二話 協力者(2)
青年サイド書くのを忘れていたので、こちらもあげさせていただきます。
申し訳わけございませんでした。
青年は古びた建造物から姿を現した。
黒のローブを着用して、山の中を歩いて進む。
鬱蒼とした茂みの中、枝を手で押し退け、草をかき分けて進んで行く。
ふと、風が吹いた。"ボワッ"とこの木々の隙間を縫って風が駆けた。
木の葉が舞う。枯れ枝が舞う。草が踊る。
そして、風は止む。木の葉を、草を、枯れ枝を揺らし、音を弾ませていた風が止む。それと同時に、空間に静寂が響き渡った。
が、その静寂はものの容易く打ち破られた。
前方、草が一層丈を伸ばしているエリア。そこに何かを感じる。
青年の目にはそう写る。
青年の耳はそう捉える。
常人を遥かに超越する、その目と耳と、体全体。
誰もが欲しがる、絶対的な才能。
魔力を視認し、耳で索敵し、その身体能力は魔法で強化されたそれと同等以上。
そんな、チートじみている桁外れな、体。
しかしそれは呪いだ。呪縛だ。
才能とはあくまで先天的なものだ。
だが、彼は違う。植えつけられたもの。後天的なものなのだ。
内臓を抉り出された。筋肉に、骨に、魔法刻印を刻まれた。目に刻まれた。
そうして作られた戦闘人形。それが彼なのだ。
予想通り、その茂みから黒い姿見が出現した。その姿はまさしく猛獣。だが、通常の獣と違いがあるとすれば、魔法を使い、自分の身体能力を底上げしているところだろうか。
「グアアァァァァァァアアアアアッ!」
四足歩行の魔獣は吠えながら、空中に飛び上がり彼に迫っていった。その強靭な牙を持って噛みちぎろうと彼に攻め入った。
だが、彼は冷静。そして、その表情は悲哀に満ちている。
「うっ!」
青年はサイドステップでその攻撃を避ける。魔獣の着地であたりには砂塵が舞い上がった。間髪入れずその魔獣は彼に飛びかかる。
その二つの影は幾重にも交差する。
一方的に攻撃を繰り返されている青年は、しかし反撃の素振りを見せない。
「うっ!」
だが、それが油断を作った。エッジがかかった鋭敏な爪が青年の体に迫っていたのだ。
それを青年は受ける。その爪は浅く、背を切り裂き、少量の血をまき散らした。
「まだ、だ」
青年は呟く。
「まだ、終わってない。死ぬわけにはいかない」
死ぬのは全く怖くない。だが、まだ死ぬことができない。
なぜなら、次こそは間違えないようにするため。
少年少女を救い出すため。
まだ、終われない。
青年は、意を決する。
「ごめん………サティア」
消え入りそうな声で、誰かの名前をつぶやいた。だが、その声は届かぬ声で。
「闇よ、喰らいつけ」
右拳に宿った漆黒のオーラをその魔獣へ向けて、振り抜いた。
「ギャァァァアァァアアアアアアァァァァァァ!」
魔獣の体は欠損していた。ちょうどその拳が振り抜かれた箇所が。
「いつまでも……いじけてられない」
ひとりでに青年は呟く。
「絶対に次こそは」
もう、容赦はできない。魔獣に対しても、人間に対しても。
邪魔するものは殺すしかない。
その考えを必死に脳裏に埋め込む。もう殺したくない。なにも誰も殺したくない。そう嘆いている心の上に被せるように。
もう、やるしかない…………んだ。
今、史上最強の勇者が再誕した。