一話 ある者の決意
今回は、というか、このシリーズは全体的に短めにします。
そうしないと別シリーズ『壊れた勇者は恋をしたくない』と両立できないな、と思ったからです。
ご了承ください。
私は五年前この異世界へと召喚された。
だから、知っている。奴らがどういうことをするかを。奴らがどういう思考をしているかを。
憎悪が走る。嫌悪が走る。怒気が唸る。
虫唾が走る。
こいつらの声を聞くだけで、顔を見るだけで、目を合わせるだけで、その感情は増長していく。
こいつは今、笑っている。
私の担当の生徒たちに優しく話しかけ、笑い合っている。
詳しく状況を説明し、生徒たちが怖がらないようにと必死に笑っている。
でも、私には見える。
こいつは今、冷徹に、嘲り、密かに、嗤っている。
騙された。私たちは騙された。見破れなかった。そして、破滅した。破綻した。崩壊した。
絶望した。
でも、今は違う。私がいる。全てを知った私がいる。五年前、私は無力で何もできなかった。ただ、誰かの後ろで状況を見守って、恐怖に肩を震わせながら、涙することしかできなかった。
でも、今度こそ、今度こそ。
私は、私の殻を破って、生まれ変わって、この子たちを守り抜く。かつて彼が私たちのために戦ったように。
次は私の番だ。
私は決意を決める。この胸の内に秘めた決意に誓って、最後まで戦い抜く。
絶対に諦めない。
私はそう誓う。
♦︎
「なぜ、僕たちを召喚したんですか?」
メガネをかけ、クールな雰囲気をまとった少年ーーーー寺石義晴は物怖じせず王に問いかけた。
「君たちには自覚がないかもしれないが、君たちの世界の住人は平均的に魔法適応力が高いんだよ」
それの虚実は分からない。が、何かを偽っているような気がしてならない。疑心暗鬼になりすぎているのか。
まぁ、それでも別に構わない。こいつらを疑うに越したことはないだろう。
私はさらに警戒の色を強めていた。
「にしても、魔王討伐かぁ。俺たちすごいもんな選ばれたな」
どこからか聞こえた声。生徒たちの方からだ。私はそれを聞くたびに、なんの非もない生徒たちに苛立ちを覚えていた。
何も知らないくせに。このことを知れば、もう後戻りできないのに。いっそのこと、あの地獄に行って後悔すればいいのに。
そうやって邪念が広がっていくのが感じられた。
私がそう頭の中が騒然としている時も王の話は続いた。
だが、その話の半分も頭に入ってこなかった。
王はーーーアルデリア王は話の締めとも言わん風にこう口走った。
「君たちの装備品や、部屋、資金などはあらかじめ用意してあるから、安心してくれたまえ」
そうして、玉座から身を持ち上げ、扉の方へと向かう。その歩行中、ひらひらと揺れるマントは赤を基調として、金でアルデリアの国旗が描かれている特注品だった。
ふと、何かを思い出したかのように立ち止まると。
「あ、そうそう。君たちのために、ささやかながらパーティーの準備をしてある。パーティーは3時間後に予定してあるから、それまでは城内を好きに回ってくれても構わないよ」
そう言い終えると、両開きの扉を勢いよく開け、その先へと進んで行った。
「なんかいきなりだったな」
生徒たちは最初こそ唖然としていたものの、もう順応したらしく思い思いに話し始めている。
「みんな!」
そんな中、私は口を開いた。
「みんな多分疲れてると思うから、しんどい人は今から休んで。その他の人はあい………あの王様が言っていた風に、城内を回ってみたらどうかな」
危ない危ない。危うく王様のことをあいつ呼ばわりするとこだった。
今ここで、正体を悟られては後々めんどくさくなる。
ここはひとまずみんなの好きな風に行動させて、私が有利に動けるようにしとかないと。
「じゃあ、一旦解散」
そうして、私は生徒たちを見送った後、行動を開始した。
♦︎
「これは、いる」
薄暗い廃墟で青年は身形を整えている。荷物を揃えている。
「次こそは絶対にうまくやる」
青年の目はなにかの決意に満ち溢れていて、また恐怖にも苛まれていた。
また、何かを失ってしまうかも知れない。
失うのが怖い。とてつもなく怖い。
でも、それでも。
青年は立ち上がる。そして、足をその方向へと進める。
その目には確かに恐怖がある。けれど、その恐怖は常人の恐怖とは何かが違う。それが何かはわからない。でも、決定的な何かが違うのだ。
その正体を掴めぬまま、青年は足を踏み入れる。
新たなる戦地へ、死地へと赴く。
死ぬことへの恐怖を持っていないことを知らずに。
この物語は書き溜めも何もない、本当に行き当たりばったりの作品なので、細かい矛盾が生じてしまうかも知れません。
そこは本当にすいません。