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それから僕は、夢売りに連絡しては夢を見た。
昨日は薫の夢を見たのに、今日は別の夢。
何故かボブ・サップが4人いて、僕を囲んで歌ってる夢だった。
起きた時の倦怠感が昨日の5倍程だった気がする。
そして次の日は、自分が風船に括りつけられて空を飛んでいる話。
夢の国の黄色い熊を連想させた。
2日連続で夢を外すなんて…
僕は何をしているんだろうか。
2週間分の寿命を使って見た夢がひどすぎる。
明日も違う夢を見てしまったらどうしようか、なんて考えながら、今日も夢売りに連絡をした。
寝床に入ると5分ほどで夢の中へ入る。
今日の夢は暗闇から始まった。
「薫~?薫?」
「なに、遙真!てかどこにいるの」
声は聞こえるのに、周りは真っ暗だ。
まるで街灯のない夜道を歩いているような…
不意に、僕の手に何かが触れた。
うわっ!と声を上げ、反射的に手を引っ込める。
すると暗闇は晴れていて、隣には薫が立っていた。
「ちょっと大丈夫?」
やっとだ。
今日はボブ・サップもいなければ、風船もない。
夢の中のソファに座っていた。
やっと会えた。
「ごめんね、また日があいちゃった」
「本当だよ全く。それで、やりたいことって何なの?」
「そうだなぁ…。薫は死ぬ前に何をしたかったか覚えてる?」
薫は頭を悩ませたあと、急に死んだから覚えてないなぁ…と呟いた。
「それじゃあ今日は、お花見に行かないかな」
「お花見!?もう桜は散っちゃってるよ」
「確かに僕の世界では桜は散ったよ、もう葉桜だ。けれど、ここは夢の中だから何だってできるはずでしょ」
アパートから一歩外に出ると、そこは満開の桜が咲いた公園だった。
「え…!?まじで…」
驚く薫の手を引いて、桜の木の下のベンチに座る。
周りに人が一人もいないから、ここは僕達だけの特等席だ。
「綺麗…すごい」
優しい春風に吹かれて散る桜が、薫の頭にヒラヒラと落ちる。
僕はそれを払おうとしたけど、やめておいた。
「こんなにいい場所で、こんな綺麗な桜見たの初めてかも」
「僕もだよ。夢じゃないとこんなこと絶対できない」
目の前の桜に釘付けの薫を見て、サンドイッチでも持ってくれば良かったなんて後悔する。
しばらく桜を楽しんだ薫は僕の隣に腰掛けて、またご飯は何を食べたのか聞いた。
「怒られてからちょっとずつ自炊することにしたんだ。2日前はカレーライス、昨日はハヤシライス」
「いやどっちも同じじゃんか!」
「違うでしょ。カレーはカレー、ハヤシはハヤシ」
「ふはっ、何言ってんの!?」
僕が真面目に答えたというのに、薫はツボに入ったらしく爆笑している。
元気な笑い声につられて、何がおかしいの、と僕も笑う。
久々にこんなに大声で笑ったな…
「ね、薫…」
話しかけようとしたら、また魔法が解けた。
さすがに今は、タイミングが悪すぎる。
あんなに楽しい夢を見たのに身体が重い。
今日はバイトが休みだから、二度寝してしまおうか…
目を閉じて、次に起きたのは夕方の4時をすぎていた。
冒頭の遙真が見た薫以外の夢は、すべて私が見たことのあるものです。
実話です。
今回もよんでくださり、ありがとうございます!
藤咲