ドワーフ温泉 建設中
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
寒くなってきました、皆様お身体に気をつけて下さいね。
「こ、こ、黒竜様ー!! 腐り水に浸かると魔力が回復するって、本当だべかー?」
「魔力切れでぶっ倒れた爺さま連れて来ただす。さあ、放り込むだすよ」
数人の村人がどどどどっと走って来た後から、ぐったりしたお爺ちゃんを背負った村長さんが走ってきて、温泉に放り込もうとしていたので、慌てて止める。
「ちょっと待って下さい! 服を着たままではダメですよ、それに金属製の物をこのお湯に浸けると、酸化しちゃいますよ」
私の声に、温泉に飛び込もうとしていた村人達も急ブレーキをかけて止まったんだけど、次の瞬間村長さんの悲痛な叫び声が上がった。
「酸化……うぎゃーっ!! おらの、おらの大事な短剣が……真っ黒だすー!」
そういえば、村長さん服を着たまましばらく温泉に浸かってたものね、すぐに言えば良かったんだけど忘れてた。
「あんた!! 服着たまま腐り水に浸かったって……あ~あ~、一張羅にシミが出来たらどうすんだい! しかも腐り水の臭いが染み付いちまってるじゃないか」
「母ちゃん……すまんだす……許してほしいだす」
その上、いつの間にかそばに来ていた奥さんに叱られて、しゅんとなってしまった村長さんが気の毒になっちゃった。
「うほぉーっ! 魔力が、魔力が回復してるだっぺよ」
「臭いさえ我慢すれば、こりゃあ良いもんだすな」
「はっ、爺さまも早く浸けてやらんと……ほれ、服脱がすぞ」
村長さんと奥さんのやり取りを見ている間に、私達の後でぱぱっと服を脱いだ村人達が温泉に浸かって効果を確かめていたみたいで、魔力切れのお爺ちゃんを温泉に入れる為に服を脱がそうとしてます。
「ちっ、お前ら羞恥心ってもんがねえのかよ! サクラやレイに汚えもん見せるな」
レイちゃんにドワーフさん達の裸が見えないように引き寄せたら、レオンが魔法でずごごっと後との間に土の壁を作ってくれました。
「いつもありがと、レオン」
その後、温泉に魔力回復効果があることが実証され、ドワーフ村で温泉をどうするかの会議が再度開かれた結果、温泉は埋めずに共同浴場を作って皆で利用することになったんです。
鍛冶仕事や魔道具の製作に魔力を使う職人さん達は、お湯に浸かるだけで魔力が回復するということに興味を示し、奥さん達は職人の旦那さんが仕事で結構汚れて帰ってくるけど、毎日お風呂を沸かすのは大変、でも汚い体のままだと困るって悩んでいたのがあるみたいですけどね。
とんてん、かんてんと木に釘を打つ音が森に響きます、共同浴場は村人全員で作って、何処かが壊れたり傷んできたらまた村人全員で修理する事で無料で利用出来るようにするそうです。
そのうちエルフや人魚族の女性達が、美肌効果を求めて温泉に浸かりに来そうですが、その時は果物や野菜、魚介類との物々交換で、なんて話してましたね。
「おい! 男風呂と女風呂分けるのか、それとも混浴にするのか、まだ決まらねえのか?」
「ちょっと待ってくれだす、皆勝手なことばっか言ってて、決まらないんだす~」
レオンは最初に作った岩風呂を気に入ったドワーフの職人さん達に頼み込まれて、共同浴場の露天風呂を作る事になったんですが……
お湯に浸かったら見えないんだから混浴が良いと言う男性陣と、家族以外に裸を見られるのも見るのも嫌だと言う若い女性陣の意見が平行線で、なかなか決まらないんですよね。
内風呂は空気がこもるから、温泉の場合換気が重要だったはずで、作るのが難しいと却下されたし、時間交代制は入りたい時に入れないのは不便等々、それを聞いてたレオンがイライラしてきたみたい。
「あーっもう面倒くせえ!! 3分割して混浴エリアを作りゃいいだろ」
「「「3分割?」」」
しびれを切らしたレオンがそう叫んだものの、ドワーフの皆さんは?って顔をしているのを見て、たしか日本にもそんな温泉があったなと思い出して、地面に絵を描きながら説明する。
「脱衣所は別々に作ってるから、そこから洗い場と湯船にこんな風に壁を作って、女風呂、男風呂、混浴エリアって造りにするって事ですよね」
「「「それだ~!!」」」
絵を見て納得した皆さんが賛成したので、大きな楕円の湯船をY字に塀で区切って混浴エリアを作る事になりました。
「洗い場の床は湯で滑らねえように、排水性の良い石使っとけば良いだろ。仕切り壁はどうする?」
「仕切り壁は高さも必要だっぺ、木で作ったほうが良いだっぺ」
共同浴場を作る職人さん達の活気ある雰囲気の中、脱衣所のロッカーを作ってくれていた職人さんに呼ばれた。
「黒竜様の伴侶様~、脱衣所の棚はこれで良いだべか? 言われたとおり、棚の扉を開けると横の人が見えねえ位の大きさで作ったべ」
急いで出来上がったものを見に行くと、ドワーフの子供、ドワーフの大人、私、それぞれの肩までの高さを基に扉の高さを調整したロッカーが出来てました。
このサイズのロッカーだと扉を開けたままで着替えれば、隣の人からこちらの体が見えにくいんだよね、こちらの人は割とそういうの気にしない人が多いけど一応ね。
「うわっ、やっちまった! レッカ、ちょっと来てくれ」
外からレオンの大声が聞こえて、あわてて私もそこに向かうと、
「悪ぃ、ちょっと湯量が少ないかと地下の湯溜まりを探ってたら、別の場所から湧き出しちまった。しかもこっちは温度が高いんだ、風呂の湯にはむかねえ」
レオンの居たのは脱衣所の建物から少し離れた場所で、石臼サイズの小さな湯溜まりのそばで、
「なんだい、わざわざ私を呼ぶから何事かと思ったら、こんなちょっぴりの湯量じゃないか」
レッカさんと村長さん夫妻も一緒に、その湯溜まりを覗きこんでいました。
「いや、これマジで熱いんだ。手を突っ込んだら火傷するくらい、だからって勝手に埋めるのもな」
「別に勝手に埋めても良かったのに……まあ確かに熱いねえ、65℃位かね」
65℃位か、温泉卵を作るにはちょうど良い温度だよね、たしかドワーフ村には普通の鶏も飼われていたよね。
「ねえ奥さん、卵をいくつか分けていただけませんか? この熱いお湯に卵を浸けて、温泉卵を作ってみたいんですが」
村長さんの奥さんにお願いをしていたら、レオンが目を輝かせた。
「温泉卵って、この前食べたアレか? 普通のゆで卵と違って、とろっとしてて美味かったよな、アレがこの湯で作れるのか?」
「温泉卵? 黒竜様がそう言うって事は相当美味いんだべ、おらも食べてみたいだべ! 母ちゃん、卵有るだけ持ってきてほしいだべ」
レオンの言葉に即座に村長さんがそんな事を言いだし、レッカさんもうんうん頷いてるのを見て、奥さんは家に向かって走り出しました。
「トラさ~ん! 鳥達が今朝産んだ卵、有るだけ分けてくんろ~」
「レッカさん、卵をこのお湯に30分位浸けておけば出来ます、私は他に何か皆さんにおやつを用意しようと思うので、後お願いして良いですか?」
温泉のすぐ近くとはいえ冬の屋外での建築作業、体は冷えるし体力も使うから、温かい物が良いよね。
「サクラちゃん悪いねえ。卵を湯に浸けるだけなら、私にも出来るから任せて。そうだ今年はポテポテが豊作でね、これでおやつを作ってやっておくれ」
なんて考えてたらレッカさんから大量のポテポテ、じゃがいもをもらってしまった……そうだおやつは「じゃがバター」にしよう。
「うっかり足突っ込んでも危ないから、これちょっと上に上げるぞ」
レオンの言葉のすぐ後、ズゴゴッっと岩が地中から出てきて、まるで石臼のような状態で湯溜まりが上がってきた。
これなら卵を茹でるのもやりやすいし、間違って熱いお湯にはまる人も出ないよね。
「レッカさん、茹で時間が長いと普通のゆで卵になっちゃうので、それだけ気をつけて下さいね」
レッカさんにお願いして、私はレオンにお願いして一度家におやつを作りに帰ります、レイちゃんはドワーフ村の子供達と遊びに夢中で、
「レイちゃん、ここであそんでる~。かーしゃま、すぐもどってくるよね」
って言われちゃった、子供達も奥さん達もレイちゃんの事は任せてって言ってくれたし、お願いしちゃいます。
そのかわりに、おやつ作りは頑張りますよ!