君は何処にいますか? 何人いますか?
僕はいつも一人だった。
勉強もできなければ、人に話しかけることもできなくて…ずっと本ばかり読んでいたらいつの間にか、自分の周りから友達と呼べる人は居なくなっていた。
高校に上がっても根暗な性格は直らない、それどころか他人が怖くなるばかりで悪化していく一方だった。
そんなある日のこと、本を読んでいると一人の女の子が僕に話しかけてきた。
「何読んでるの?」
驚いて顔を上げると美人で、頭もよくて、人望も厚い。僕とは真逆な立場の子だ。
「君には関係ない…」
自分でも驚くほど小さい声だったが、女の子はこの言葉が聞こえたのか、何も言わずにどこかへ行ってしまう。
しかし、次の日になると同じようにまた話しかけてくる。その次の日も、さらに次の日も。
この事がだんだん噂されるようになって、耐えきれずに僕は女の子にどうして話しかけてくるのかを聞いてみた。その答えは僕には意外だったが、周りからしてみたら普通の答えなのだろう、その答えは
「友達になりたいから」
僕は戸惑いながらも、自分の世界が崩れていくのが怖かった。どう話していいかも分からない、なにをすればいいのかも。
その日から自分の中のなにかが変わった。その子の事を目で追うようになっていた。
そこで分かったのが、誰に対しても人あたりがよくて、慕われているのがすぐに分かる。
女の子は目線に気がついたのか、こちらへ近寄ってきて話しかけてくる。
「私ね、友達が欲しいんだ」
何を言っているのかよく分からなかったが、女の子は続ける。
「周りは私のことを慕ってくれるけど、誰も私を私として見てくれない。でもね、あなたは違う気がしたの」
最初はふざけてるのかと思っていた。だけど、相手は僕のことをちゃんと見てくれているのだと少しずつ気づいた。
君は何処にいるんだろう。その考えが脳裏をよぎる。ずっと話しているうちに、その子のことばかり考えるようになっていた、
君は何人いるのだろう。毎日毎日、色々な人と話している彼女の素顔はよくわからない。まるで十面相のように。
独りだった自分に、独りじゃないことを教えてくれた。
だけれど、別れの日は突然にくる。
青信号を渡っている最中、向こうにいつもの女の子の姿が見える。
話しかけに行こうかと、歩く速度をはやめようとした瞬間。
暴走したトラックが僕の体を跳ねていく。それに気がつく女の子。ここまで走って駆け寄ってくる。
「大丈夫!? 今救急車呼ぶから!」
自分のために女の子は血相を変えて動いてくれている。周りは慌てるだけの通行人。なにかをしようと行動するわけではない。
「ごめん、ダメだ。」
これは轢かれた瞬間悟った事だった。女の子は目に涙を溜めて、一気に流した。僕はそれにつられるように涙が流れていく。
君は何処にいるんだろう。すぐ近くにいるはずなのに、もう会えなくなってしまう。
君は何人いるのだろう。涙を通して見た顔は、三重にも四重にも見えて、本当の顔は見えない。
ありがとう。
これだけを伝えて、僕は息を引き取った。