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「ねえ!ねえってばー!起きろー!」
「うるさいなぁ…僕まだ寝てたんだけど…」
目を開けると、顔のすぐ前に薫の顔があった。
あぁ、なんだお前か…
「は!?」
「うわ、なによ」
驚いて、反射的に起き上がる。
薫も驚き、僕の顔にぶつかるまいと素早く顔をどかした。
「なんでいるんだよ、お前死んだんじゃなかったの」
「死んだよ。死んだけど…ここは遙真の夢の中だもん」
夢の中…?
辺りを見回すと、すぐに夢だと理解出来た。
ここは薫と僕が一緒に住みたい、と話していたアパートの一室だったから。
そして、先日先に住む人が決まったから、と見送った部屋だった。
「ごめんね~死んじゃって…私もびっくりだよ」
「僕の方がビックリしたよ。即死とか言われるんだもん」
「ほんとだよね~!トラックの運転手何してたんだっつーの」
轢かれたことを、バイト先であった嫌なことのように愚痴った。
「たしか、スマホ見ながら運転してて信号が赤なの見逃してた…とかニュースで言ってた」
「ふーん、AVでも見てたのかな」
「おい、女の子がそんなこと言うなって」
薫が生きていた頃と何も変わらない話し方が、すごく心地よかった。
「あっ、ねぇちょっとあれ!晩御飯なんなの!?」
晩御飯…というのは、おそらくゆで卵のことだろう。
あれ見られてたのか…。
「いや、2個食べたからいいかなーって」
「駄目でしょうが!将来糖尿病になっても知らないからね」
妻のように僕を叱りつける薫は、どこか楽しそうだった。
ふと、目の前がぐにゃりと歪む。
なんだ、と薫の方に手を伸ばすも、その手は虚しく空を切る。
「きっと夢が覚めるんだよ」
声が遠ざかっていく。
まだ、まだ終わってない。
やりたいことも、言いたいことも沢山残ってるのに。
「また、会いに行くよ」
ポツリと呟いたそれが薫に届いたかはわからない。
次に目を開けると、僕はベッドの上だった。
『夢の続きを見る』
『夢の続き 見る』
『夢の続きを見る方法』
薫が夢に出てきてから、4日たった。
僕はその間、1度しか夢を見ることが出来なかった。
しかもその夢が、自分の身長の3倍の黒猫に追いかけられる、という夢だった。
一生懸命走っているのに、一向に前に進めなかった。
あんな夢は一生見たくない。
僕の検索履歴は、夢の続きを見る方法を調べたものばかりだった。
見たい夢を紙に書いてそれを枕元に置いてみたり、眠る前に見たい夢を思い浮かべてみたりした。
けれど、どれも上手くいかなかった。
元々夢を見ない、というのもあるかもしれない。
不意に、夢の続きを見られます!という胡散臭い文章の下の方に、興味深い広告を見つけた。
『見たい夢を自在に見られる!?夢を売ります!』
赤と黄色の文字で、目立つように書かれていた。
夢を買うことが出来る、ということなのか?
そこにアクセスすると、怪しすぎるページが出てくる。
「あなたの寿命1週間分につき、1日分の夢をお売りいたします」
「必ず見たい夢が見られます」
胡散臭い…。
ひとつ前のページの5倍くらい、胡散臭い。
でもしこれが本当なら、また僕は薫に会いに行くことができる。
ウイルスサイトかもしれない、やめておこう。
そう思った僕は、ページの下のほうに書いてあったメールアドレスに、メールを送ってみたのだった。