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はじめまして、成川 遙真 と申します。
インターネットで広告を見つけ、気になったのでメールを送らせていただきました。
よろしければ、詳細の方を聞かせていただけないでしょうか?
よろしくお願いします。
堅苦しい敬語で埋まったメールを確認し、送信する。
そして僕はケータイの前に座って、返信が来るのを待った。
待って、待って、ずっと待っていた。
1時間が経ってケータイが静かだったら、他の方法を探そう。
30分が経ってからコーヒーを入れていると、メールが来たことを知らせる音楽が流れた。
コンロの火を消し、お湯も注がずに僕はケータイを開いた。
宛名は『夢売り』
はじめまして、成川様。
広告をご覧いただき、ありがとうございます。
ざっくり説明致しますと、成河様の寿命と引き換えに、夢売りが1日分の夢をお売りいたします。
詳細はとても長くなってしまうので、実際にお会いして説明したいのですが、いかがでしょうか?
ご検討よろしくお願いします。
ホームページとあまり変わらない内容のメールに、少しがっかりした。
実際に会うってどういうことだ?
そんなに長い説明があるんだろうか。
一瞬迷ったが、僕は行くことにした。
騙されたら騙された時に考えればいい。
第一寿命なんてどうやって取るんだ。
その後何通かやり取りをして、2日後の15時に駅前で待ち合わせ、という約束を取り付けた。
これで薫に会えるのか。
もし会えなかったらどうするのか。
期待と不安に包まれて眠った2日間は、やっぱり夢を見なかった。
2日後の15時ぴったりに、僕は駅前にいた。
そう言えば、お互いの服装や特徴について何も話していなかった。
さっきどんな服装で来るか教えて欲しい、とメールを送ったが、返信はなかった。
5分程して、後からトントン、と背中を叩かれた。
振り返って、声を上げそうになった。
「成川 遙真様ですか?」
「あ…はい」
「よかった、違ったらどうしようと思ってました。はじめまして、夢売りです」
どうして僕が驚いたかというと、夢売りの服装が原因だ。
真っ黒なパーカーと長いズボン、踵が少し高くなったブーツ、リュックサックに、マスクまで黒かった。
要するに、全身真っ黒。
おまけにフードを被っていて、目は見えない。
ニンマリと笑う鼻と口だけが覗いており、不気味さを引き立てた。
こんなこと言っちゃ失礼だけど、僕は死神に見えた。
やばい人だ、帰らなきゃ…と思ったが、薫のことが頭に浮かぶ。
ここで変えれば、僅かな可能性を自分で潰すことになるのだ。
「今日は、よろしくお願いします」
愛想笑いをなんとか貼り付け、死神…夢売りの方を見た。
「こちらこそ。立ち話もあれなので、カフェに行きませんか?行きつけのカフェがあるんです」
連れていかれたそこは、案外綺麗なカフェ。
人目につかない地下にあったために若干警戒したが、杞憂だったみたいだ。
「さて、話を始めましょうか」
コーヒーを一口飲んで、夢売りは笑った。