じゃがバターとポテトチップス……の予定が
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レッカさんにもらったジャガイモは、大小色々なサイズが混じっていたので手頃なサイズはじゃがバターに、大きすぎたり小さな物はスライスしてポテトチップスにする事にしました。
かなりの量を蒸す必要があるので、昔家で餅つきをしていた頃に使っていた3段の蒸し器を納戸から探し出して、一番下の鍋に湯を沸かしている間にジャガイモを洗います。
「何か手伝うか? サクラ」
手持ち無沙汰そうに私の後に立っていたレオンがそう言ってくれたので、ジャガイモのスライスをお願いする事に、
「ん? これ結構柔いな、簡単に壊れそうで意外と力加減が難しい……ぱきっ……サクラ、すまん」
プラスチック製のスライサーが割れちゃった、結構長い間使っていた物だから劣化してたのか、レオンの力が強すぎたのか、壊れた物は仕方ないよね。
「大丈夫、予備のスライサーも探せばあるはず。でも今は時間も無いから、残りはフライドポテトにするね」
笑ってそう言ったら、レオンは苦笑いしながら頭を搔いて、
「なんか仕事増やしたみたいで、すまん。でも、ここで見ててもいいか? サクラが料理してるの見るの、好きなんだ」
だって、今回のは料理って言える程の物じゃないけど、なんだか照れるな。
フライドポテト用にジャガイモを切っていたら、お湯が沸いたので蒸し器をセットして電気フライヤーをテーブルに準備。
普段の揚げ物はフライパンでするんだけど、ガスコンロで大きな蒸し器を使ってるから、ちょっと危険な気がするんだよね。
揚げ物中は目が離せないから、フライドポテトを揚げるのに集中していたら、
「ポテポテ蒸し上がったぞ、串がすっと刺さったらいいんだよな。出来たやつからマジックバッグに入れとくぞ」
なんて、蒸し器の方はレオンがしっかり見てくれてました。それにしても、状態保存付きのマジックバッグって本当に便利、出来たてを入れておけば何時でも熱々を食べられるんだから、日本にいた時これがあったらなぁ。
「ありがとう。こっちも揚げたてよ、レオン味見する?」
揚げたてフライドポテトに塩を振って、箸でつまんだ1本をレオンの口元に差し出せば、
「はふっ、熱っ……美味い!! サクラもほら、あ~ん」
箸を奪われて、あ~んのお返しをされた……家に居るのはレオンと私の2人だけだからと、素直に口を開けて食べさせてもらうと、
「あらあら、仲が良いわね~。独り身には、目の毒だわ~」
台所の入口で、ブランさんがニヤニヤ笑って立ってました。
「ブラン、お前勝手に家の中まで入ってくんなよ!」
「あら、一応玄関で声はかけたのよ。でも返事は無いし、鍵が開いてたから入ってきたんだけど? それにレイちゃんが居ないみたいだけど、何かあったの?」
いちゃいちゃを邪魔されたレオンの不機嫌そうな台詞に、からかう様な笑みを浮かべたブランさんが反論してる。
「レイなら今、ドワーフの村でガキ共と遊んでるぞ。俺達もすぐ、あっちに戻るけどな」
「ドワーフの村? さっきから良い匂いしてるサクラちゃんが大量に作ってるソレ、持ってくの?」
「おう、ブランも一緒に行くか?」
レオンってば、急にニヤニヤ笑ってそんな事を言い出したけど、もしかしてブランさんにも共同浴場作りを手伝ってもらうつもりなのかな?
「ふ~ん、何か裏がありそうだけど、まあ良いわ。私も一緒に行く」
訝しげにしながらも、ブランさんも一緒にドワーフ村に行く事が決まり、2人が話してる間もせっせと揚げていたフライドポテトは全部出来上がりました。
レオンがそれをマジックバッグに詰めている間に、蒸かしたジャガイモにつける調味料を冷蔵庫から出して用意してっと。
ニャタロウ君家のモウモウ乳バターは勿論、マヨネーズ、ケチャップ、醤油、最後にイカの塩辛。
この前ブルーノさんが新鮮なイカを大量に持ってきてくれたから、手作り塩辛に挑戦してみたの。
結婚美味しく出来たので、ブルーノさんにもお裾分けしたら、お酒のおつまみとして気に入ったらしく、
「サクラー、シオカラもっとくれー! 材料はいくらでも持ってくから」
って言われて、一夜干しと一緒に大量生産したんです、ちなみに一夜干しと塩辛はレオンにも大好評でした。
北海道では、じゃかバターに塩辛を乗せて食べるのが定番、とかテレビで見た事があるし、お酒好きのドワーフの皆さんなら絶対はまる味だと思うんです。
「おやつで~す、休憩して下さ~い」
「おちゃどうじょー」
ドワーフの子供達と一緒に、レイちゃんも楽しそうにお手伝い中です。
「おっちゃーん、休憩だって言ってるべー。早く来ねえと、おやつ無くなるべよー」
「おやつ、おいしーのよ。はやくきてねー」
建設現場は危険もいっぱいということで、大きな子達が小さい子と手をつないで休憩を呼びかける姿は微笑ましくて、仕事に厳しい職人揃いの大人達も素直に休憩してくれるみたいです。
「この茹で卵凄いべ、何で白身がこんなとろっとしてるだべ」
「白身だけじゃないべ、黄身もぱさぱさしてねえべ……この茶色い汁と一緒に食うと美味いべー」
村長の奥さんとドワーフ村で鶏を飼って卵を売ってる奥さんが温泉卵にびっくりしてます、でも黄身がぱさぱさって半熟茹で卵も無かったの? それなら、温泉卵は衝撃だよね。
「温泉卵は沸騰した熱いお湯じゃ無くて、この小さい湯溜まり位の温度のお湯に、30分程度浸けると出来るんですよ」
「30分程度って、どの位の長さだべ」
村長さんの奥さんに聞かれて思い出した、この世界には時計が無かったんだった……そうだなあ、
「共同浴場ができたら、ここに来た時に生卵をお湯に浸けて、帰りに引き上げたらちょうど良い位かも? 今回はメンツユで食べてもらいましたが、スープに入れたりパンに乗せても美味しいですよ」
と教えてみたら、温泉卵に群がっていた奥さん達は手軽におかずが一品増えるかもと、きゃあきゃあ喜んでます。
「これポテポテだべか? このバターってのを付けて食うと、まるで別物だ。塩気とコクのハーモニーが」
「何言ってるべ、バターよりマヨネーズだべ!」
「お前らバカか、ポテポテに一番合うのはこのバターとシオカラの組み合わせだべ!! このちょっと生臭ささのある塩気がポテポテに旨味をプラスするんだべ。このシオカラは絶対、火酒に合うべ!!」
「「「お前、天才か!!!」」」
こっちでは、大人の男性陣が塩辛に大興奮してます、やっぱり酒好きさんは塩辛好きですねー。
「伴侶様、このバターとマヨネーズ、後シオカラはとうやったら手に入るだべか?」
そんな大騒ぎの男性陣をみて、私と一緒にポテポテを配っていた女性におずおずと聞かれた。
「バターは獣人族の里で作ってますよ、マヨネーズは卵と酢と油で作れるので、後で作り方を教えますね。塩辛も新鮮なイカと塩だけで作れるんです、材料さえ手に入ればいいんですが」
そう答えたら、女性はほっとしたような顔で大きく息をつく。
「良かった、それなら獣人の里と人魚の里との魔道具の物々交換で手に入りそうだべ。この調子だとシオカラが手に入らないと父ちゃん達が暴れるべな」
えーっと、家の冷蔵庫にある塩辛、少しレッカさんに預けておこうかな……
「なんだかすいません。簡単に手に入るか分からない物、持ち込んじゃって」
「あはははっ、大丈夫。美味しい物は大歓迎さ、手に入らなくても父ちゃん達が萎れるだけだから気にしない、気にしない」
私が謝ったら、その女性は豪快に笑ってそう言ってくれたから、ほっとしました。
「このフライドポテト、父ちゃん達に内緒ってやばくねえべか?」
「父ちゃん達に渡したら、おら達の口には入らねえべ」
「んだんだ、正直ポテポテなんて食い飽きたって思ってたべが、油で揚げるだけでこんなに美味くなるべな」
端っこの方で大人達に背を向けて、子供達がフライドポテトに群がってます、ってあれ?
「いくら美味しくても、子供だけでこれを作っちゃダメよ! 油と火は扱いを間違ったら火事になるからね」
子供達だけだと思ってたら、大人の女性も混じってたみたい……ドワーフって男の人は、背は低いけど筋肉質のヒゲマッチョなので大人と子供の違いが分かるけど、女の人は合法ロリ? って感じの可愛い見た目だから大人と子供の見分けがつきにくいんだよね。
まあ、何はともあれドワーフさん達にじゃがバターもフライドポテトも好評みたいで良かった。