから逃げる」
「だから、どこへと聞いてるんです」
私はあまりこの話をしたくないのだが、協力者に隠し事をして、疑われでもすれば、そっちの方が、痛手になる。
かくして、私は言うことを決意した。
「私の友達のところに」
だが、寺石は言葉の意味をよく飲み込めてないようで、首を傾げている。
「私たちが帰れたのはある人のおかげなの。その人に会いに行く」
「へぇ………まぁ、どうでもいいですけど」
「で、寺石………くんはどんなことを強力してくれるの?」
「呼びやすい方でどうぞ」
「じゃあ、寺石はどう協力してくれるの」
私はそう言う。寺石はもうこの覇気には慣れたようで、平然としている。
「内部偵察………とかどうでしょうか」
寺石は意外にも、自分から提案してきた。
「それは、どういう」
「だから、クラス内の動きを見張っておくんですよ」
「それに、なんのメリットが」
寺石は呆れたように首を振る。
「王国は五年前のことでおそらく勇者を警戒している。だから、何らかのアクションを生徒に対して行うはず」
「え、どうして」
私は寺石に聞き返していた。
「なんでわからないの」
寺石はため息を吹き、改めて説明を再開した。
「つまり、勇者を手中に収めるために何人かの生徒には絶対、鎖を繋ぐんだよ。ちなみに言うけど、ここでいう鎖は比喩的な意味で使ったからな」
私でも、そのくらいは分かるわ!と叫びたくなった。だが、ここまで考えた寺石に私が何か言えるはずもなくあえなく撃沈した。
「なるほど、じゃあそっちは寺石にまかせる」
「あなたはなにをするんです?」
「私?………私はこのフロアで今回、あいつらが何をしようとしているのかを探ってみる」
「なるほど、分かりました」
そうして、話し終え、私はその図書館から出て行こうとドアノブに手をかけた。
が、そこで寺石が私を呼び止めた。
「今日、パーティーが終わって30分後、情報を共有しましょう」
「ていうか、寺石はなんで私の手助けをしてくれてるの」
目の前の少年ははっきりと言う。
「僕、騙されることより、騙す方が好きなんですよね」
私は思わず笑いだす。体をひくつかせて、肩を激しく上下させて
「ふふっ」
「何、笑ってるんですか」
「だ、だって、あまりにもドヤ顔で言うんだもん」
「な、な、あんた」
何か言いたそうな寺石の上から言葉を被せて、私は言った。
「じゃあ、パーティーの後に」
まだ、何か言いたそうな少年を置いて、私は情報を集めに出発した。
♦︎
「久しぶりだな」
青年は幾多の魔獣との戦闘を終え、森を抜けていた。そこにあったのは言うならば、城下町。
中央通りの側面には商店街のように様々な店舗が立ち並んでいる。そして、その街を囲うように壁が張り巡らされている。
青年はそんな街を懐かしんでいた。そして、裾を引っ張られるかのように、その城門の方へと進んでいった。
「あ、あんた!大丈夫かい!」
青年の姿に気づいた門番の兵士が言い寄って来た。
「そんな血まみれで………魔獣にでもやられたのかい」
そうなのだ。青年の服は血にまみれていたのだ。だが、これに含まれる自分の血の量は1割に満たない。
そのほとんどが、魔獣が浴びせた血だったのだ。
そんなことはいざ知らず、兵士は青年を促した。
「さ、さぁ、早く入って。中で看病させてもらいなさい」
門が開き、その中に青年―――史上最強の勇者が足を踏み入れた。
そう、五年前この国の民から『魔王』と呼ばれ蔑まれた男が、帰って来たのだ。
やっと書き終えた。
今日二作品投稿してます。
『壊れた勇者は恋をしたくない』の方もよろしくお願いします。